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巨大組み体操 一部学校で継続 9段ピラミッド達成も 

内田良名古屋大学大学院教育発達科学研究科・教授
(ペイレスイメージズ/アフロ)

 スポーツの秋。全国の学校では、運動会(体育祭)が開催されている。

 つい2、3年前まで運動会の時期になると私は、「また巨大組み体操で子どもがたくさんケガをする」と危機感をもち、情報発信に力を入れたものだった。だが、今日組み体操はそのあり方が見直され、安全志向が高まった。

 と思っていたのだが、運動会の現状について事例を収集し、またデータを分析してみたところ、いまもいくつかの地域・学校で高層の組み方が披露されている。巨大組み体操問題は、けっして終わっていない。

■スポーツ庁の通知と事故件数の減少

拙稿「組み体操の事故35%減少 対策の成果と今後の課題」(2017年10月10日付) ※ヤフーニュース個人「リスク・リポート」より
拙稿「組み体操の事故35%減少 対策の成果と今後の課題」(2017年10月10日付) ※ヤフーニュース個人「リスク・リポート」より

 2016年3月、組み体操における負傷事故の多発を受けて、スポーツ庁は「組体操等による事故の防止について」という通知を発出した。これにより全国一斉に、組み体操指導の見直しが進んだ。

 私は2014年5月以降、「リスク・リポート」に組み体操関連の記事を計25本発表してきた。そして昨年10月には事態の改善を受けて、「組み体操の事故35%減少」と題する記事を発表し、それを一区切りとして、状況を静観していた。

 もちろん、昨年10月の時点でも7段や8段のピラミッド、5段のタワーなど、巨大な組み方が披露されていたことは、私も適宜確認してきた。だが、それは最後の灯火だと考え、きっと今年はもうその灯火も消えるだろうと願い、静観をつづけていた。

■いまも9段ピラミッドが・・・

 ところがこの秋の運動会においても、SNS上ではたとえば中学校では8段のピラミッドや5段のタワー、小学校でも7段のピラミッドの画像を、複数件確認することができる。春の運動会のときには、ある中学校で9段のピラミッドも披露されている[注1]。

 一時の全国的な巨大化ブームは過ぎ去った。だがいまも特定の地域や学校では、巨大組み体操がこれまでと同様に継続されているようである。

 そして私が調べた限りでは、関西圏の学校において、そうしたケースが多く確認できる。

■スポーツ庁通知後 巨大なものは大幅に減少

 組み体操による負傷事故が全国でもっとも多く発生している兵庫県では、2015年度より教育委員会が県内の公立小中学校に対して、組み体操の実施・事故状況について詳しい調査を実施している[注2]。

 調査結果の資料をもとに、2015~2017年度の変化をまとめてみよう。

 規制の代表例として多くみられる「ピラミッドは5段まで」「タワーは3段まで」[注3]を基準にして、「ピラミッドは6段以上」「タワーは4段以上」を巨大組み体操とみなして、その実施校数の推移を図示した。

 図を見ると、2015年度と2016年度の間に大きな断絶が確認できる。これはスポーツ庁の通知(2016年3月)を境にして生じたと考えられる。

 組み体操指導の見直しという全国的な動向のなかで、兵庫県内においても巨大な組み方が一気に抑制されるようになったといえる。兵庫県内においてもとくに神戸市は2016年3月に段数の制限を各校に求めており、その影響も大きい。

■実施校数の下げ止まり

巨大組み体操(ピラミッド6段以上、タワー4段以上)を実施した学校数の推移 ※兵庫県による調査資料の各年版の数値を筆者が集約・作図した
巨大組み体操(ピラミッド6段以上、タワー4段以上)を実施した学校数の推移 ※兵庫県による調査資料の各年版の数値を筆者が集約・作図した

 注目すべきは、その後である。

 すなわち、2016年度から2017年度にかけて、小学校と中学校のいずれにおいても、ピラミッド6段以上ならびにタワー4段以上の実施校数が、ほとんど変化していない。下げ止まりが生じているのである。

 2015年度から2016年度にかけて、多くの学校が高層化抑制の動きに賛同し、巨大組み体操の実施校数は激減した。ところが、いったん減った2016年度からは、少数の学校が巨大組み体操を存続させているという実態が浮かび上がってくる。

■段数を上げる傾向も

前年度よりも組み体操の段数を上げた学校の数 ※兵庫県による調査資料の各年版の数値を筆者が集約・作図した
前年度よりも組み体操の段数を上げた学校の数 ※兵庫県による調査資料の各年版の数値を筆者が集約・作図した

