考えすぎの人は考え方が「変」なだけ
■ 考えすぎ?
私はよく、
「考えすぎ、ですかね……」
と相談される。
何も言わないでいると、相手はまた繰り返すのだ。
「そうですよね。考えすぎ、ですよね」
と。
何を考え、どの程度まで考えすぎているのかサッパリわからないが、自分で言って、自分で納得してしまっている。
私が、さてどう言おうか、と思いめぐらせていると、
「あまり考えすぎないようにします」
と、また勝手に言いだした。
この件を社長に伝えると、
「何が考えすぎだ! あいつは何も考えてないだろう」
想像どおり、激高した。私は連日の面談に疲れていたせいか、
「御社には、考えすぎる部課長が多いようですね」
と、少し嫌味っぽいことを言ってしまった。
■ 考えすぎ?の上司たち
私は企業の現場に入って目標を絶対達成させるコンサルタントだ。目標の「絶対達成」をかかげる以上、組織の大改革をすることがある。
その際、改革派の上司と、抵抗する部下とのあいだでイザコザがあるものだ。そのイザコザを乗り越えてこそ、組織は力強く成長していく。
なので私は必要なプロセスだと思っている。にもかかわらず、昨今この衝突を避けたがる上司たちが多い。この企業では、とくにそうだった。
「最近の若者は、たるんでる。何を考えているかわからん」
と、部課長たちが口にしていたが、まず私はあなたたちに言いたい。何を考えているかわからん、と。
経営会議で策定した新しい経営ビジョン、新しい経営計画にそって、早急に現場が動きはじめなければならない。なのに、行動しないのだ。この部課長たちが。
「3ヵ月が経過しましたが、いまだに具体的な行動が見られません」
私がそう詰め寄っても、
「どうしたら部下たちは動くんでしょうか。1on1ミーティングとか、新たに取り入れてやってるのですが、それがわからない。いろいろ考えとるんですが」
と、はぐらかす。
「面談をいくら繰り返しても、意味がありません。明確な指示を出してください」
私がそう言っても、
「明確な指示といっても、会社が新しいビジョンをかかげているのは、全社員ちゃんと知っているはず。どうしてかなァ、当事者意識が足りないのか」
と、またアサッテの方向に話をそらす。
あげくの果てには、
「私にリーダーとしての資質が欠けている、ということでしょうか。考えすぎ、ですかね……」
と、冒頭のフレーズに戻るのだ。
我々コンサルタントは、現場の担当者たちにも話を聞いている。すると、
「課長から何も明確な指示を受けていません」
「新しい経営計画は方針発表会で聴きましたが……。部長は、どう考えてるんですかね」
誰もがこのように、煮え切らない返事ばかりする。
中間管理職がビシッと「社長が新しいビジョンを発表したんだから、計画通りにやるぞ」と言えばいいだけ。これまでのやり方から、新しいやり方をするのにすぐ順応できない人がいるのは当然だ。だから、何度でも接触して、指示することが大事だ。なのに、それをしない。
■ 思考停止を認知する
「社長が言うとおり、部課長たちは考えてませんよ」
私は社長にハッキリ言った。単純に思考停止なだけだ。思考停止だから、自分が思考停止になっていることがわからない。それだけなのだ、と。
「だいたい、考えすぎって、どういう意味だと思いますか」
と私は社長に聞いてみた。安易に「考えすぎ」という表現を、社内で頻繁に使ってもらいたくないからだ。
「だから、いろいろアレコレ考えすぎるってことだろう」
社長も、何も考えずに言っている。私の問いに対して、もっと「考えて」発言してほしい。
私はこう諭した。
「社長、経営管理をするとき、これだけは覚えておいてください。何を、いつまでに、どの程度まで。この3つです」
「何だ、ソレ?」
理解できていないようなので、社長の好きなお酒でたとえてみた。
お酒を飲みすぎたと誰かが言った場合、何をどの程度まで飲んだのか、誰だって聞きたくなるはず。ビールをジョッキ5杯飲んだのか。一升瓶を3本空けたのか。
それを1週間で飲んだのならそうでもないだろうが、1~2時間で飲んだのなら「飲みすぎ」と言える。
何を、いつまでに、どの程度まで。
この3つのファクターを使って、考えてみればいいのだ。
「つまり部課長は、何を、どの程度まで、どれぐらいの時間、考えていたのかということです」
私がそう迫ると、社長は何も言えなくなった。
「一滴も飲酒していないのに、飲みすぎと言う人はいないでしょう。なのに、1秒も考えてもいないのに、考えすぎと言う人がすごく多い」
考えるというのは、正確に表現すると、脳の「長期記憶」にアクセスし、正しくデータを抽出して処理することだ。このときに大事なのが、「長期記憶」にアクセスするための手がかりである。
我々コンサルタントは、この手がかりをクライアントに提供するために、いろいろな切り口を用意している。だから、常に正しい「問い」を意識する。
私が問いかけると、社長は表情を険しくして答えた。
「考えているように見えて、私も考えてなかったのか」
社長が素直になってくれたおかげで、私も素直に話ができると思った。
「御社の問題は、ビジョンでも戦略でも計画でもない。考えていないのに、考えていると勘違いしていることです。それが治れば、絶対にうまくいきます」
社長は苦笑した。
■ 賢い奴は、複雑なことを単純に考える
このように、日ごろから考えすぎだと思っている人は、今一度「考えて」ほしい。考え方が「変」なだけだと認識すれば、必ず道は開ける。
稲盛和夫氏の名言を最後に記す。
バカな奴は、単純なことを複雑に考える。
普通の奴は、複雑なことを複雑に考える。
賢い奴は、複雑なことを単純に考える。
日本企業の問題は、ひとえに生産性の低さだ。稲盛和夫氏が言うとおり、複雑なことを単純に考えるクセをつけ、賢くなろう。