忽然と姿を消した序列4位の崔龍海氏 健康不安か、失脚か?
昨日、朝鮮労働党中央委員会第8期第7次全員会議拡大会議が開かれたが、4人しかいない最高幹部である政治局常務委員のうち崔龍海(チェ・リョンヘ)最高人民会議常任委員長と李炳哲(リ・ビョンチョル)党軍事委員会副委員長の2人が欠席していた。
配信された写真をみると、金正恩(キム・ジョンウン)総書記の左右には党序列2位の金徳訓(キム・ドックン)内閣総理と金総書記の大番頭でもある序列3位の趙甬元(チョ・ヨンウォン)党組織指導部部長の2人の常務委員が座っていた。
一昨年労働党第8回大会(1月5日)が開催された以降、党全員会議はこの年に4回(1月、2月、6月、12月)、翌2022年に2回(6月と12月)開かれているが、政治局常務委員が2人も揃って欠席するのは珍事である。
今回の拡大会議の主要議題が農業問題、食の問題であることや、米韓との軍事的対立が激化している状況にあることから軍事担当の李炳哲常務委員が外れるのはわからないわけでもないが、異例なのは常連の最高主権機関の長である崔龍海常務委員の欠席である。
崔龍海氏は代議員(国会議員)に初当選した1986年に社会主義青年同盟委員長に起用されたのを皮切りにとんとん拍子に出世し、2010年には党書記、政治局候補委員、中央委員、軍事委員に抜擢され、大将の軍の称号も授与されている。
金正恩政権がスタートした2012年には一躍、政治局常務委員、軍事副委員長、軍総政治局長、国防委員の4つの地位を占め、軍の称号も次帥に格上げされた。金永南(キム・ヨンナム)氏が退任した2019年4月からは対外的には国家元帥であった最高人民会議常任委員長に就き、昨年6月まではNO.2の地位にあった。
調べてみると、崔氏は2月8日に盛大に行われた人民軍創建75周年の軍事パレードにも、その前夜祭(祝宴)にも姿を現していなかった。
故金正日(キム・ジョンイル)前総書記の誕生日(2月16日)を記念して17日に行われた体育競技に金総書記が「愛する娘」を連れて観戦していたが、金徳訓、趙甬元の両人の姿はあっても、崔氏と李氏の2人は見当たらなかった。金総書記が欠席した前日の錦繍山太陽宮殿参拝には李氏ともども姿を現していただけにちぐはぐで、不自然な印象を受ける。
崔氏は2月2日に開催された最高人民会議常任委員会の会議では自ら司会をしていた。御年73歳だが、李氏よりも2歳も若い。血色も良く、健康不安は感じられなかった。その証拠に3日には南浦地方の視察に出て、農場などを見て回っていた。
崔氏の周辺に何かあったのだろうか?
北朝鮮で再びぶり返し始めた「コロナ」とおぼしき「原因不明」の発熱に見舞われたのかもしれないし、あるいは公務多忙による疲労のため静養しているのかもしれない。もしかして、農場の視察で誤った指導をするなどへまでもやらかして謹慎しているのかもしれない。
そんな折、昨日(26日)の労働新聞の4面に「革命の道で代を継いで大切にしなければならない貴重な哲理」と題する気になる記事が掲載されていた。記事をよく読むと、以下のようなことが書かれてあった。
「革命の道に人よりも先に入ったからと言って、また闘争での功労が多いからと言って、信念が自然に強くなるわけではない」
「人間の最も高貴な信念は革命の年数や経歴が決定するものではない」
「時が流れ、地位が高くなればなるほど、一層頑丈にしなければならないのが信念で、その信念がなくなれば、革命の背信者、俗物になってしまう」
実に意味深で、暗示的である。
と言うのも、金正日前政権時代で最大の実力者であった李英鎬(リ・ヨンホ)政治局常務委員(党軍事委員会副委員長兼軍参謀総長)が金正恩政権下の2012年7月に失脚した時も朝鮮中央テレビが10月30日に「党と指導者に忠実でない者は、いくら軍事家らしい気質を持ち、作戦、戦術に巧みだとしても、我々には必要ない。歴史的教訓は、党と指導者に忠実でない軍人は革命の背信者へと転落するということを示している」との金正恩氏の言葉を伝えていたからである。
昨年12月に開催された労働党中央委員会第8期第6次全員会議拡大会議では政治局常務員の朴正天(パク・ジョンチョン)党軍事委員会副委員長(元軍総参謀長)が電撃解任されるというハプニングが起きたばかりだ。
第8期第7次全員会議拡大会議は数日間続くものとみられるが、仮に最終日に人事があるとすれば、まさかとは思うが、同じ現象が再現されることはないだろうか?