 さらには2016年度から2017年度にかけては、組み体操の段数を上げる傾向が強まっている。

 兵庫県の資料には、前年度に比べて段数を上げた学校と下げた学校それぞれの学校の数(段数の大きさは関係ない)が、記載されている。

 図を見てみると、小学校と中学校のいずれにおいても、ピラミッドならびにタワーの両者で、前年度よりも段数を上げたという学校の数が、2016年度よりも2017年度のほうで大きい。

 そもそも段数を上げるという発想自体に疑問符を投げかけたいところだが、しかもそうした学校が、2016年度よりも2017年度で増えているというのだ。巨大組み体操への批判からいったんは縮小が進んだものの、徐々にまた段数が上がりつつある。

 巨大組み体操を実施する学校数の下げ止まりといい、段数を上げる学校数の増加といい、巨大組み体操の問題はけっして終わっていないし、復活の兆しさえ垣間見える。

■見えにくくなった巨大組み体操

 ところで、スポーツ庁から通知が出されて以降、組み体操の実態を調べていて感じるのは、巨大組み体操の事例が、とても見えにくくなってきたということである。

 その要因は2つ考えられる。

 一つが、巨大な組み方に取り組むケースが減ったからという単純な理由である。

 事故の多発を受けて、段数や高さを制限(例:名古屋市、愛知県、神戸市、八尾市、岡山市など)、ピラミッドやタワー等の危険性の高い技を禁止(東京都、大阪市、福岡市など)、組み体操そのものを廃止(柏市、松戸市など)といった対応が、各地でとられてきた。その成果として、実際に巨大なものを目にする機会が減った。

■学校は情報を表に出さなくなった

※画像はイメージ:「無料写真素材 写真AC」より
※画像はイメージ:「無料写真素材 写真AC」より

 もう一つの理由は深刻なもので、学校が外からの批判を警戒して、情報を表に出さなくなってきた可能性が考えられる。

 つい数年前まで巨大組み体操は、学校のウェブサイトや学校だよりなどをとおして、その具体的な取り組みの様子が、学校の外部の者に伝えられていた。10段ピラミッドを公式ウェブサイトのトップページに掲載していた学校もあったし、巨大組み体操の練習過程を連日のようにブログで報告する学校も多かった。

 ところがいまは、学校が巨大な組み方に取り組んでいるとしても、その具体的な様子を学校外の者が知るのは、とても難しい

 運動会当日の画像や動画を、ツイッターやインスタグラム、フェイスブックといったSNS上で個人が公開してくれることで、かろうじてその一端を知ることができるだけである(ちなみに、SNS上の匿名性の高い情報から地域や学校を特定するだけでも一苦労だ)。

 いまもっとも懸念されるのは、情報が表に出ないなかでの、巨大組み体操の存続、あるいは組み体操の再巨大化である。

 組み体操では、ようやく事故件数が減り始めたばかりだ。その事故件数を、再び増やすようなことがあってはならない。

注1:公開されている情報とはいえ、学校や投稿者が特定されうるため、本記事内においては具体的なソースを示すことは控えたい。

注2:各都道府県の事故件数については、大阪経済大学の西山豊教授調べによる。詳細は、神戸新聞の記事「小中学校の組み体操事故件数 兵庫が2年連続最多」(2017年11月14日付)を参照。

 また、兵庫県教育委員会による調査の結果については、平成28年度版平成29年度版の情報が公開されている。

 なお調査対象校について、平成27年度版と平成28年度版には神戸市の公立小中学校が含まれているものの、平成29年度版では神戸市は含まれていない。神戸市は2016年3月に、段数制限を含むガイドラインを設けている。本記事におけるデータの解釈は、平成29年度版で神戸市が含まれていないことの影響を考慮したうえでおこなっている。

注3:たとえば愛知県、大阪市(ただし段数制限は2016年度まで。2017年度よりピラミッドとタワーは全面禁止)、八尾市、岡山市などが該当する。

 なお私自身は、「ピラミッドは3段まで、タワーは2段まで」とする、日本体育大学の荒木達雄教授の見解を支持している。詳細は東京新聞の記事「安全な組み体操『ピラミッドは3段まで』日体大・荒木教授の提案」(2016年3月6日付)を参照。

名古屋大学大学院教育発達科学研究科・教授

学校リスク(校則、スポーツ傷害、組み体操事故、体罰、自殺、2分の1成人式、教員の部活動負担・長時間労働など)の事例やデータを収集し、隠れた実態を明らかにすべく、研究をおこなっています。また啓発活動として、教員研修等の場において直接に情報を提供しています。専門は教育社会学。博士(教育学)。ヤフーオーサーアワード2015受賞。消費者庁消費者安全調査委員会専門委員。著書に『ブラック部活動』(東洋館出版社)、『教育という病』(光文社新書)、『学校ハラスメント』(朝日新聞出版)など。■依頼等のご連絡はこちら:dada(at)dadala.net

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