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G20で強調された「女性の視点」。「ジェンダー主流化」を各国首脳に認めさせた「W20」

治部れんげ東京科学大学リベラルアーツ研究教育院准教授、ジャーナリスト
アルゼンチンのマクリ大統領が女性達から受け取ったのは?(撮影/W20日本事務局)

 G20(金融・世界経済に関する首脳会合)が11月30日~12月1日、アルゼンチンの首都ブエノスアイレスで開かれました。最大の成果は、20カ国・地域が合意した「G20ブエノスアイレス首脳宣言」。外務省のウェブサイトには英語の原文と日本語の仮訳が載っています。この宣言はG20に参加している20カ国・地域の合意事項が記されており、今後の日本の経済社会政策にも影響を与えます。

女性の視点が前面に出ている

 本記事では、外務省の仮訳をもとに「G20ブエノスアイレス首脳宣言」がいかにジェンダー、すなわち女性の視点を重視しているか、読み解きます。

 1段落目は、G20の会合が行われた事実を記しており、続く2段落目に次のような記述があります。

「本年,我々は,次の柱に焦点を当てた。すなわち,仕事の未来,開発のためのインフラ,持続可能な食料の未来,そしてG20のアジェンダ全体としてジェンダーを主流化する戦略である。」

 ポイントは「ジェンダー主流化」という言葉で、ここにはG20の政策全体に女性視点を入れることを意味します。重要なのは、特定分野で女性に配慮するのではなく、「全ての分野」を女性視点で見直すことが共同宣言の冒頭に記されており、それが各国首脳が合意した「戦略」と位置付けられていることです。

 例えば、この段落には「仕事の未来」とあります。デジタル化が進む中、柔軟な働き方が可能になる一方、クラウドワーカーとして細かく切り出された仕事を安く請け負うこともあります。この現象をジェンダー視点で見るなら、賃金格差が拡大する中で「デジタル化は今ある男女格差を広げるか、縮めるか?」といった問題設定が生まれます。

インパクト投資で機関投資家も変わる

 読み進めていくと7段落目には「包摂的で持続可能な成長のためのインパクト投資等の革新的な財政メカニズム及びパートナーシップ」という記述があります。インパクト投資とは、経済的なリターンを確保しつつ、社会的な影響に配慮した投資の考え方です。社会的な影響には、教育、医療などに加えてジェンダー格差の是正も含まれます。

 ここから読み取れるのは、機関投資家が非財務面にも配慮した投資に今後はより積極的になることです。例えば、日本ではGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)がESG投資のうち、特に「S(社会)」の観点からMSCI 日本株女性活躍指数を採用しています。GPIFは2017年7月にESG投資に対するポリシーを公表しており、G20ブエノスアイレスの共同宣言と併せて読むと方向性が一致していることが読み取れます。

働く女性、理系、起業家そして保育園も増やす

 12段落目は丸ごと、ジェンダーに関する記述です。そこでは「労働参加率における性別による格差を2025年までに25%減少させるという我々のブリスベン・コミットメントの達成」が求められています。また、性差別や性暴力の撤廃、「質が高く安価なケア・インフラ」という表現で保育園などの整備にも言及しています。さらに、女児向けの理系教育、女性リーダーや起業家の育成など、あらゆる形で女性の経済的エンパワーメントを高めることが記されているのです。

「W20」(ダブリュートゥウェンティー)を知っていますか?

 早い話が、G20ブエノスアイレス共同宣言は「女性の視点、てんこ盛り」の内容でした。G20といえば、各国・地域の首脳が集まる場。男性が圧倒的に多いのに、なぜ女性の視点?と不思議に思うかもしれません。

 背景には、G20に政策提言した「W20」というグループの存在がありました。アルゼンチンの起業家女性が議長となり「労働」「デジタル」「金融」そして「地方女性」の包摂(inclusion)をテーマに女性視点の共同宣言を作成し、マクリ大統領に直接手渡したのです。

W20アルゼンチンのスサナ・バルボ議長(中央左手、青い服)は、マクリ大統領(その右隣)にW20共同宣言を直接手渡した。女性の視点でG20に政策提言した成果が首脳宣言の「ジェンダー主流化」という文言に表れている。(撮影/W20日本事務局)
W20アルゼンチンのスサナ・バルボ議長(中央左手、青い服)は、マクリ大統領(その右隣)にW20共同宣言を直接手渡した。女性の視点でG20に政策提言した成果が首脳宣言の「ジェンダー主流化」という文言に表れている。(撮影/W20日本事務局)

