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なぜチェルシーは“169億円”でE・フェルナンデスを獲得したのか?クロップの言葉と高額な移籍金の課題

森田泰史スポーツライター
チェルシーに移籍したエンソ・フェルナンデス(写真:ロイター/アフロ)

レコードの移籍金で、取引が成立した。

チェルシーは今冬の移籍市場でエンソ・フェルナンデスを獲得した。移籍金1億2100万ユーロ(約169億円)ベンフィカに支払われ、エンソ・フェルナンデスの移籍が決まった。

これはプレミアリーグ史上、最高額の移籍金である。世界的に見ても、規格外だ。

ネイマール(2億2200万ユーロ/約310億円/パリ・サンジェルマン)、キリアン・エムバペ(1億8000万ユーロ/約252億円/パリ・サンジェルマン)、ウスマン・デンベレ(1億4000万ユーロ/約196億円/バルセロナ)、フィリップ・コウチーニョ(1億3500万ユーロ/約189億円/バルセロナ)、ジョアン・フェリックス(1億2700万ユーロ/約177億円/アトレティコ・マドリー)に次いで史上6番目の移籍金になっている。

■カタールW杯で評価が爆上がり

カタール・ワールドカップで、評価を高めた選手たちがいた。その一人が、アルゼンチン代表の優勝に大きく貢献したエンソ・フェルナンデスだった。

エンソ・フェルナンデスの物語は、まるでシンデレラストーリーだ。

リオネル・スカローニ監督がアルゼンチン代表指揮官の座に就いた時、エンソ・フェルナンデスはリバープレートの下部組織にいた。トップデビュー後、国内でのレンタル移籍を経て、この夏に欧州移籍を決断。ベンフィカが移籍金1800万ユーロ(約25億円/ボーナス込み)を支払い、エンソ・フェルナンデスを引き入れた。

エンソ・フェルナンデスは今季、ベンフィカで主力になった。ロジャー・シュミット監督の下、攻守においてアグレッシブに働くチームで、中盤の舵取り役を任された。

だがアルゼンチン代表では、カタールW杯のサウジアラビア戦が彼のデビュー戦だった。次のメキシコ戦でゴールを決め、瞬く間にスカローニ監督の信頼を勝ち取った。

ドリブルするエンソ・フェルナンデス
ドリブルするエンソ・フェルナンデス写真:ロイター/アフロ

そのエンソ・フェルナンデスを、ビッグクラブが虎視淡々と狙っていた。チェルシー、リヴァプール、マンチェスター・ユナイテッドと複数クラブが関心を寄せていた。

一方、ベンフィカは「商売上手」なクラブだ。

この夏、ダルウィン・ヌニェスを移籍金7500万ユーロでリヴァプールに売却した。それだけではない。ジョアン・フェリックス(移籍金1億2700万ユーロ/アトレティコ・マドリー/2019年)、ルベン・ディアス(6800万ユーロ/マンチェスター・シティ/2020年)、エデルソン・モラレス(4000万ユーロ/シティ/2017年)、レナト・サンチェス(3500万ユーロ/バイエルン・ミュンヘン/2016年)、アンヘル・ディ・マリア(3300万ユーロ/レアル・マドリー/2010年)と多くの優秀な選手を高値で売ってきた。

ベンフィカはエンソ・フェルナンデスの保有権を75%有し、契約解除金を1億2000万ユーロ(約168億円)に設定していた。ベンフィカに、彼を安売りするつもりはなかった。

それが移籍市場の最終日まで獲得が決まらなかった要因だ。

■クロップの言葉

ただ、チェルシーのエンソ・フェルナンデス獲得に際して、問題がないわけではない。

「いま、私のそばには弁護士がいない。そのような状況で何かを言うわけにはいかないよ」と冗談交じりに語ったのはユルゲン・クロップ監督だ。

「こういったビジネスを私は理解できない。何が良くて、何がダメなのか…。分からない。高額な移籍金が支払われ、(チェルシーが獲得したのは)全員が素晴らしい選手だ。どうして、そういったことが可能なのかが私には分からない。しかし、それを説明するのは私の仕事ではない」

戦況を見守るクロップ監督
戦況を見守るクロップ監督写真:ロイター/アフロ

今冬の移籍市場で、プレミアリーグでは、8億2980万ユーロ(約1160億円)が補強に投じられている。それはリーガエスパニョーラ(3180万ユーロ)、セリエA(3120万ユーロ)、ブンデスリーガ(6830万ユーロ)といったリーグに比べ、圧倒的な数字だ。

そのなかで、チェルシーは、3億2950万ユーロ(約461億円)を投じた。プレミアリーグでトップの数字だった。

だが問題の本質は「コントロール」にある。UEFAにはファイナンシャル・フェアプレー(FFP)があるが、それは実質的に機能していないように見える。

欧州スーパーリーグ構想が立ち上がった時、多くの人がそれを否定した。フットボールを強者のものにしてはいけない。そういった主張だ。しかしながら、実際のところ、世はプレミアの“一強”時代になりつつある。この歪な構造から目を背けてはいけない。そんな考えが、頭を擡(もた)げている。

スポーツライター

執筆業、通訳、解説。東京生まれ。スペイン在住歴10年。2007年に21歳で単身で渡西して、バルセロナを拠点に現地のフットボールを堪能。2011年から執筆業を開始すると同時に活動場所をスペイン北部に移す。2018年に完全帰国。日本有数のラ・リーガ分析と解説に定評。過去・現在の投稿媒体/出演メディアは『DAZN』『U-NEXT』『WOWOW』『J SPORTS』『エルゴラッソ』『Goal.com』『ワールドサッカーキング』『サッカー批評』『フットボリスタ』『J-WAVE』『Foot! MARTES』等。2020年ラ・リーガのセミナー司会。

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