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ロシア海軍病院船「イルティシュ」が急きょ帰還、津軽海峡を西進

JSF軍事/生き物ライター
【参考画像】ロシア海軍病院船イルティシュ。2014年10月2日に自衛隊が撮影

 4月7日、ロシアのショイグ国防相はオホーツク海でロシア太平洋艦隊の主力と共に演習を行っていた病院船「イルティシュ」に急きょウラジオストクへの帰還命令を発しました。ロシア沿海州での新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に対応するために病院船を呼び戻し、病院船に非コロナウイルス患者を受け入れて地上の病院がコロナウイルス患者の治療に専念させる目的と伝えられています。

ロシア海軍太平洋艦隊オビ級病院船「イルティシュ」の動向は平常通り(2020年4月5日)

 病院船イルティシュが3月26日に大艦隊と共にオホーツク海に入った際に「ロシアで異変が起きている」と一部で誤解されましたが、これ自体は数年おきに見られる平常通りの大規模演習の風景であり、むしろ演習中の病院船を急きょ呼び戻す事態になった今こそが危機への新たな対応が始まったと言えるでしょう。ロシアの首都モスクワではコロナウイルス感染者が急増しており、それはまだロシア極東にまでは伝播していませんが、念のために早めに対策を打っておく必要があると判断されたのだと思われます。

 なお病院船イルティシュは3月26日に大艦隊と共に宗谷海峡(北海道とサハリン島の間の海峡)を東進していましたが、4月12日に津軽海峡(北海道と青森県の間の海峡)を西進している様子が北海道の函館の陸上から視認されてます。行きと帰りでルートを変えていました。

 

 なお海峡通過時に位置を知らせるAISは発信していなかった模様です。日本自衛隊は単独で行動する他国海軍の病院船の動向を発表することはほとんど無く、今回も海峡通過の発表はありませんでした。病院船は非武装であり脅威ではないからです。

 そして翌4月13日に病院船イルティシュはウラジオストクに帰港し、ロシア沿海州の新型コロナウイルス対策の支援任務に就くことになりました。病院船は隔離できる個室が少なく伝染病対応に向いていない為、病院船には非コロナウイルス患者を受け入れて地上の病院がコロナウイルス患者の治療に専念できるように支援するという方針は、アメリカがコロナウイルス対策で行っている病院船の運用方針と同じです。

 しかしアメリカの病院船は運用が上手く行っておらず、ニューヨークに展開した病院船「コンフォート」は方針の変更を余儀なくされています。通常の患者がコロナウイルスに感染していないかどうかの検査に時間が掛かった上に、検査の精度の問題で陰性と誤判定された患者が乗船後に陽性と判明したケースが相次いだためです。

  • アメリカ海軍病院船「マーシー」 ロサンゼルス
  • アメリカ海軍病院船「コンフォート」 ニューヨーク
  • ロシア海軍病院船「イルティシュ」 ウラジオストク

 現在、各国の病院船で以上の3隻が新型コロナウイルス感染症(COVID-19)対策の支援で出動しています。日本でも病院船保有の是非を問う議論がある中で、これらの病院船が実際にどれだけ緊急事態で役立つものなのか、活動を注視していきたいと思います。

 なおロシア海軍で稼働状態にある病院船は太平洋艦隊のイルティシュ1隻のみです。オビ級病院船は他に2隻が予備役の状態で残っていますが、これは今直ぐには動かすことはできません。

軍事/生き物ライター

弾道ミサイル防衛、極超音速兵器、無人兵器(ドローン)、ロシア-ウクライナ戦争など、ニュースによく出る最新の軍事的なテーマに付いて兵器を中心に解説を行っています。

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