 G20には、いくつか、公式エンゲージメントグループがあり、市民社会の視点で政策提言するC20、経済界の視点を届けるB20などに並び、W20は女性の視点からG20に政策提言をしています。たとえば、W20アルゼンチンの活動については、こちらで詳しく見られます。

来年G20議長国の日本にもW20運営委員会あり

 来年、2019年は日本がG20議長国になります。既にW20Japan運営委員会が発足しており上智大学の目黒依子名誉教授、前経団連審議員会副議長・女性の活躍推進委員長の吉田晴乃BTジャパン会長の2人を共同代表に、20名弱の運営委員が集まり、議論や準備を重ねています。筆者も運営委員メンバーとして、主に金融分野のジェンダー平等に関する共同声明案の作成を担当しています。W20日本運営委員会は、11月末に、来日したW20アルゼンチン運営委員会から正式に引継ぎをしました。これから4カ月弱の間に、W20日本として共同宣言をまとめていきます。

11月20日に東京のアルゼンチン大使館で開かれた記者会見。写真左はW20アルゼンチンのバルボ議長。写真右はW20日本の目黒・吉田共同代表。(撮影/W20日本事務局・竹田綾夏)
11月20日に東京のアルゼンチン大使館で開かれた記者会見。写真左はW20アルゼンチンのバルボ議長。写真右はW20日本の目黒・吉田共同代表。(撮影/W20日本事務局・竹田綾夏)

 W20日本運営委員会では「労働」「デジタル」「金融」の平等(equity)そして企業と政府機関の「ガバナンス」を4つの柱として、これから共同声明のたたき台になる文書を作成します。それを日本国内の女性エンパワーメントに関わる人々、G20加盟国・地域の代表者たちと、対面や電子掲示板、電話会議など様々な形で議論し、合意形成する予定です。

W20日本の会議は来年3月23日~24日

 今回、G20ブエノスアイレス首脳共同宣言で、女性に関する記述がとても多かったのは、W20アルゼンチンの働きによるものでした。W20日本としては、さらに付加価値をつけられるように、作戦を練っているところです。

 W20日本運営委員で、W20アルゼンチンの会合にも参加した上智大学の三浦まり教授は次のように話します。

「G20の共同宣言にこれだけ女性の視点が入ったのもマクリ大統領の関心が高かったらです。G7でもトルドー首相の肝いりで“ジェンダー平等諮問委員会”が設置されました。来年のG7議長国フランスのマクロン大統領もジェンダーには熱心に取り組むと伝えられています。日本はG20議長国として、この流れを加速させるのか、それとも後退させるのでしょうか。安倍首相が取り組んできた“女性活躍”は本物なのか、世界の注目が集まっています」

10月始め、ブエノスアイレスで開かれたW20アルゼンチンの会合。(写真提供/三浦まり上智大学教授)
10月始め、ブエノスアイレスで開かれたW20アルゼンチンの会合。(写真提供/三浦まり上智大学教授)
10月始め、ブエノスアイレスで開かれたW20アルゼンチン会合の様子。スクリーンはW20日本運営委員会の目黒依子共同代表が発言する様子。(写真提供/三浦まり上智大学教授)
10月始め、ブエノスアイレスで開かれたW20アルゼンチン会合の様子。スクリーンはW20日本運営委員会の目黒依子共同代表が発言する様子。(写真提供/三浦まり上智大学教授)

 W20の会議は2019年3月23日~24日に東京で、政府主催の国際女性会議WAW!と共同開催です。プログラムも大枠が出来ています。ぜひ、多くの方に参加していただきたいです。

東京科学大学リベラルアーツ研究教育院准教授、ジャーナリスト

1997年一橋大学法学部卒業後、日経BP社で16年間、経済誌記者。2006年~07年ミシガン大学フルブライト客員研究員。2014年からフリージャーナリスト。2018年一橋大学大学院経営学修士。2021年4月より現職。内閣府男女共同参画計画実行・監視専門調査会委員、国際女性会議WAW!国内アドバイザー、東京都男女平等参画審議会委員、豊島区男女共同参画推進会議会長など男女平等関係の公職多数。著書に『稼ぐ妻 育てる夫』(勁草書房)、『炎上しない企業情報発信』(日本経済新聞出版)、『「男女格差後進国」の衝撃』(小学館新書)、『ジェンダーで見るヒットドラマ』(光文社新書)などがある。

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