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「器用な優等生」矢口真里から「頼れる姉御肌」大久保佳代子の時代へ

ラリー遠田作家・お笑い評論家

最近の芸能界で起こった最も衝撃的なニュースと言えば、矢口真里さんの不倫スキャンダルでしょう。自宅で不倫をしていたことが大々的に報じられて、結婚相手の中村昌也さんとは慰謝料を支払って離婚。矢口さんはすべてのレギュラー番組を降板して、表舞台から姿を消してしまいました。

そんな矢口さんを尻目に、ここ最近グングンと人気が上がっているのが、オアシズの大久保佳代子さん。性欲むき出しのキャラクターが評価されて、レギュラー番組も急増。2013年4月には『大久保じゃあナイト』(TBS系)、『だんくぼ』(テレビ朝日系)という2本の冠番組も始まりました。その勢いはとどまるところを知りません。

矢口さんは、明るくさわやかなキャラクターを売りにしていました。そして、「ワイプの女王」と呼ばれるほどリアクションの技術が高く、制作スタッフからも信頼されていました。「求められた仕事を器用にこなす」ということにかけては、間違いなく芸能界でも屈指の逸材だったのです。

ただ、そんな矢口さんの唯一の欠点は、アイドルという殻をなかなか破れなかった、ということ。デビュー当時は未成年だった矢口さんは、ずっと実年齢よりも若く見られていました。30歳なのにいつまでも子供のように思われがちで、等身大の30歳の自分を表現することができませんでした。

一方、大久保さんは、アラフォー女性のリアルな生き様を体現しています。40代の女性にだって性欲はあるし、イケメンには心をときめかせるもの。同世代の女性が人前ではなかなか口にしないような本音を、大久保さんは堂々とぶつけてくれます。臆することなく実感のこもった言葉を口にすることで、彼女は同世代の女性視聴者から圧倒的な支持を得ています。

そして、大久保さんがどれだけ下ネタを言っていても、そこには生々しさがなく、カラッと乾いた印象を受けます。そう感じられるのは、彼女が実際にはそこまで奔放に遊んでいるようには見えないからです。あくまでも想像を膨らませているだけで、現実におけるモテモテ感や肉食感はゼロ。その感じもまた、42歳の女性としてはリアリティがあります。

矢口さんも大久保さんも、独り立ちして働く女性の理想像を示しています。どちらも大人の女性として、仕事をこなしながら主体的に生きる道を選んでいることに変わりはありません。

ただ、矢口さんはアイドルという看板を背負っていて、その呪縛から逃れられず、道を踏み外してしまった。一方、大久保さんは、お笑い芸人という免罪符を持って、すべてを笑いに変えて力強く生きています。ここが2人の大きな違いです。

思えば、2013年6月に行われたAKB48選抜総選挙で1位になったのも、スキャンダルが原因で福岡のHKT48に移籍処分となった指原莉乃さんでした。彼女は、7月2日放送の『踊る!さんま御殿!!』(日本テレビ系)にて、一連の騒動を振り返って「あれがなかったらこういうことにもならなかった。あの週刊誌には感謝しています」と語りました。今の時代、現役のアイドルにすらここまで堂々とした開き直りが求められているのです。

矢口さんも、デビュー当初のモーニング娘。時代には本音で勝負していたはずです。モーニング娘。は、『ASAYAN』(テレビ東京系)という番組から生まれたユニットで、ドキュメンタリー形式で裏舞台も包み隠さず見せていく、というのがコンセプトになっていました。

ところが、モーニング娘。を脱退してソロ活動が始まると、矢口さんは少しずつ持ち前の器用さを発揮して、いつのまにか普段の姿を隠して、とりつくろうようになってしまった。いわば、矢口さんの悲劇とは、モーニング娘。時代の原点を忘れたことによる悲劇だったと言えるのかもしれません。

「きれいごとを並べる器用な優等生」の矢口さんの時代から、「本音をぶつける頼れる姉御肌」の大久保さんの時代へ。世の中のムードは少しずつ移り変わっているのです。

ただ、矢口さんほどの才能を持ったタレントが、このまま引き下がるとも思えません。いずれ今回のことも糧にしてたくましく蘇ってくるはずです。そのとき、開き直って"大久保"化した矢口さんがどんな本音をぶちまけてくれるのか? 今から楽しみにしています。

作家・お笑い評論家

テレビ番組制作会社勤務を経て作家・お笑い評論家に。テレビ・お笑いに関する取材、執筆、イベント主催など、多岐にわたる活動を行う。主な著書に『松本人志とお笑いとテレビ』(中公新書ラクレ)、『お笑い世代論 ドリフから霜降り明星まで』(光文社新書)、『教養としての平成お笑い史』(ディスカヴァー携書)、『とんねるずと『めちゃイケ』の終わり<ポスト平成>のテレビバラエティ論』(イースト新書)、『逆襲する山里亮太』(双葉社)、『なぜ、とんねるずとダウンタウンは仲が悪いと言われるのか?』(コア新書)、『M-1戦国史』(メディアファクトリー新書)がある。マンガ『イロモンガール』(白泉社)では原作を担当した。

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