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沖縄県の米軍基地における集団感染 オミクロン株の拡大を防ぐ

高山義浩沖縄県立中部病院感染症内科・地域ケア科
(写真:gimayuzuru/イメージマート)

沖縄県にある米海兵隊基地・キャンプハンセンにおいて、12月15日以降、新型コロナウイルスの感染者が232人に及ぶ大規模な集団感染が発生しています。これまでも在沖米軍での集団感染は繰り返されてきましたが、今回は、流行規模が思いのほか大きかったです。というか、思いのほか大きくなるまで米軍が気づけませんでした。

それに並行して、キャンプハンセンの基地従業員など日本人関係者において、感染者が確認されるようになり、これまでに二次感染を含めて10人となっています。これらの方々から分離されたウイルスについてゲノム解析を行ったところ、いずれもオミクロン株であることが判明しました。

これまで沖縄県内では確認されたことがなく、キャンプハンセンの集団感染は、感染力の強まったとされるオミクロン株によるものであろうと推定されます。

筆者作図
筆者作図

不十分な米軍の水際対策

なぜ、米軍でオミクロン株の流行が生じてしまったのでしょうか?

海外でのオミクロン株の拡大を受けて、日本政府は、外国人の新規入国を原則禁止にするなどの水際対策を強化しています。しかし、在日米軍に関しては「日米地位協定」により、日本の法令の適用から除外されています。

米海兵隊には、半年ごとに部隊を入れ替える部隊配置計画(UDP)があり、11月から12月初旬にかけて多くの兵士が沖縄へと移動してきていました。そのタイミングと米本国のオミクロン株の流行が重なったものと考えられます。

残念だったのは、その水際対策にあります。米軍では、ワクチン2回の接種完了者と未完了者に分けて対応していたようです。

まず、接種完了者については、米本国を出国する前にPCR検査が実施されておらず、到着後も基地内での自由行動が認められていました。5日目にはじめてPCR検査が実施され、陰性であれば10日目から基地外も自由行動となります。

一方、未完了者については、出国前にPCR検査を実施して陰性を確認。到着後14日目までは自宅待機が求められ、8日目以降は基地内で自由行動。14日目から基地外でも自由行動となります。

米軍では、今年の1月ぐらいからワクチン接種を開始していたため、ほとんどの兵士が接種後半年以上を経過しており、デルタ株であってもワクチンによる感染予防効果が減弱していたはずです。オミクロン株では、さらに効果が低下しているとされますから、基地内へと持ち込まれやすくなっていたのでしょう。

世界最強を自認する軍隊が、これほど感染症への対応がずさんなのか・・・、オミクロン株による集団免疫を狙ってるのではないかと訝りたくなるぐらいです。日本が水際対策に力を注いでいる状況にあって、あまりに温度差があるというか、地域への影響を軽視した対応だったと残念でなりません。

沖縄県がとった緊急の対策

沖縄県としては、県内のオミクロン株の流行を阻止することをめざし、迅速に対策をとっています。

年末年始は県民の移動も活発になり、里帰りなどで高齢者との交流も増えるものと考えられます。離島との往来も増えます。そこにオミクロン株の流行が重なることは、何とか避けたいところです。

米軍が70人の感染を発表したのが12月17日でしたが、翌18日から沖縄県総合運動公園において、キャンプハンセンの基地従業員を対象とした無料PCR検査を開始しました。また、海兵隊員の友人などで感染の不安のある方についても、無料で受けられるように開放しました。さらに、12月22日からは、キャンプハンセンのある金武町の飲食店従業員やタクシー運転手など住民を対象として無料PCR検査を開始しています。

その結果、これまでに基地関係者 606人が検査を受けてくださり、そのうち5人(0.83%)の感染者を確認しました。また、これまでに濃厚接触者 57人のうち5人(8.8%)の感染者を確認しています。これらの方々には入院いただくとともに、濃厚接触者にはホテルに入って健康観察に協力いただいています。

発生早期の検査とはいえ、集団感染が生じている施設内での陽性率 0.83%は、比較的低い数値だと思います。基地従業員の方々が、日頃から感染予防策をとっていただけていることが推察されました。

金武町住民については、77人が検査に協力いただいていますが、これまで感染者は確認していません。これらの結果から、オミクロン株の感染力が極端に高いということではなさそうです。引き続き、封じ込めをめざして対策をとっていきます。

沖縄県が設置した接触者PCR検査場(筆者撮影)
沖縄県が設置した接触者PCR検査場(筆者撮影)

今後の見通し

基地従業員や金武町住民の感染者が少なかったことで、いまだ封じ込めの可能性は残されていると思います。ただ、若くて独身の海兵隊員たちですから、疫学調査で語られない友人関係やパーティもあったはずです。

以前、海軍病院の医師たちと意見交換したとき、「疫学調査への返答次第では軍律違反が問われるので、オフベースにおける兵士の行動は把握できていない」と率直なコメントがありました。

