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ドーピング検査や居場所報告義務も…渋野日向子が五輪強化指定選手になって受けられる恩恵とは?

金明昱スポーツライター
五輪強化指定選手に承認された渋野日向子(写真:ロイター/アフロ)

 女子ゴルフの渋野日向子が五輪強化指定選手と同等の扱いになることが決まった。

 本来は来年1月まで、現在決定している五輪強化指定選手は変更できないのだが、世界ランキング13位(9日現在)で日本勢2番手という実力から、日本ゴルフ協会(JGA)が特例で承認された形だ。

 では、五輪強化指定選手になると、一体どんなメリットがあるのだろうか。

 まず、選手の希望によって普通は入れない最新の施設が利用できる。

 ナショナルトレーニングセンター、国立スポーツ科学センター宮崎フェニックス・シーガイア・リゾートの利用が可能となる。

 また、メディカルチェック、フィットネスチェック、動作解析、栄養チェック、心理チェック、ドーピングコントロール相談の6つのアスリートチェックが受けられるという。

 こうした施設では他競技のトップアスリートも集うため、情報共有や自身のコンディション向上に役立てるには最適の場所であるのは間違いない。

各国ツアーで実施されているドーピング検査

 ただもう一つ、五輪強化選手になった渋野を待ち受けるのがドーピング検査だ。

 五輪に出場するようなトップアスリートには、ドーピング検査がつきものだが、渋野もそれと向き合わなければならなくなる。

 ゴルフが五輪競技に116年ぶりに復帰したのが2016年リオデジャネイロ五輪からだが、それに合わせて世界の各ゴルフツアーでもドーピング検査が行われるようになった。

 米PGAツアーは2009年から開始。日本ゴルフ協会(JGA)でも07年から日本アマチュアゴルフ選手権と日本女子アマチュアゴルフ選手権で検査が開始された。

 10年からは日本オープンと日本女子オープンでも実施されている。

 ドーピングを受ける選手はランダムに選ばれるが、大会優勝者は検査対象になる。

チョン・インジも日本で検査対象に

 私が現場でドーピング検査対象になった選手を直接見たのは、15年日本女子オープンで優勝した韓国のチョン・インジだった。

 すべてのギャラリーや選手が帰ったあと、ドーピング検査があったことで日没後まで長らくゴルフ場に居残り、とても疲れた表情は今でも忘れられない。

 また、日本ゴルフツアー機構(JGTO)は09年から、日本女子プロゴルフ協会(LPGA)は10年からツアーでドーピング検査を実施。こちらも抜き打ちや優勝者を対象に年間で数試合、行われているという。

 つまり、実力のある選手ほど、検査対象になりやすいということだ。

 ちなみに、いずれの団体でも採用されている検査方法は尿検査で、担当者からピタリとマークされながら行われている。

「居場所の報告が義務付けられる」

 日本ゴルフ協会(JGA)によれば、「五輪強化選手に指定されると抜き打ちのドーピング検査に協力する必要があります」という。

 対象となった選手は、練習時間や居場所をあらかじめ報告することが義務づけられているのだ。

 ドーピングコントロールオフィサー(DCO)と呼ばれる資格を持つ検査員が、選手がいる場所に予告なしに訪れることもある。

 仮に申告した場所に本人がいなければ、罰則の対象になる可能性があるわけだ。

 そんな状況について女子のトッププロゴルファーの母が以前、こんなことを話していた。

「(五輪強化指定選手は)どこにいるかを常に報告しておかないといけないので本当に大変です。急に予定が変わったりすることもあるので、事前に申告した情報と違う場所に行くことになると、またそれを報告しないといけないんです」

 そこまで気を回さなくてはならないのは、かなり負担であることは想像がつく。

「市販の薬は絶対に飲まない」

 また、別のことで神経をとがらせなければならない部分もある。

 成績上位のある女子プロゴルファーは「風邪をひいても市販の薬は飲みません。頭痛薬の類も飲みません。とにかく服用する薬には気を付けています」と話す。

 また、ジュニア時代から国際大会に出場経験のある女子プロゴルファーも「アマチュア時代から国際大会で検査を受けたことがあるので抵抗はありません。ドーピングに抵触しない薬を処方してもらうようにしています」と語っていた。

 五輪強化指定選手になると、病気をしたときに服用する薬までも気を付けなければならず、あらゆる部分で自己管理の徹底が求められるわけだ。

 渋野も強化指定選手になったからには、恩恵を受けつつもこうした苦労も乗り越えていかねばならない。

スポーツライター

1977年7月27日生。大阪府出身の在日コリアン3世。朝鮮新報記者時代に社会、スポーツ、平壌での取材など幅広い分野で執筆。その後、編プロなどを経てフリーに。サッカー北朝鮮代表が2010年南アフリカW杯出場を決めたあと、代表チームと関係者を日本のメディアとして初めて平壌で取材することに成功し『Number』に寄稿。11年からは女子プロゴルフトーナメントの取材も開始し、日韓の女子プロと親交を深める。現在はJリーグ、ACL、代表戦と女子ゴルフを中心に週刊誌、専門誌、スポーツ専門サイトなど多媒体に執筆中。

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