好左腕ズラリ! 夏の甲子園 49代表決まる
49代表が出揃った。大阪桐蔭、敦賀気比(福井)、高松商(香川)、龍谷大平安(京都)など、センバツで活躍した強豪が敗れる波乱の予選ではあったが、逆にセンバツを逃した全国屈指の好投手が大きな期待を背負って甲子園のマウンドに立つ。最後の夏に初めて大舞台を踏む横浜(神奈川)の152キロ右腕・藤平尚真(3年)と履正社(大阪)の大型左腕・寺島成輝(3年=タイトル写真)だ。さらに昨夏から3大会連続となる花咲徳栄(埼玉)の高橋昂也(3年)、センバツで大阪桐蔭を倒した木更津総合(千葉)の早川隆久(3年)、センバツの雪辱を期す常総学院(茨城)の鈴木昭汰(3年)ら実力派左腕がさらに成長した姿を見せる。
履正社は大型左腕の寺島
予選の最後に大物投手を擁する東西の横綱級チームが甲子園を射止めた。左右の世代ナンバーワンの寺島と藤平の競演が、大会の話題をさらうことは間違いない。
寺島は昨夏、予選の初戦で大阪桐蔭と当たって完敗。秋も近畿大会に進めず、最後の夏に懸けた。春以降、チームは劇的に強くなる。控え左腕の山口裕次郎(3年)が急成長し、春の大阪大会での大阪桐蔭撃破、続く近畿大会優勝の原動力となった。また4番の安田尚憲(2年)が、今年になってから30本塁打を放つなど、同校の課題だった得点力が飛躍的に伸びた。これにより、寺島が全ての試合で全力投球を余儀なくされることもなくなり、チームとして戦い方に幅が出た。予選では、有力投手のいた5回戦の大体大浪商戦以外は猛打で楽勝。浪商戦は寺島が3安打13三振で完封(2-0)し、最大のヤマを超えた。ライバル・桐蔭が早々に姿を消し、直接対決は実現しなかったが、今チームの力量を比較すれば、履正社に軍配が上がっていた可能性が高い。寺島は、「(甲子園が決まって)今までで一番嬉しい。優勝をめざしたい」と意気込んだ。
名将に「甲子園に立たせたい」と言わしめた藤平
全国屈指の激戦、神奈川の頂点に立ったのが横浜。早くから注目されていた藤平は、慶応との決勝でも自己最速タイの152キロを計測するなど、本領を発揮した。185センチの恵まれた体から、上体を伸び上がらせるようにして投げ下ろす。千葉の中学時代は陸上の走り高跳びで全国2位に入ったアスリートでもあり、打棒も非凡だ。昨夏限りで退任した渡辺元智・前監督(71)もセンバツ解説で来阪した際、「甲子園に立たせたい逸材」と絶賛する。平田徹監督(33)の初陣となる今大会は、スーパー1年生・万波中正らの活躍で、神奈川予選新記録の14本塁打を放った打線も強力。投打にハイレベルでまとまる履正社と横浜が、優勝戦線でツートップを形成する。
評価うなぎ上りの高橋昂
春以降、最も評価を上げているのが、高橋昂だ。
昨夏は優勝の東海大相模(神奈川)にサヨナラ負けし、今春センバツも秀岳館(熊本)に6回で10安打され、初戦敗退を喫した。昨夏の印象が強く今春の投球は意外だったが、ここにきて本格化。最速は152キロまで伸び、レベルの高い埼玉の予選を37回で52奪三振無失点と、非の打ち所がない。昨夏は、力任せに投げて三塁側にバランスを崩すシーンも見られたが、下半身が安定して、制球もまとまってきた。速球だけでなくフォークやスライダーも一級品で、寺島とともにドラフト1位指名を有力視されている。最後の大舞台でどこまで本領を発揮できるか。寺島、藤平、高橋昂が、今世代全国高校ビッグ3で、彼らの直接対決が実現するか、夢は広がるばかりだ。
木更津総合・早川、常総・鈴木にも期待
