東大生150人に聞いた「土用の丑の日うなぎ食べますか?」「平賀源内のキャンペーン。伝統じゃない」とも
2018年7月20日は土用の丑の日。筆者が2015年6月から農学部広報室会議オブザーバーを務めている、東京大学の、学部生と大学院生あわせて150名(男性113名、女性37名)に、土用の丑の日がいつなのか知っているか、土用の丑の日にうなぎを食べるかどうか、またその理由について聞いてみた。
対象としたのは駒場キャンパスの学生146名と、本郷キャンパスに隣接する弥生キャンパスの学部生・大学院生4名の、合計150名。駒場キャンパスの学生に関しては、東京大学の学生食品ロス削減プロジェクト、代表の高柳剛弘さんと、副代表の本多将大さんに依頼した。弥生キャンパスに関しては、筆者が直接インタビューした。
男女比
対象者を「男女」の2つのみに分けるのは、この時代にそぐわないかもしれないが、便宜上、男女比をとった。
150名中、男性が113名(75%)、女性が37名(25%)。東大生の男女比は3:1なので、ほぼ同数となった。
文理
東大の場合、文と理に分かれているので、その比率をとった。すでに進路振り分けで農学部に進学している2名と、農学生命科学研究科の2名は理とした。
150名中、文が85名(57%)、理が65名(43%)。
土用の丑の日を知っているか?
土用の丑の日を知っているのが150名中114名(76%)。
土用の丑の日はいつ(何月何日)か知っているか?
土用の丑の日の日にちを把握しているかについては、150名中、37名(25%)が「はい」と答えた。
土用の丑の日にうなぎを食べるか?
土用の丑の日にうなぎを食べるかどうかについては、「食べる」が55名(37%)、「食べない」が79名(53%)、「よくわからない」が16名(11%)だった。
なぜ食べるのか、その理由
駒場キャンパスで「食べる」と回答したうちの32.7%は「家族が食べるため」。
生のコメントを見てみると「美味しいからみんなで食べる」「家族が毎年出してくれる」「親が用意している」「母が出してくれたから」「家族で食べに行くから」「家の習慣だから」「家で出されるから」といったような意見が見られた。
次に多いのが19.2%で「慣習を守りたいため」。
生のコメントとして「伝統だから」「習慣だから」「食べることになっているから」「季節の流れを感じるため」などが挙げられた。
同数だった19.2%が「うなぎが単純に好きだから」を理由に挙げていた。
他には「スーパーにたくさんうなぎが並んでいるから」「広告が出ているから」「出先でうなぎが提供されるから」「夏バテ防止」などがあった。
なぜ食べないのか、その理由
駒場キャンパスで「いいえ」と答えた人のうち、50%が「うなぎが高価であるから」。
生のコメントとしては、「貧しいから」「うなぎ高いンゴ」「かかくこうとう(価格高騰)のため」「金欠」「一人暮らしで買うのが大変だから」「一人暮らしでお金に余裕がないから」「金がない」「一人暮らしには高価だから」「うなぎは高いのでそこまで食べるモチベーションがない」「値段が高い上、うなぎを食べるということにそれほど意味を感じない」「うなぎを買う余裕がない」「実家では食べていたが一人暮らしになってからは高くて食べられない」などがあった。
「いいえ」と答えたうち、29%が「土用の丑の日という慣習に興味がないため」と回答した。
生のコメントとして「ミーハーなことはしたくないから」というほか、
「平賀源内がキャンペーンしただけで特に伝統ではないから」というのがあった。
6.5%が「うなぎが嫌いであるから」を理由に挙げた。
「うなぎの小骨が喉に刺さったことがあるから」というコメントもあった。
考察:食べる派は受け身で食べない派は「高いから」もしくは自分なりの考え方を持つ?
