メジャー最弱球団の公式アカウントの中の人に聞きました。
今年は開幕してから、シンシナティレッズの勝敗が気になっている。
4月19日、3勝15敗、プライス監督が解任された。ベンチコーチのリグルマンを監督代行にしたが、勝ちは遠く、4月22日には3勝18敗。この直近の2試合は2連勝して、チームの勝率がようやく2割台に到達した…。
彼は苦労しているだろうか。若くて温和なレッズのSNS(ソーシャル・ネットワーキング・サービス)担当者の顔を思い浮かべた。スプリングトレーニングで、レッズのSNS担当にほんの少し取材させてもらう機会があった。
レッズは2015年から3年連続で90敗以上している。今シーズンの開幕からの約一か月は前述した通り。低迷する球団の公式アカウントを担当するのは生易しいものではないだろう。ファンに向けて発信するべきことが起こらないのだから。
2017年には、カブスのSNS担当にも話を聞かせてもらったことがあった。カブスのSNS担当からは「負けた試合については、結果以外は沈黙です。ツイートしません」と教えてもらった。タイガースのSNS担当も同じようなことを言っていた。負けた試合は、ファンが見たい内容がないため、SNSに掲載するのは結果だけだという。
昨年、ナ・リーグ中地区優勝をしたカブスなら、負けた日は結果以外に投稿しないで済むだろう。
しかし、レッズのように年間90試合以上も負けている球団の担当者はどうしているのだろうかと関心があった。
失礼な質問だと思ったけれど、レッズの公式アカウントの中の人に「負け試合が多いときには、どのような工夫をされているのですか」と聞いてみた。
レッズのSNS担当のクンドルさんは、嫌な顔ひとつせず、穏やかな口調で答えてくれた。
「レッズはとても歴史のあるチームです。ビッグレッドマシンなどの歴史があります。若いフォロワーにチームの歴史を伝えることをし、そして、未来を担う期待の選手たちを紹介します。マイナーの有望選手を紹介することで、将来いいチームができるのではという期待につなげます」
なるほど、と膝を打った。レッズはその前身球団であるレッドストッキングスという名前で1882年から存在しているチーム。1970年代は常勝軍団だった。ピート・ローズ、ジョー・モーガン、ジョニー・ベンチらが中心だったチームはその強さから「ビッグレッドマシン」というニックネームで呼ばれていた。75年、76年はワールドシリーズを連覇している。
レッズの公式アカウントを見ると、ノスタルジックな画像をうまく使い、当時を知らない世代へとアピールしていることが分かった。同時に、昨年のレッズのドラフト1位選手、ハンター・グリーンら期待できそうな選手のマイナーでの活躍も盛り込んでいた。
球団の公式アカウントは強力なマーケティングツールだ。いかにしてフォロワーになってもらうか、そして、球団との心理的な結びつきを感じてもらえるような内容にするかが重要だ。
スポーツファンの心理を表すものとして、BIRGとCORFと呼ばれるものがある。
BIRGはBasking in reflected gloryの頭文字を取ったもの。ファンは、成功しているチームと結びつきを感じることで、ファンもその恩恵を受けようとする態度を意味している。だから、チームの勝利は、(チームと一体化している)私たちの勝利でもあるのだ。
CORFはCutting off reflected failureの頭文字を取ったもの。不成功のチームや選手との結びつきを切ることで、ファンは自分自身の気持ちを守り、他者から低い評価をされることを避けようとする態度を表している。
常勝チームはBIRGを利用して、ファンにチームとの結びつきをより感じてもらえるようすればよい。勝った試合や選手の好プレーはSNSに投稿し、負けた試合では、カブスやタイガースの担当者が言うように結果以外にツイートしないほうがよいのだろう。逆に、低迷するチームは、CORFのごとく、ファンに見限られないようにしなければいけない。
シンシナティレッズ公式の中の人であるクンドルさんは、チームが負けても、歴史と有望選手を紹介することでファンの心をつないでいこうとしている。昨年のメッツなどは時折、自虐ツイートも見かけたが、レッズは自虐ツイートはあまりしていないようだ。
低迷チームほど、勝利は特別なものになる。
レッズは、23日にブレーブス戦には中盤に逆転し、追い上げられたものの、逃げ切って勝利。24日の同じブレーブス戦では終盤に追いつかれたが、延長でサヨナラ勝ちした。公式アカウントは、中盤に勝ち越した試合では、経過を知らせる短文を次々に投稿。ファンの祈りにも似た気持ちに寄り添っていた。
スプリングトレーニング中に話を聞いたとき、クンドルさんは、チームの勝利を強く願っているけれども、苦労はしていないように見えた。恐らく今も、レッズの価値を高め、若いファンにアピールすることに忙しいのだと思う。