10代への現金給付 届け切るまで10回以上のコンタクトも
給付70名枠が5日間で埋まる
18歳以下の若者に10万円相当の給付を行う議論のなかで、「手挙げ方式」の調整がなされています。
・10万円給付、16~18歳は要申請で調整 年内支給遅れる地域も(朝日新聞)
その理由のひとつが、申請不要の「プッシュ型」給付のための十分な情報が自治体に揃ってないということです。
認定NPO法人育て上げネットでは、この夏、大阪府の事業を通じて、クラウドファンディングで募った寄付と、村上財団からのマッチング寄付を利用して、10代の若者70名を対象に5万円の現金を届ける事業「テンセイ・キャンプ」を行いました。
給付条件は以下になります。
・ 15歳から19歳で義務教育が修了している方
・大阪府内に在住の方
・お振込みが可能な銀行口座をお持ちの方
若者に情報を届けるにあたってはインターネットなども活用しましたが、協力関係にある高校や若者、子どもたちを支えるNPOなどにも依頼をして、プロジェクトの周知を図りました。
限られた70名枠への応募は5日間で埋まりました。このプロジェクトでは、「本当にお金が必要か」「どのように使うのか」という聞き取りをせず、上記の条件を満たしているかだけを判断することに決めました。
想定よりも早く応募枠が埋まったことで、生活の切実度、切迫度の高さを感じながら、すぐにでもお金を届けるためにコンタクトを取りました。連絡がついた方には1,2日で2万5千円を振り込みました。
一回のコンタクトを取るにあたって、以下のような状況になりました。
A 2日以内に返信があった若者 20名
B 大人が傍でサポートしてくれたためコンタクトが取れた若者 22名
C 何度か連絡をするなかでコンタクトが取れた若者 10名
D 10回以上の連絡でコンタクトが取れた若者 13名
E 10回以上の連絡をしてもコンタクトできなかった若者 5名
細かな聞き取りのない形で5万円を給付すること、公開から5日で定員が埋まったことから、かなりスムーズにコンタクトが取れると考えていましたが、実際には想定が甘かったと言わざるを得ません。一回のコンタクトを取るために大きな労力が必要でした。
上記Eの若者とはどうしてもコンタクトが取ることができませんでした。
周囲のサポートがあれば連絡が取れる若者
なかなか自分では連絡調整が難しい若者たちを支えたのは、保護者や学校の先生、スクールソーシャルワーカーでした。
メールのやりとりは母親が代わりにやってくれました。スマホからの申請に戸惑う若者には先生が傍でサポートをしてくれました。
10代の若者であっても、手挙げ方式の申請手続きが必要になれば、うまくできないこともあります。何度かやってうまくいかなければ、あきらめてしまうかもしれません。その際、たまたま周囲にサポートしてくれる存在がいたからこそ、私たちも若者とコンタクトを取ることができました。
困っていれば、多少煩雑なこともするだろう。お金がもらえるなら率先して手を挙げるだろうという考え方のもとで、若者にお金が届くと考えるのは、現場で実践してみた感覚では難しいと思います。
周囲がサポートすればよいというのも、今回は若者とすでにつながりのある大人がいたからこそコンタクトが取れたもので、孤立・孤独な状態であれば手を差し伸べる大人は存在していません。
プロジェクト事務局からコンタクトの依頼をかけても、一週間返事がない若者たちには、メール、電話、SMS等を使って連絡をしました。
申請したことを忘れていたということもありましたが、本人が使いやすいツール、リアクションしやすいタイミングで連絡が届くと反応してくれました。よいタイミングでの電話は取ってくれますし、留守電にメッセージを残すと折り返しの電話があります。
単純な見落としや申請忘れなど、少しコンタクトが取りづらいことはありましたが、約束した時間に連絡をしてくれます。
10回以上の連絡でコンタクトが取れる若者
応募者のなかで、想定外にコンタクトを取ることに苦労した若者たちもいます。10回以上連絡をしてやっとつながれる若者もいれば、最後まで連絡を取ることができなかった若者もいます。
PCメール、SMS、電話、LINEなど、こちらがいただいた連絡手段を使ってもなかなかコンタクトができません。つながっている支援者などにもお願いをしながら、あの手この手を考えて実践してみました。
また、友人の力を借りてなんとかつがなれた若者もいます。そもそもSNSしか見ない若者や、2,3日に一回くらいしか見ない若者もおり、ほぼ未読状態、または既読がついても連絡がないこともありました。
コンタクトが取れた若者からは、そもそも冒頭の1,2行しか読まないということをお聞きしたため、長い挨拶分などは後ろに回し、最低限の用件を頭に持って来る工夫でコンタクトが取れるということもありました。
連絡担当者は当初、若者に迷惑をかけないよう日中の時間に連絡をしていましたが、22時以降、朝5時くらいに返信が集中することもあり、連絡があった瞬間、数秒から10秒程度でレスポンスするようにしましたが、それでも返信をもらえないというケースもありました。
担当者は、若者にとっては友人でも知人でもない他人です。そのため電話にせよ、SNSにせよ、なかなか反応をしてもらえません。そのため、私たちも保護者や支援者、友人など、若者の関係範囲にいるひとたちの力を借りて、何とか連絡を取り続けました。
結果的にそれでもコンタクトできず、お金を届けることができなかった若者が5名います。応募行動を取ってくれたことから、なんとかつながりたいと努力しましたがうまくいきませんでした。つながることができなかったため、その理由はいまもわからないままです。
今回、政府は「手挙げ方式」を検討しているようです。困窮する若者たちにとって、現金給付は一時的な助けになるでしょう。本来は中長期の打ち手が重要ですが、ここではいったん触れません。
私たちが実際にお金を届けようと考え、取った手段は申請型、手挙げ方式でした。そして、実際に手を挙げてくれた若者たちですら、一回のコンタクトを取るためにかなりの労力と、たくさんの大人や、彼ら、彼女らのご家族や友人の力を借りました。
そもそも手を挙げられるのは、情報をキャッチできた若者たちだけです。情報を届けることのみならず、お金を届け切る仕組みをどこまで実装できるのか不安が残ります。
手を挙げなかった若者が悪い、申請は自己責任という結果にならないことを懸念しています。