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「大阪都構想に終止符を打ち大阪市を存続させる」に対し、「大阪市は無くならない」と言う維新の詭弁

幸田泉ジャーナリスト、作家
大阪都構想に反対して大阪府知事選に出馬した小西・元大阪府副知事(中央)=筆者撮影

 「大阪維新の会」が掲げる「大阪都構想」の是非を最大の争点として、大阪府知事選挙が3月21日、戦いの火ぶたを切った。

 「大阪都構想に終止符を打つ」と、反維新候補として立候補した小西禎一・元大阪府副知事。JR大阪駅前の街頭演説で「大阪都構想は既に破綻している。百害あって一利なし。この選挙は都構想議論を終わらせる絶好の機会であり、最後のチャンス」と声を上げた。続く大阪市長選に立候補を予定している柳本顕・元大阪市議も小西・元副知事に並び立ち、「大阪都構想は大阪市を廃止、分割するもの。大阪市を存続させるから未来が開けるはず」と訴えた。

維新の松井知事は「大阪市は無くならない」と強弁

 

「大阪都構想で大阪市は無くならない」と訴える松井知事=筆者撮影
「大阪都構想で大阪市は無くならない」と訴える松井知事=筆者撮影

 大阪都構想とは政令市の大阪市を廃止し、特別区に分割する構想である。維新は大阪都構想に「身近な住民サービスの拡充」「公共サービス事業の民営化」などの意味付けをしているが、根幹は「大阪府と大阪市の二重行政を無くす」ために大阪市ごと無くすという前代未聞の自治体再編だ。自民党、公明党、共産党の野党会派は「大阪市廃止」に反対だから大阪都構想に反対であり、自民党と公明党大阪府本部は大阪市を存続させるために府知事選と大阪市長選に維新候補の対抗馬をかついだのだ。

 この最も基本的な部分で、維新は論点をずらして「大阪市は無くならない」と主張する。

 大阪府知事選告示日の3月21日、小西陣営が去った後のJR大阪駅前で、「大阪維新の会」の代表、松井一郎・大阪府知事はマイクを握り「大阪都構想は大阪市が無くなるという話ではありません」と聴衆に言った。

「(反対派は)大阪市が無くなると不安をあおっているだけです。大阪都構想は役所の役割分担の話。この駅前が消えてなくなるのか、皆さんの住んでいるコミュニティが無くなるのか、そんな話じゃない。大阪都構想で無くなるのは大阪市役所。『大阪市が無くなる』というのは、要は市役所至上主義です。昔の市役所を思い出してください。議会も自民党から共産党までみーんなグルでした。皆さんの税金をパクパクムシャムシャ、皆さんの見えない所で食べ続けた。市役所至上主義の議員のなれ合い、もたれ合い、とにかく議員という既得権益を守りたい」

 大阪市の廃止に反対するのは市役所至上主義者だとし、大阪市という自治体が無くなることには言及しない。松井知事は府知事選の告示前に行われたテレビ討論でも「(大阪市の)土地や街並みが無くなるわけじゃない」などと述べ、小西・元副知事から「そういう話ではなく、地方公共団体としての大阪市が無くなるという話をしている」と指摘される一幕もあった。

2015年の住民投票における「大阪市廃止」のマイナスイメージ

 大阪都構想は大阪市を廃止するものだというシンプルな事実を、なぜ維新関係者は市役所至上主義や既得権益という言葉を使って粉飾しようとするのだろうか。

 松井知事と橋下徹・元大阪市長が府市のトップだった2013年、法律で定められた大阪都構想の協議会がスタートしたが、松井知事も橋下・元市長も最初から「大阪市廃止」を隠そうとしていたわけではない。2015年にいよいよ大阪都構想の賛否を問う大阪市民の住民投票が行われることになり、「大阪市が無くなる」と訴える都構想反対運動が展開されるのに合わせて、マスコミの世論調査でも「反対」が増えてきたのだ。そこで、同年5月の住民投票直前に「大阪都構想で大阪市は無くならない、大阪市役所が無くなるだけ」という維新の詭弁が登場した。

 住民投票が僅差で「反対多数」となって大阪都構想が否決された後、都構想の危険性を指摘してきた藤井聡・京都大大学院教授(公共政策論)が大阪市民を対象に意識調査を実施したところ、大阪都構想とは大阪市を廃止する構想だと正しく認識していた人は1割以下だった。ただし、その1割の人のうち9割近くは住民投票で「反対」を投じていた。

 維新は4年前の住民投票ではかなり市民が混乱した状態で投票したと認識しつつ、「大阪市が無くなることを認めると大阪都構想の推進に不利になる」と学習し、大阪都構想の再挑戦では大阪市廃止を大阪市役所廃止にすり替えるようになったのだろう。このスタンスを選挙戦でも貫いているということだ。

「大阪市は無くならない」と大阪市長選に臨む不誠実

 

 今回の大阪府知事選と3月24日に告示される大阪市長選は、維新の知事と市長が「大阪都構想の再挑戦に民意を問う」と任期途中で辞職し、ポストを入れ替えて出馬するという極めて特殊な選挙だ。松井知事は知事を辞職して、大阪市長選に立候補すると表明している。大阪都構想実現のためにわざわざ知事を辞職して大阪市長になろうという人が、大阪市民に対し「大阪都構想で大阪市は無くならない」などと言うのは、詭弁どころか虚偽説明である。

 大阪市を廃止したら大阪が発展すると思い込むのは維新政治家の勝手だとしても、「民意を問う」と選挙戦に打って出るからには、せめて大阪都構想が「大阪市の廃止、分割」構想だという制度設計の基本中の基本は正しく市民に説明するべきだ。肝心な部分を粉飾して大阪市長に当選しても、それは民意を問うたのではなく市民を騙したことにしかならない。

ジャーナリスト、作家

大阪府出身。立命館大学理工学部卒。元全国紙記者。2014年からフリーランス。2015年、新聞販売現場の暗部を暴いたノンフィクションノベル「小説 新聞社販売局」(講談社)を上梓。現在は大阪市在住で、大阪の公共政策に関する問題を発信中。大阪市立の高校22校を大阪府に無償譲渡するのに差し止めを求めた住民訴訟の原告で、2022年5月、経緯をまとめた「大阪市の教育と財産を守れ!」(ISN出版)を出版。

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