Yahoo!ニュース

北京冬季五輪、開会式の裏で起きた四つのざわつき

富坂聰拓殖大学海外事情研究所教授
(写真:ロイター/アフロ)

 2月4日に開幕した北京冬季五輪。注目の開会式は意図して派手さを抑え、静かな演出で統一したコンセプトを伝えていた。2008年(北京夏季五輪)の国力を誇示したショーと比較すると、中国の進化は一目瞭然だ。

 もちろん欧米メディアからは相変わらず厳しい指摘もいくつか聞こえてきたが、これは織り込み済みの反応だろう。北京五輪の成功が中国で最初っから決まっていたように、西側メディアの批判も相場だからだ。

 いずれにせよ中国が最も気にしていた国内の評判は上々だった。そう判断できたのは、中国メディアが「成功」を報じたからではない。開会式終了直後から明らかにネットがざわついたからである。

 開会式の注目度の高さから生まれたいくつかのざわつきについて紹介しよう。

 まず、最も大きな反応だったのが開会式の演出を担当した張芸謀総監督についてだ。

「あのショーを観て、やっとオリンピックが少し盛り上がったんじゃないでしょうか」

 と語るのは北京在住の元官僚である。

張芸謀監督の評判が急上昇

 新型コロナウイルス感染症の対策で、たいていの人は家にこもっているため、テレビの視聴人口は普段より多い。そのなかでのショーの成功は、顕著な反応となってネット上にあらわれた。

「一番多かったのが、この年末(旧暦の)に公開された張監督の映画『狙撃手』への書き込みです。やっぱり張監督は凄いっていう評価になって、ちょうど同じ時期に公開され、興行成績でいま一つパッとしなかった『狙撃手』をみんなで応援しようって話になったんです。私もまだ間に合うから早速映画館に足を運ぼうと思っています」

 張監督といえば中国映画界の重鎮の中の重鎮である。しかし、ここ数年は若手の台頭におされぎみだった。とくに今年は「戦狼」テイストの朝鮮戦争映画、『長津湖之水門橋』の続編が爆発的な話題を集め、『狙撃手』に陽は当っていなかった。

「ところが開会式を観た人々が中心となって『長津湖之水門橋』はアクションだけで、大人が観る映画じゃないっていう評価を書き込み、『狙撃手』への注目がうなぎ上りに高まったのです。興行成績でも、やっと10位に入るくらいでしたが、どんどん順位を上げているようです」(同前)

 2月5日の調査によれば『狙撃手』の順位は6位まで上昇している。金額では1位の『長津湖之水門橋』の10分の1とまだまだ差は大きいが、今後も強い追い風が吹き続けると予想されている。

習近平国家主席の服装

 次に開会式で話題になったのは、習近平国家主席に絡んでだった。

 日本に暮らす50代の中国人は、

「あの、服装です。IOC(国際オリンピック委員会)のバッハ会長が、スーツに薄手のコート姿でスマートな印象を与えていたのとは対照的に、まるで布団でも巻いているような着ぶくれした主席の姿はちょっと気になりましたね。

 当然、これもネットで話題を呼んだようです。私の友人の妻は、『彭麗媛夫人があれほどきれいで際立っていたのですから、夫のファッションにも気を使ってあげればよいのに』と話していました。

 当然、これもネットで話題を呼んだようです。地元の組織委員会が配布したのでしょうが、まじめにそれを着る必要はあったのでしょうか」

 と嘆息してみせた。

 そして次のざわつきは、ある人物が見当たらなかったという話題だ。

 中国のメディア関係者が語る。

「ロシアのプーチン大統領です。ロシアの代表チーム(実際はそういう名前ではくROCだが)が入場するときにはチラリと映ったようですが、ほとんど彼の姿はなかった。開会式が終わった直後からネットでは、『プーチンはどこにいたの?』、『プーチンを探せ』と盛り上がりましたね」

 後日、メディアの中にはプーチンが居眠りしていた――ウクライナ選手団の入場時ともいわれた――とも報じられ、この話題は糸を引いた。

あの日本人は相変わらず人気者

「メディア間でまことしやかに流れた噂は、本人が撮られることをあまり望まなかったといわれました。真偽は分かりませんが、そうであっても不思議ではありませんね」(同前)

 最後のざわつきは日本とも関係の深い人物に絡んだものだ。といえば真っ先に思い浮かぶのは羽生結弦選手だろう。しかし、そうではない。

「福原愛さんですよ」

 と語るのは前出のメディア関係者だ。

「中国中央テレビ(CCTV)が行ったインタビューがネットに上がると、それに対する熱烈なファンの書き込みが殺到したのです。『たまらない』、『大好き』というメッセージで溢れました。相変わらずの人気です」

 インタビューが動画となってアップされるとほんの数分間で12万回も視聴されるほどの愛されぶりだ。

 中国人はとにかく彼女の話す東北訛りの中国語にキュンキュンしてしまうんだそうだ。

拓殖大学海外事情研究所教授

1964年愛知県生まれ。北京大学中文系中退後、『週刊ポスト』記者、『週刊文春』記者を経て独立。ジャーナリストとして紙誌への寄稿、著作を発表。2014年より拓殖大学教授。

富坂聰の最近の記事