同じ東大生でも、親頼みで金銭的余裕が感じられる層と、一人暮らしをしていて、あるいは元から経済的余裕がない層がいることが読み取れる。
なぜ食べるのか、その理由を見てみると、保護者や家庭環境に影響を受けていること、比較的、受け身である。なんとなく前例に従っているような雰囲気も感じられる。
対して、食べない派の方は、「高いから」が一番の理由だが、自分なりの考え方を持って食べないという主張が感じられる。
農学部の女子学生は「コンビニでは買いたくない」
弥生キャンパスで、農学部の女子学生2名に聞いた。2名とも食べないとのこと。
農学部3年生の岸本華果さんは、次のように答えた。
大学院農学生命科学研究科、国際水産開発研究室の院生は
大学院農学生命科学研究科、国際水産開発研究室の院生2名にインタビューした。
1名は「食べる」。次のように理由を述べた。
もう1名の石田光洋(みつひろ)さんは「食べない」。
次のように述べた。
「うなぎは時間をかけてゆっくり食べるもので大量消費するものではない」という言葉が印象に残った。
毎年5月に本郷キャンパス・弥生キャンパスで開催される「五月祭」では、東京大学農学部水圏生物科学専修が、「食文化を守るため」ということで、うな丼を提供し、毎年、長蛇の列ができるという。
お二人とのインタビューの中で、「さんまの蒲焼など、代替品でもいいのかも」という意見が出た。
また、うなぎの蒲焼を好む人の中には、うなぎそのものが好きな人と、甘辛い、食欲をそそる「たれ」の味が好きな人がいるのでは?という意見も出た。
たれが好きな人には、ジャーナリストの佐々木俊尚さんも取り上げていた、「土用のたれめし」(198円)がいいかもしれない。
「枯渇の一番の原因は加工食品の量販が膨らんで起きた過剰消費」
うなぎ関連の書籍を20冊ほど読んだところ、書籍『ウナギNow 絶滅の危機!!伝統食は守れるのか?』(静岡新聞社・南日本新聞社・宮崎日日新聞社 編、静岡新聞社発行)に、全国鰻蒲焼商組合連合会理事長の涌井恭行(わくい・やすゆき)氏の言葉があり、すんなり腑に落ちた。
筆者の考え
筆者の考えも、理事長の述べた言葉に尽きる。うなぎの枯渇には複数の要因があるので、一つの要因に断定することはできない。だが、全国のスーパー・コンビニが大量販売せず、うなぎ専門店だけが適切な価格でうなぎを提供しておれば、ここまで枯渇することはなかったことも事実ではないだろうか。
うなぎを大切に食べる。
スーパーやコンビニの大量販売で、ではなく、専門のうなぎ店で食べる。
土用の丑の日に日本じゅうが集中して食べると需要と供給のバランスが崩れて食品ロスが生まれるので、年間を通して、それぞれが食べたいときに、時間をかけ、味わって食べる。
特定の日に特定の食べ物を食べると食品ロスが生まれるのは、土用の丑の日に限らず、恵方巻きやクリスマスも同じこと。どうしても食べなければならないわけではないし、人真似をする必要もない。人と時期をずらして食べればいい。
東京海洋大学准教授の勝川俊雄氏は
東京海洋大学准教授の勝川俊雄氏は、ツイッターで次の意見を述べており、これも共感する。
今できること 関心を高め節度ある食を
前述の書籍『ウナギNow 絶滅の危機!!伝統食は守れるのか?』では、「今できることー関心高め節度ある食を」の項で、次のような提言をしている。
また、書籍『ウナギの保全生態学』では、食品の安全性に関する意識は高まっているが、水産物の持続性に関する意識については必ずしも高まっていないと指摘し、「責任ある流通と消費を」と提言している。
土用の丑の日が、うなぎに限らず、他の海洋資源や食品、すべての資源の持続可能性について考える機会となりますように。
謝辞:
データ取得・インタビューにあたって多大なご協力を頂いた、東京大学「学生食品ロス削減プロジェクト」代表の高柳剛弘さんと副代表の本多将大さん、東京大学農学部3年生の岸本華果さん、東京大学大学院 農学生命科学研究科 国際水産開発研究室の石田光洋さんに感謝申し上げます。
参考書籍:
『ウナギNow 絶滅の危機!!伝統食は守れるのか?』静岡新聞社・南日本新聞社・宮崎日日新聞社 編、静岡新聞社
『世界で一番詳しいウナギの話』塚本勝巳、飛鳥新社
『ウナギ大回遊の謎』塚本勝巳、PHPサイエンス・ワールド新書
『うなぎ 一億年の謎を追う』塚本勝巳、学研
『日本料理技術選集 うなぎの本』松井魁、柴田書店
『ウナギと人間』ジェイムズ・プロセック、小林正佳 訳、築地書館
『ウナギと日本人 「白いダイヤ」のむかしと今』筒井功、河出書房新社
『うなぎ 謎の生物』太田博巳・香川浩彦・田中秀樹・塚本勝巳・廣瀬慶二・虫明敬一、築地書館
『うなぎを増やす(二訂版)』廣瀬慶二、成山堂書店
『ウナギの保全生態学』海部健三、鷲谷いづみ(コーディネーター)、共立出版
『うな丼の未来 ウナギの持続的利用は可能か』東アジア鰻資源協議会日本支部、青土社
『二百年続く老舗「野田岩」の心と技 生涯うなぎ職人』野田岩五代目 金本兼次郎、商業界
『ウナギ 地球環境を語る魚』井田徹治、岩波新書
『うなぎと日本人』伊集院静・選、角川文庫
『うなぎでワインが飲めますか?そば、てんぷら、チョコレートまでのワイン相性術』田崎真也、角川新書
『ウナギのふしぎ 驚き!世界の鰻食文化』リチャード・シュヴァイド、梶山あゆみ訳、日本経済新聞社
『ウナギの博物誌 謎多き生物の生態から文化まで』編著者 黒木真理、化学同人
『ウナギの科学 解明された謎と驚異のバイタリティー』小澤貴和・林征一、恒星社厚生閣
『ウナギの初期 生活史と種苗生産の展望』多部田修、恒星社厚生閣
『Eels and Humans』Katsumi Tsukamoto, Mari Kuroki, Springer