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東京オリンピック閉会式に影響を与える台風10号と熱帯低気圧との藤原の効果

饒村曜気象予報士
日本付近の3つの台風の雲と九州付近の雲(8月6日21時)

3つの台風

 日本付近には3つの台風(西から台風9号、10号、11号)があります(タイトル画像参照)。

 そして、3つの台風に対応して雲の塊が3つあります。

 さらに、九州付近にも雲がまとまっていますが、これは、北西進してきた熱帯低気圧が持ち込んだ雨雲です。

 3つの台風のうち、中国の華南にある台風9号は衰弱しながらゆっくり東寄りに進み、台湾で熱帯低気圧に変わる見込みです。

 また、日本の東海上の台風11号は、北東に進んで日本から遠ざかると考えられています。

 このため、日本に直接影響するのは台風10号だけのようです。

 その台風10号ですが、北東進して、8月8日(日)、メダルラッシュに沸いている東京オリンピックの閉会式の日に東京接近となりそうです(図1)。

図1 台風10号の進路予報(8月7日3時の予報)
図1 台風10号の進路予報(8月7日3時の予報)

 台風の進路予報は最新のものをお使いください

 台風10号は、台風が発生・発達する目安とされる海面水温が27度以上の海域を北東進する予報ですので、少し発達しながら接近してくる見込みです。

 当初は、沖縄近海から北東進して東海~関東地方に上陸するという予報もありましたが、台風10号は沖縄近海からいったん東に進んでから北東進するという予報に変わっています。

 東京オリンピック閉会式の日に、関東上陸の可能性が低くなってきたといえそうです。

 また、台風に伴う雨雲の北への広がりも遅れ、土日の競技への影響が当初考えられたものより小さくなったとも言えるかもしれません。

 このように予報が変わった一つの要因に、台風10号の東方にあった熱帯低気圧との相互作用(藤原の効果)があげられます。

藤原の効果

 2つの渦の相互作用についての研究は、明治20年代の北尾次郎の理論研究から始まっているとされていますが、これを岡田武松が発展させ、大正10年には藤原咲平が一般性を持った法則にまで拡大させています。

 のちに岡田武松は中央気象台長(現在の気象庁長官)となり、昭和16年の夏に、藤原咲平が岡田武松のあとを継いで中央気象台長になっています。

 しかし、台風の動きに関して、“藤原の効果”が言われだしたのは、戦後、米軍の飛行機観測によって台風の位置をかなり正確に求めることができるようになってからです。

 藤原咲平は、昭和22年(1947年)4月20日の第一回参議院議員選挙に立候補し、全国的に「お天気博士」として著名なことから当選確実と見られていました。

 しかし、太平洋戦争時に中央気象台長として戦争協力をしていたということで投票日直前に公職追放となっています。

 中央気象台職員は、アメリカ軍(進駐軍)の指揮下で仕事をしていましたが、このようなことがあっても、たびたび「Fujiwhara Effect(藤原の効果)」という言葉を聞き、きちんと良い技術を認めているアメリカの姿勢に感銘をうけたと言われています。

 藤原の効果は図2のように6つに分類されています。

図2 2つの台風が並んだときの動き
図2 2つの台風が並んだときの動き

1 相寄り型:一方の台風が極めて弱い場合、弱い台風は強い台風にまきこまれ急速に衰弱し、一つに融合する。

2 指向型:一方の台風の循環流が指向流と重なって、他の台風の動きを支配して自らは衰弱する。

3 追従型:初めは東西にならんだ2個の台風のうち、まず1個が先行し、その後を同じような経路を通って他の台風が追従する。

4 時間待ち型:発達しながら北西進している東側の台風が、北に位置するのを待って西側の台風も北上する。

5 同行型:2個の台風が並列して同じ方向に進む。

6 離反型:台風が同じ位の強さの場合に起き、一方は加速し北東へ、一方は減速して西へ進む。

 このうち、指向型の藤原の効果が、台風10号と熱帯低気圧の間で起きたと考えられます(図3)。

図3 台風10号と熱帯低気圧との藤原の効果(8月4~6日)
図3 台風10号と熱帯低気圧との藤原の効果(8月4~6日)

 普段できることができるとはかぎらない、当たり前のことが当たり前ではない東京2020オリンピックです。

 関係者の並々ならぬ努力で、ここまできた大会です。

 台風10号のオリンピック直撃という最悪の事態を阻止した熱帯低気圧は、これまでの関係者の並々ならぬ努力に対するちょっとしたエールではなかったかと思っています。

 ただ、台風10号はちょっとしたことで大災害が発生する台風にかわりはありません。

 台風10号は、8月7日夜から8日午前中にかけて東日本太平洋側にかなり接近する見込みですので、東日本太平洋側を中心に荒れた天気となって大しけとなり、大雨となる所があるでしょう。

 「腐ってもタイ(台風)」です。

 最後まで油断はできません。

タイトル画像、図1の出典:ウェザーマップ提供。

図2の出典:饒村曜(昭和61年(1986年))、台風物語、日本気象協会。

図3の出典:気象庁ホームページの図に筆者加筆。

気象予報士

1951年新潟県生まれ。新潟大学理学部卒業後に気象庁に入り、予報官などを経て、1995年阪神大震災のときは神戸海洋気象台予報課長。その後、福井・和歌山・静岡・東京航空地方気象台長など、防災対策先進県で勤務しました。自然災害に対しては、ちょっとした知恵があれば軽減できるのではないかと感じ、台風進路予報の予報円表示など防災情報の発表やその改善のかたわら、わかりやすい著作などを積み重ねてきました。2015年6月新刊『特別警報と自然災害がわかる本』(オーム社)という本を出版しました。

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