ホアキンが38歳でハットトリックできた理由。元スペイン代表アタッカーは不遇だったのか?
今年12月、元スペイン代表MFホアキン・サンチェスは38歳にして、アスレティック・ビルバオ戦でハットトリックを記録した。わずか20分間の出来事だった。本人が「一番お気に入り」という2得点目は、エリア左サイドでボールをコントロールし、右足を振って右ファーポストの内側にコントロールした。
「永遠」
その称号が、人々から贈られている。世界最高峰リーガエスパニョーラにおいて、38歳でプレーを続けるだけでも至難の業。ハットトリックは超人的だ。
では、ホアキンはどんな選手なのか。
日韓ワールドカップでの不運
2000年にベティスでプロデビューを飾ったホアキンが、世界で名を売るようになったのは、2002年日韓ワールドカップだろう。当時、スペイン代表の若手だったホアキンは、キレのあるドリブルで相手ディフェンスを翻弄。準々決勝、韓国戦では独り舞台だった。
ところが、どのゴールも不可解に取り消されてしまい、その悲劇性も天才性を際立たせた。
ただし、ホアキンは人を恨んだり憎んだり、少しもしていない。
「韓国人選手はうまかったよ。ピッチの中ではしばしば説明がつかないことが起きる。僕らは勝つために十分ではなかった、それだけさ」
ホアキンは強がりでなく、そう言える。もしくは、そう言えるだけの朗らかな強さを持っている。
それから長い時を経た。
ホアキンはバレンシア、マラガ、フィオレンティーナを渡り歩き、そしてベティスに復帰している。今やプロ20年目に突入した。称賛されるべきキャリアだろう。
一方で、たら・れば、で語られることもしばしばなのだ。
たら・れば、で語るべきではない
ホアキンは、ビッグクラブでプレーする可能性がいくらでもあった。バルサ、チェルシー、レアル・マドリー。しかし、様々な理由で契約に至っていない。
そしてスペイン代表としても、多くの栄光を勝ち取るはずだった。しかし2007年でメンバーから外れてしまう(代表を批評したことが理由とも言われる)。その後、代表はEURO2008,2012で欧州王者、2010年には南アフリカワールドカップ王者に輝いているのだ。
しかし、ホアキンは違う境地で生きている。
「20年間のプロサッカー選手生活で、後悔は一切ないよ。僕は自分のしたいことをしてきた。自分の人生は、他の方向へ行く可能性もあった。けど、同じ運命にたどり着いていたと思う。僕は自分のプレーした場所に誇りを持っているし、それが自分さ。こう見えても、自分はサッカー選手という職業に忠実だった。他のどうでもいいことに流されたことはない。いつもチームメイトといて、プレーを助け、トレーニングした。他の道があったか?そう聞かれればあった、ある、と答える。でも、僕はこの道を選んだんだ」
もし道が違っていたら、38歳で輝かしい日々を過ごせていなかったのだろう。
ホアキンは、今を生きている。
38歳での成長・進化
ホアキンはすでに瞬発力は失っている。たしかに体に肉はついて、顔は丸みを帯びた。若いころのような俊敏さを生かしたドリブラーではない。
ただ、サッカー選手としての質は今も衰えず、むしろ進化している。例えば、プレーメイキングで妙を見せる。アンドレス・イニエスタ、シャビ・エルナンデスに近いかもしれない。味方を生かすようなパスやポジショニングで、攻撃の渦を作り出すのだ。
また、昨今はゴールまで鮮やかに奪うようになった。昨シーズンはキャリアで3番目に多い6点。そして今シーズンは、すでにその6点に並んでいる。ハットトリックはキャリア史上初だ。
<シュートはゴールへのパス>
その手本のようなゴールばかりで、確かなテクニックとビジョンがゴール前で生かされている。
エネルギーとなっている無邪気さ
なにより、ホアキンの感情豊かな生き方は、ベティスの選手全員の触媒になっている。
ハットトリックした試合を終えた後だった。ロッカールームに戻ったホアキンは、選手全員と熱い抱擁を交わしている。そこで選手たちの喝采を受けた。
「得点王だ!」
選手の掛け声に、ホアキンは感激を抑えきれなくなって涙した。シリアスな空気になりそうだが、彼はそうはしない。全員と抱き合った後は、室内にかかるセビジャーナス(セビージャなどの地域に伝わる曲の種類で、フラメンコに影響を受けている)におどけて体を揺らす。サッカー界で一番のいたずら好きで、たまに度を超すが、それが許される根っからのひょうきん者だ。
その夜、ホアキンは動画を撮影してSNSで投稿した。自撮りする彼は、「この日のことは生きている限り、ずっと忘れない。今日は家族と静かに過ごすよ」と神妙な顔と声音で話していた。しかし、一瞬で表情もトーンを変えて「そんなの誰も信じないよね~。さあ、一杯やるぞ!」と立ち上がって歌いだす。自ら楽しみ、人を楽しませるのが大好きなのだ。
彼はサッカー選手として、その真骨頂を見せ続ける。
「なにがよかったか、そんなのはわからない。自分はサッカーを楽しんできた。今の幸せがすべてさ」
ホアキンは言う。一瞬を永遠のように楽しめる――。それがホアキン・サンチェスというプレーヤーだ。