北朝鮮が2種類の自爆無人機を開発、イスラエル製ハロップやHERO、ロシア製ランセットなどに酷似
8月26日、北朝鮮は新型の自爆無人機2種類を公開しました。8月24日に金正恩総書記が国防科学院無人機研究所の実射試験を視察しています。北朝鮮が自爆無人機を公開するのはこれが初になりますが、機密保持のために機体にはモザイク処理が掛けられた加工写真となっています。
2種類の自爆無人機はデルタ翼型と十字翼型で、どちらもイスラエル製によく似ています。十字翼型の方はロシア製のものにも似ている形状で、北朝鮮は両方を参考にして開発した可能性が高いでしょう。
デルタ翼型自爆無人機=イスラエル製に酷似
北朝鮮のデルタ翼型自爆無人機はイスラエルIAI「ハロップ」に形状が酷似しています。RATO(離陸補助ロケット)で発進した後に機体後部のプロペラで推進する方式も同じです。
実はイスラエルIAI社のハロップの元となった自爆無人機「ハーピー」は世界中によく売れている自爆無人機で、自爆無人機の先駆けとも言える有名な存在です。中国はいち早くこれに着目し1994年ごろにイスラエルからハーピーの購入を開始し、その後にイスラエルの政策が転換し輸出停止された後にリバースエンジニアリングによって模倣品を自力で製造しています。これを見た台湾は対抗して同じようなハーピー模倣品を開発し(こちらは独自開発で形状がよく似ているだけ)、さらには韓国も同様にハーピー模倣品を開発しました。
そして北朝鮮がハーピーの上位版であるハロップの模倣品を開発したことで、東アジアでハーピー型の自爆無人機を保有していないのは日本だけとなっています。なおイスラエル製の正規品は中国の初期購入分だけで、あとは違法コピーだったりコピーではないが模倣した設計だったり、勝手に真似をして開発し量産している状況です。
十字翼型自爆無人機=イスラエル製とロシア製に酷似
北朝鮮の十字翼型自爆無人機は以下のイスラエル製とロシア製の自爆無人機によく似ています。
- イスラエルUVision社「HERO」シリーズ
- ロシアZALAアエロ社「ランセット」シリーズ
特にHEROシリーズの大型モデル「HERO400」に主翼の形状がよく似ています。またランセットの小型モデル「イズデリエ51」にもやや似ています。
ただし気になるのは発射型式です。発射筒からガス圧で打ち出した後に機体後部の推進プロペラを駆動する方式ですが、明らかに機体の直径よりも発射筒の直径の方がかなり大きくなっています。
発射筒からガス圧で打ち出す方式は「HERO」シリーズの小型モデルや「ランセット」シリーズのイズデリエ53など一部のモデルにありますが、発射筒内にコンパクトに収めるために、主翼の装着をズラして折り畳む際に主翼の面を胴体に密着させることで収納時の仕舞い寸法の小型化を図っています。しかし北朝鮮の新型の十字翼型自爆無人機にはこの機構は見当たりません。
参考:HERO30とランセット(イズデリエ53)
※イズデリエ(изделие)とはロシア語で「製品」の意味。
北朝鮮の新型自爆無人機(十字翼型)
北朝鮮の十字翼型自爆無人機の機体の後方にばらけた部品は発射筒内でガス圧力を密封して受け止めるもので、短い円筒部品の直径が発射筒の内径と一致します。胴体直径の3倍近い直径になります。つまりこれは主翼の畳み方がHERO30やランセット(イズデリエ53)とは異なることを意味しており、畳んだ主翼が胴体よりも大きく突出している筈です。
参考:ロシア軍ランセット自爆無人機(イズデリエ52)の輸送形態
ロシア軍のランセット自爆無人機の大型モデル「イズデリエ52」の主翼は折り畳めますが、これは輸送用の形態です。前線で兵士が主翼を手で展開して組み立ててカタパルトに乗せて射出します。主翼をそのまま前に倒して翼の前縁が胴体に密着する畳み方なので嵩張る方式ですが単純な構造で、主翼を固定する方式から大きな改設計が必要ありません。
そして推定になりますが、北朝鮮の十字翼型自爆無人機の主翼の畳み方はこのランセット通常型の輸送形態と同じであり、嵩張る収納型式であっても巨大な発射筒を用意して発射している可能性があります。
なおHERO400の主翼の畳み方もイズデリエ52とやや似ていますが、折り畳む際に主翼を捻ることで翼面を胴体に密着させて仕舞寸法を小さくコンパクト化する工夫が施されています。また発射機は筒状ではなく箱型になります。北朝鮮がこちらの方式を採用し、発射機のみ筒状に形態を変更した可能性もあります。
参考:イスラエルUVision社「HERO400」の主翼折り畳み方
つまり北朝鮮は参考にしたものをそのままコピーするのではなく、独自に設計を変えて開発していることになります。形状はよく似ていますが構造が異なっています。本家のイスラエルやロシアが採用しなかった形態で発射を行う利点は不明ですが、北朝鮮の独自の考え方があるのでしょう。