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かつて甲子園を沸かせた速球王が台湾で4年ぶりの「一軍」マウンドに立つ【台湾リーグレポート】

阿佐智ベースボールジャーナリスト

 台湾の玄関口の国際空港がある桃園は、台湾屈指の「野球処」である。現在開発が進んでいる比較的若い町であるが、発足当初フランチャイズ制を敷かなかった台湾プロ野球CPBLにあって、ある意味最初に本格的に「地域密着」を打ち出した町がこの桃園市である。 

 2010年にそれまで南部の都市高雄に本拠を置いていたLa Newベアーズが2009年に完成していた桃園国際野球場にホームスタジアムを移し、球団名もラミゴ・モンキーズと改めた。以後、モンキーズは10年の間に6回の台湾シリーズ制覇を成し遂げ黄金時代を築き、CPBL屈指の人気球団に成長する。しかし、2019年の球団創設以来7度目の台湾チャンピオンを置き土産に親会社のLa Newは球団を手放すことを決断した。そしてこのチームを買収したのが日本でも球団を保有している日系企業・楽天であった。

 ちなみに台湾で「楽天」といえば、それまでは韓国プロ野球のロッテ球団を意味していた(両者を区別するためだろうか、なぜか日本の千葉ロッテは「羅徳」と表記する)のだが、企業色の強い台湾プロ野球にあって楽天は球団名の読みを日本語そのまま「RAKUTEN」とした。その一方で買収当初は日本と同じく「ゴールデンイーグルス」とするとも言われていたニックネームはそのまま「モンキーズ」を採用、本拠地もそのままとし、地域密着を継続した。人気のチアガールも「ラミガールズ」から「楽天ガールズ」にその名を改めたものの、活動を継続して人気を博している。

 現在のモンキーズの本拠は、その名も楽天桃園野球場と改められ、楽天のコーポレーションカラーであるクリゾンレッドに染められている。日本の球団同様、「食」へのこだわりは他のどのチームよりも強く、一塁側内野スタンド中のフード店舗は、ここは日本の球場かと見紛うほど日本のB級グルメであふれている。

桃園球場のフードコーナー
桃園球場のフードコーナー

 28日の試合は、その本拠・桃園球場に前日首位に立った富邦ガーディアンズを迎えての一戦。楽天は5チーム中4位とは言え、首位との差はわずか2ゲーム。両者ともポストシーズンに向けて負けられない一戦となった。先発には楽天が今シーズンをアメリカ独立リーグでスタートさせたジェイク・ダールバーグ、富邦が昨シーズン3Aで9勝を挙げたマシュー・ケントのともに左腕の助っ人をたててきた。

今シーズン途中にアメリカ独立リーグのシカゴ・ドッグスから移籍してきたダールバーグ(楽天)
今シーズン途中にアメリカ独立リーグのシカゴ・ドッグスから移籍してきたダールバーグ(楽天)

 首位固めをしたい富邦は初回に1点を先制したが、その裏に楽天も3番に入った指名打者廖健富のツーランで逆転する。その後も楽天は4回に主砲・朱育賢のツーベースを足がかりに1点、さらに6回にも林子偉のソロホームランでもう1点を追加した。

逆転2ランを放ってベンチに迎え入れられる廖健富(楽天)
逆転2ランを放ってベンチに迎え入れられる廖健富(楽天)

 そして8回裏に4安打を集め一挙4点を追加し、8対1として試合を完全に決めると、楽天ベンチは、7月初旬に日本の独立リーグ・ルートインBCリーグの埼玉武蔵ヒートベアーズから移籍してきた(佐藤)由規を9回のマウンドに送った。仙台育英高校時代は甲子園を沸かせ、2007年ドラフトでは唐川侑己(ロッテ)、中田翔(巨人)とともに「高校ビッグ3」に数えられたこともある剛球投手だったが、楽天イーグルス時代の2019年以降一軍の舞台からは遠ざかっていた。

台湾初登板となった由規(楽天)
台湾初登板となった由規(楽天)

 由規は、相手の先頭バッターを3ボール2ストライクまで追い詰めた。しかし、このバッターがバットを折りながら放ったファーストゴロを朱育賢が後逸。その後も三振で1アウトを取ったものの、3安打を浴び、2点を失い降板となった。

 CPBLの外国人選手登録の期限は今月末まで。月曜の試合に適用されるベンチ入り選手1人拡大の枠を使っての初の一軍登板が自身にとってどのような意味をもつのかは由規自身が一番分かっていることだろう。この日対戦した5人目の打者がセンター前ヒットを放ち2点を失ったところでベンチから出てきた監督が審判からボールを受け取り、マウンドに向かって来たとき、彼はなにか達観したような表情で白い歯を見せた。

 結局試合は、由規の後を継いだベテランの陳鴻文が後続を断ち切り楽天が逃げ切り、順位は変わらないものの、首位富邦と1ゲーム差とした。

(写真は筆者撮影)

ベースボールジャーナリスト

これまで、190か国を訪ね歩き、23か国で野球を取材した経験をもつ。各国リーグともパイプをもち、これまで、多数の媒体に執筆のほか、NPB侍ジャパンのウェブサイト記事も担当した。プロからメジャーリーグ、独立リーグ、社会人野球まで広くカバー。数多くの雑誌に寄稿の他、NTT東日本の20周年記念誌作成に際しては野球について担当するなどしている。2011、2012アジアシリーズ、2018アジア大会、2019侍ジャパンシリーズ、2020、24カリビアンシリーズなど国際大会取材経験も豊富。2024年春の侍ジャパンシリーズではヨーロッパ代表のリエゾンスタッフとして帯同した。

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