今春、大阪桐蔭を破って評価を確かなものにした早川も、最後の夏に燃える。高橋昂よりも安定感がある印象で、チェンジアップやカーブを低めに集め、勝負どころを知っている実戦派投手だ。センバツでは、微妙なストライク判定に泣き逆転サヨナラで散ったが、今夏千葉予選では粘り強い投球で僅差試合をモノにした。昨秋の神宮で大阪桐蔭に負け、それをバネに成長。今春の悔しさを夏の予選突破につなげた。球速アップが課題だが、変化球と投球術は抜群で、「勝てる」投手として、自身初めての夏の大舞台に挑む。常総の鈴木も、夏の甲子園は初めてになる。一昨年センバツで、大阪桐蔭と互角に渡り合って注目を浴びたが、今春は、鹿児島実に8回を9安打4失点と崩れ、調整不足を感じさせた。最速は143キロだが、キレのいいスライダーを主武器に、変化球のコンビネーションは秀逸。センバツ後に痛めた肩ヒジも完治し、一皮むけた投球を披露しそうだ。
右腕では藤嶋(東邦)、高田(創志)、京山(近江)ら
好左腕の目立つ今大会だが、右腕では、東邦(愛知)の藤嶋健人(3年)が挙がる。
最速146キロで、速球を軸にした典型的なパワー投手。気迫溢れる投球で、相手を圧倒するが、カーブやスプリットなどの変化球にも磨きがかかり、3度目の大舞台で頂点を狙う。予選で154キロを出し、プロのスカウトを仰天させた創志学園(岡山)の高田萌生(3年)も春に続く出場。スライダーも一級品で、マウンドさばきも素晴らしい。この両者の実力は甲子園で実証済み。松山聖陵(愛媛)を初出場に導いたアドゥワ誠(3年)は、ナイジェリア人の父と、バレーボール選手だった日本人の母を持つ196センチの大型右腕だ。直球とチェンジアップのコンビネーションが武器で、初の大舞台でどこまで力を発揮できるか。将来性では近江(滋賀)の京山将弥(3年)も評価が高い。183センチのいかにも投手らしい体つき。右投手のベストピッチである外角低めに、最速145キロの速球を投げ込む。昨春センバツで聖地マウンドを経験。昨夏以降は腰痛で低迷していたが、今夏を前に復調し、予選も無失点で切り抜けた。6年連続の作新学院(栃木)・今井達也(3年)も149キロの速球が魅力の本格派。制球に課題を残すが、聖地で150キロ超えを狙う。
打者は、安田(履正社)、寺西(星稜)の2年生に逸材
ここまで好投手の揃う大会も珍しいが、その分、打者に逸材が少ないともいえる。早稲田実(西東京)の清宮幸太郎(2年)が、春に続いて甲子園を逃したが、今大会では同世代(2年生)の長距離砲に注目する。先述の履正社・安田は、188センチの左打者で、予選は2本塁打。通算38本塁打で、先輩のT-岡田(オリックス)が高校時代に放った55本超えを狙う。星稜(石川)の寺西建も左の大砲で、予選決勝で本塁打を記録した。191センチの体格、小、中学校が松井秀喜氏と同じで、直系後輩として「ゴジラ二世」の呼び声もある。単純比較は酷だが、飛距離は本家に引けをとらない。エースも兼任するため、寺西の活躍がチームの成績に直結する。
優勝候補は横浜、履正社と関東勢
さて、優勝候補は?まず、横浜、履正社が戦力バランスから2強とみる。特に履正社は、2枚の完投能力のある好投手と、伸び盛りの2年生が引っ張る打線が絶好調で、初優勝の大きなチャンスだ。
センバツ4強の秀岳館(熊本)も有力。打線だけなら大会随一で、多彩な投手陣も魅力。さらにセンバツ優勝の智弁学園(奈良)は、村上頌樹(3年)の復調がカギ。予選では、公立の磯城野、郡山を延長で振り切り、ライバル天理にも終回1点差に迫られる苦闘の連続だった。それでも負けないのは力がある証拠だ。他には、先述した好投手のいる関東勢、東邦、昨夏も活躍した左腕・堀瑞輝(3年)が急成長の広島新庄、3年連続の九州国際大付(福岡)などが挙げられるが、とりわけ、関東勢が粒揃いの印象を受ける。