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起死回生か、悪魔の取引か?維新の安保法制対案―不透明な橋下最高顧問の動き

志葉玲フリージャーナリスト(環境、人権、戦争と平和)
野党共闘は幻に?安保法制反対アピールに参加した維新の初鹿明博議員(中央)は処分

維新の党は、今日8日、政府与党の安保法制案への対案を国会に提出する。その中身は、「地理的制限を明確にする(自衛隊による米軍への協力活動をアジアに限定、地球の裏側まで派遣しない)」「『存立危機事態』による集団的自衛権は認めない」など、政府案に比べると非常に抑制的だ。維新案は、日本有事以外で自衛権の行使ができるのは、日本防衛のために活動する外国軍が攻撃され、日本も攻撃される明白な危険があるという「武力攻撃危機事態」に限るとしている。安保法制に反対している憲法学者の中にも、維新案は「合憲」とする学者がいるとも報じられている。

関連情報↓

安保法制 維新の党 独自案(概要)

https://ishinnotoh.jp/activity/news/2015/data/20150703_anpo_gaiyou.pdf

安保法制 維新の党 独自案(法案、概要)

https://ishinnotoh.jp/activity/news/2015/data/20150701_anpo_web.pdf

ただ、維新案の内容からすれば、現行の個別的自衛権で対応できるものがほとんどで、何故、安倍政権への批判が高まっている今この時期に、わざわざ対案を出すのか、という点で疑問を感じざるを得ない。「憲法違反」との批判を浴びている安保法制を、野党欠席のまま与党のみで強行採決するということは、避けたいというのが安倍政権の本音だろう。そこに、維新の党が「対案」を出してくることは、安倍政権にとっては助け舟になりかねないのである。つまり、「対案」の協議するというかたちで、維新が審議拒否や採決を欠席しなければ、野党の意見も聞きましたよ、と安倍政権は体裁を保つことができる。だから、自民党は維新の対案を「歓迎」しているのだ。派遣法の改悪においても、維新の党は政府案に反対しながらも衆院での採決には応じ、結局、安倍政権へのアシストとなってしまったということを猛省すべきではないか

維新の「対案」の中身がいくら抑制的であっても、政府与党が提出している安保法制のままで採決されたのでは、全く意味がない。NGO関係者などでつくる集団的自衛権研究会の川崎哲氏は「総じて、維新の党の提案は、昨年7月の閣議決定の核心部分を否定しているか、あるいは、政府の法案の主要部分を否定するものだ。法案の修正という形で実のある議論を進められる余地があるとは思われない」と分析。さらに、維新の党がその案に真摯であるならば、「呼びかけるべきは法案の修正ではなく、閣議決定の凍結と見直し」であると論じている(関連情報)。そもそも安保法制自体が憲法違反なのであり、まずは維新を含む野党が一丸となって、これを廃案に追い込んでから、改めて日本の安全保障のあり方について論議してもいいはずだ。

○維新の戦略と疑問点

維新の「対案」について、維新の議員たちはどう考えているのか。維新内部でも、意見が分かれているようだが、ある維新関係者は筆者に対し、こう話す。

「(安保法制は)本来は廃案にすべきと思いますが、維新の党の国会戦略としては、安倍政権がとても受け入れられない高い球を投げた上で、維新案を100%(近く)呑まなければ反対との作戦かと思います」

「マスコミは自民党の補完勢力とのレッテルを貼りたいようですが、以前はともかく、自民党は選挙では敵、そして協力しても手柄は向こう、維新は自己満足と改革イメージの失墜のみと、かなりの議員が感じているはずです」(維新関係者)

ならば、国会戦術的には、審議に応じるフリをして引き伸ばし、「修正しようとしたが、自公案のままでは認められない」と最後の最後で採決を拒否するという方法はある。参院で審議が60日間行われなかった場合、衆院に戻して採決するという、いわゆる「60日ルール」を使う期限が今月24日。そこまで衆院での審議が引き延ばせれば、延長された9月までの今国会内での採決も極めて難しくなる。

なるほど、なかなか興味深い戦術ではあるが、一方でそもそも、今回の対案の提出を強く主張していたのが、橋下徹・維新最高顧問に近い、大阪系の議員達というのが気になるところだ。安倍首相と橋下氏は、大阪都構想で協力するなど、その接近ぶりが指摘されている。先月14日、安倍首相と橋下氏が都内で会談を行ったが、その詳しい内容に関しては「何を話し、何を合意したのか否かなどは、維新の党の議員も知らないと思います」(前出の維新関係者)と正にブラックボックス状態なのだ。

そもそも、仮に維新が安保法制に反対の立場であるならば、渋谷で行われたSEALDsの安保法制反対街頭アピールに参加した初鹿明博衆議院議員に処分を下すというのもおかしいではないか。「大阪都構想に執拗に反対した共産党の志位和夫委員長と握手した」というのが処分の直接の理由だが、都構想と安保法制は別の問題であまりに狭量であるし、それであるならば、自民党も都構想には反対していた。

このように、維新内部ですら情報共有が充分でなく、その一方で議員個人の自由な活動が制限されている。安倍首相と橋下氏が依然協力関係を保っていると観られる中、果たしては維新は本当に憲法違反の安保法制を止めるために動くのか、それとも維新の中の一部の人間のために政権に擦り寄るのか。

大事なことは、日本の人々の未来であって、維新の党内事情ではないということを、有権者も強く訴えていくべきだろう。

(了)

フリージャーナリスト(環境、人権、戦争と平和)

パレスチナやイラク、ウクライナなどの紛争地での現地取材のほか、脱原発・温暖化対策の取材、入管による在日外国人への人権侵害etcも取材、幅広く活動するジャーナリスト。週刊誌や新聞、通信社などに写真や記事、テレビ局に映像を提供。著書に『ウクライナ危機から問う日本と世界の平和 戦場ジャーナリストの提言』(あけび書房)、『難民鎖国ニッポン』、『13歳からの環境問題』(かもがわ出版)、『たたかう!ジャーナリスト宣言』(社会批評社)、共著に共編著に『イラク戦争を知らない君たちへ』(あけび書房)、『原発依存国家』(扶桑社新書)など。

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