働き方改革で増加する「休憩労働」 ジャパンビバレッジでも五度目の是正勧告
9月26日、サントリーグループの自動販売機オペレーター大手であるジャパンビバレッジ社に対して、労働基準監督署が五度目の是正勧告を出した。大手企業が短期間に五度もの是正勧告を受けるのは異例のことだといえる。
これまで、同社は、労基法32条違反(長時間労働)で一度、労基法37条違反(残業代不払)で三度、是正勧告を受けていた。今回は、新たに労基法34条違反(休憩未取得)で是正勧告を受けたという。
一方で、労働相談の現場では「休憩労働」に関する相談が増えている。労働時間を減らそうとする一方で、そのしわ寄せが休憩時間に及び、休むことができないというわけだ。
そこで今回は、同社が休憩の未取得で是正勧告を受けるに至った経緯をみたうえで、休憩を削ってタダ働きをさせられている労働者が、働いた分の賃金を取り返すための方法を紹介したい。
休憩を取れないのは業務過多だから
ジャパンビバレッジ社(以下、JB社という)の従業員の一部を組織している労働組合・自販機産業ユニオンによれば、休憩を取れない原因は長時間労働や業務過多にあるという。
JB社では、労働組合が結成される以前は、朝8時頃から夜8時頃までの約12時間、休憩を取らずに働くことが常態化していた。1日12時間働いても終わらないほどの業務量があり、休憩をとる余裕などなかったという。
ところが、JB社は、自販機産業ユニオンとの団体交渉で、一方的に「従業員全員が毎日休憩を1時間取れていたはずだ」と主張し、休憩未取得分(実際には労働していた時間分)の賃金の支払いを拒否していた。
そこで、自販機産業ユニオンの組合員が、労働基準監督署に通報したところ、労働基準監督署は休憩を1時間取れていなかったことを認め、その分の賃金を支払うようJB社に指導したというのだ。
「働き方改革」によって休憩未取得が発生するカラクリ
JB社では、自販機産業ユニオンが長時間労働・残業代不払いの改善を訴えてストライキを起こすなどした結果、以前ほどの長時間労働は無くなっているという。特にユニオンの組合員は、大幅に残業時間を減らし、休憩を1時間取れるような環境に改善している。
しかし、多くの従業員がいまだ休憩を取れていない状態にあるという。その理由は、会社が「早く帰れ」と指示する一方で、それに見合うだけの業務量削減を行わないことにある。
定められた時間内に業務を終わらせるために、いっそう強度の高い労働が求められるばかりでなく、休憩時間をカットせざるを得なくなっているというのだ。
これはJB社に限ったことではない。そもそも、国が推奨する「働き方改革」は、長時間労働の改善を打ち出しているが、一人当たりの業務量の削減については触れていない。この「業務量の削減なき労働時間の短縮」が、問題の温床になっている。
たとえば、これまで10の仕事を10時間の労働でこなしていたのが、「働き方改革」によって10の仕事を8時間の労働でこなさすよう指示されるということが起こっている。こうなれば、仕事はきつくなるが、持ち帰り残業のような「サービス残業」が増えざるを得ない。
つまり、休憩を取れずに働かざるを得ないという問題は、「サービス残業」の一種なのだ。このように、一人当たりの業務量の削減に手をつけない中途半端な「働き方改革」が、休憩を取れずにサービス残業をするという結果をもたらしている。
法律は休憩をどう定めているか
次に、休憩について法律がどのように定めているのかについてみていきたい。
労働基準法34条によれば、1日の労働時間が6時間超なら45分以上、8時間超なら60分以上、休憩を付与する義務が使用者に課せられている。
ここで重要な点は、労働者に休憩を取る義務が課せられているのではなく、使用者が休憩を付与する義務が課せられているということだ。長時間労働や業務過多のために、労働者が休憩を自ら省いている場合であっても、休憩を取れる環境をつくっていない使用者に責任があるということになるわけだ。
また、休憩は、労働者が労働から完全に解放されている状態だとされている。そのため、「手待ち時間」と呼ばれるような状態(電話や呼び出しがあれば対応しないといけない状態等)は、休憩にあたらない。
そして、休憩を取れずに労働している場合や、休憩と呼ばれている時間が実際には「手待ち時間」である場合には、その時間分の賃金を支払う義務が使用者にはあるのだ。
休憩未取得は取り締まられづらい
だが、休憩の未取得の問題について、労働基準監督署が法違反を指摘する形で是正勧告するケースはあまり多くない。
というのも、法律通りに休憩を取っていないと「証明」することは、簡単でないことが多いからだ。
具体的には、休憩時間はタイムカードで打刻することが少なく、出退勤時間に比べても証拠が残りにくい。また、出勤簿などで休憩時間を記入する場合であっても、会社から1時間と書くよう指導されている場合が多く、正確な時間を記入しているケースは少ない。
そのため、客観的な証拠にもとづいて、労働基準監督署が法違反を認定することが難しいのだ。また、同様の理由から、休憩を取らずに働いていた時間分の賃金を会社に支払わせようとしても難航してしまうことが多い。
休憩未取得分の賃金を請求するにはどうすればよいか
今回労働基準監督署がJB社に対して、休憩未取得について是正勧告を出すことができたのは、自販機産業ユニオンの活動によるところが大きい。
具体的には、労働基準監督署の調査に対して、JB東京駅支店の従業員の多くが、休憩を取れていなかったと回答したことが、決め手となったようだ。この支店では一定割合の従業員が前出の自販機産業ユニオンの組合員であり、会社に忖度することなく事実を話せたという。
だが、一般的には、会社や管理職からのプレッシャー等のために、労働者が団結して労働基準監督署に違法行為の事実を伝えることができないことも多いだろう。
では、まともな労組がない場合、休憩未取得を客観的に証明するにはどうすればよいのだろうか。
第一に、就労実態の詳細なメモを残す方法がある。出退勤時間や休憩時間、時系列での業務遂行状況を書き残すことで、客観的にみて休憩を取れていないと示すことができる。
第二に、勤務中にボイスレコーダーを回しておく方法がある。これにより、音声データで休憩を付与されずに働き続けていたことを示すことができる。
第三に、業務上の記録が、休憩を取っていないことの証明として利用できることがある。車両の運転が業務上必要な場合は、ドライブレコーダーやタコメーターが証拠になりうる。美容師やエステティシャン等の接客業であれば、お客さんの予約表が証明として利用できることがある。
このほかにも、業界や職場によって、証拠となりうるものが多様にある。こうした証拠資料を集めて、労働基準監督署に申告したり、労働組合で団体交渉をしたりすれば、休憩未取得分の賃金を会社に支払わせることができるのだ。
私が代表を務めるNPO法人POSSEでは、証拠の集め方についても相談に乗っている。権利を行使しようと思って自分で証拠を集めようにも、何が証拠になるのか分からないという人が多いからだ。
休憩の未取得やその分の労働時間について賃金未払いになっていることに納得のいかない方は、ぜひ一度POSSEなど労働問題専門の相談窓口に連絡してみてほしい。まずは証拠集めから相談してみるとよいだろう。
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