見えている世界は徹底して封じ込めていますが、アンダーグラウンドでの拡がりが見えていません。少しずつ拡大していく可能性があります。関西ではオミクロン株の市中感染も認めているようですから、いずれは同株による第6波が沖縄にも来るものとして備えておかなければなりません。

オミクロン株について、病原性が低下しているとの報告もありますが、「ただの風邪」として容認できるほどではありません。また、南アフリカなど既感染者が多い国では、再感染しても軽症で推移する人が多いのかもしれません。イギリスなどブースターショットが進んでいる国では、高齢者はワクチンによって守られている可能性があります。

一方、まだまだ日本は既感染者が少ないですし、ブースターショットは一部の医療従事者だけです。急速に感染が拡大してしまえば、医療ひっ迫を生じさせ、集団レベルでは脅威となる可能性が高いと考えられます。

感染拡大を抑止する対策へ

このまま感染者が増加していくと、どこかの段階で持ちこたえられなくなります。つまり、すべての感染者を入院させる戦略から、軽症者はホテル療養へと分散させ、すべての濃厚接触者をホテルに入れる戦略から、同居者がいるなど希望者のみをホテルとして、その他は自宅での健康観察とする必要が出てくるでしょう。

沖縄県では、最大で1,031床の病床をコロナ対応として確保しています。コロナ病床には余力があるようでいて、冬季の特性として救急患者が増加しますし、新型コロナが発生する前から地方の一般救急はひっ迫していました。つまり、コロナに余力があったとしても、そちらに病床を割きすぎると、脳梗塞には対応できなくなっていくのです。

現時点で余裕があっても侮らず、流行を制御していくことが必要です。県民の皆さんは、人ごみでのマスク着用や公共の場での手指衛生など基本的な感染予防策を継続し、大人数・長時間の宴会は控えていただければと思います。症状がある方が外出を控えることも大切です。

行政は、要介護高齢者や介護従事者への3回目ワクチン接種を急いでいただければと思います。インペリアル・カレッジ・ロンドンの報告書では、ファイザーでブースターをかけると、その平均48日後には、デルタ株で88.6%へ、オミクロン株では54%に発症予防効果が回復したとありました(Neil Ferguson, et al. Report 49 - Growth, population distribution and immune escape of Omicron in England, 16 December 2021.)。

米軍に求めたい追加の対策

今回の集団感染の発生を受けて、米軍では、完了者について、米本国を出国する前にPCR検査を実施するとともに、基地外での自由行動を認めるまでの期間を10日から14日までに延長したそうです。ただ、基地内での自由行動は変わらないとのこと。

感染早期にはPCR偽陰性が多いことを考えると、この対応ではすり抜けが多いだろうと思います。また、14日目まで基地外に出ないとしても、基地内で多くの日本人が働いていることを考えると、今後も基地外への波及は避けられないでしょう。

少なくとも、日本の検疫が実施しているように、ワクチン接種の有無によらず到着後3日間は自由行動を認めず自宅待機とし、3日後にPCR検査を実施していただければと思います。

また、海兵隊では、キャンプハンセン内での店内飲食を禁じ、テイクアウトのみに切り替えています。その一方で、基地外での飲食は許可されたままです。このため、むしろ基地の外へと兵士たちが会食目的で流れ出ている可能性があります。

実際、先週末も多くの兵士たちがマスクを着用しないまま、繁華街を歩いていました。沖縄に異動してきたばかりの若い兵士たちは、米国での感覚で自由に行動しているのかもしれません。ここが小さな島であり、医療資源が限られていること、多くの高齢者が暮らしていることを教育していただければと思います。

キャンプハンセンに限らず、米軍基地全体へのスクリーニング検査を進めてください。そして、集団感染の全容が明らかになり流行が抑え込まれるまでは、基地内だけでなく基地外での店内飲食も禁じて、テイクアウトのみへと切り替えていただくことが必要です。

これらのことは、沖縄県から要請するだけでなく、政府からも強く求めていただければと思います。

沖縄県立中部病院感染症内科・地域ケア科

地域医療から国際保健、臨床から行政まで、まとまりなく活動。行政では、厚生労働省においてパンデミック対策や地域医療構想の策定支援に従事してきたほか、現在は規制改革推進会議(内閣府)の専門委員として制度改革に取り組んでいる。臨床では、沖縄県立中部病院において感染症診療に従事。また、同院に地域ケア科を立ち上げ、主として急性期や終末期の在宅医療に取り組んでいる。著書に『アジアスケッチ 目撃される文明・宗教・民族』(白馬社、2001年)、『地域医療と暮らしのゆくえ 超高齢社会をともに生きる』(医学書院、2016年)、『高齢者の暮らしを守る 在宅・感染症診療』(日本医事新報社、2020年)など。

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