ジェーン・バーキンさん死去 彼女が残した「おしゃれ遺産」を振り返る
亡くなったジェーン・バーキンさん(以下、ジェーン)は偉大なファッションアイコンでした。東日本大震災の直後に日本を訪れ、チャリティーや支援に取り組んだジェーンさんは日本でも以前からファンの多い俳優・歌手です。おしゃれ上手なのに加え、弾けるような笑顔が魅力。
「エルメス」の「バーキン」バッグが有名ですが、フレンチカジュアルの着こなしを根付かせたような、ノンシャラン(飾らない)な自然体コーディネートにこそ、彼女の持ち味があったと思われます。かごバッグを広め、ジーンズのこなれた穿き方は世界中がお手本にしました。私たちにずっと受け継がれていく、今もなお色あせない魅力を放つ「ジェーン流」のスタイリング術を読み解いていきます。タイムレスな装いが好まれる今の時代のロールモデルにぴったりです。
永遠のアイコンアイテム「かごバッグ」と「ジーンズ」
若き日にロンドンの空港に現れたジェーンさんです。ミニ丈のコンパクトなワンピースは60年代スタイルを象徴するかのよう。小悪魔的で小粋なムードが印象的。お得意の気負わないシックさの中にチャーミングさも感じさせます。現在のかごバッグの原型とも言える籐製バスケットだけの手荷物で機内へ向かうところです。
「エルメス」のジャン=ルイ・デュマ会長(当時)が飛行機でたまたま乗り合わせて、荷物があふれそうなバッグに漏らしたジェーンさんの不満を聞いて、「バーキン」のバッグを考案したというエピソードは有名です。かごバッグを使っている66年のこの写真は「バーキン」が誕生する前の貴重なショットです。
シンプルな白Tシャツに股上の深いジーンズというベーシックなカジュアルルックも、ジェーンさんの手に掛かれば、オリジナル度の高い着こなしに。ベルトとブーツに控えめなロックテイストをプラス。Tシャツはスタンダードなクルーネック(丸首)ですが、襟ぐりが少しだけ広めで、抜け感が漂います。見慣れたカジュアルとは一線を画して、ひねりのある小物で表情を加えたジーンズスタイルです。
ジーンズを自分ユニフォームのようになじませて
2021年のカンヌ国際映画祭には娘のシャルロット・ゲンズブールさんと一緒に参加しました。このような晴れ舞台では、ドレスアップするのが普通ですが、ジェーンさん流の気取らないエイジレスファッションと、弾けるような笑顔に魅了されます。
白シャツ、ジーンズ、スニーカーと、20代の頃と変わらない着こなし。ジーンズを自分のユニフォームにしているかのようです。70代でも好きな服を着るという、ぶれないおしゃれ哲学を感じさせます。さらに、ジャケットを右肩にだけ掛けるまとい方をはじめ、シャツボタンのはずし方や袖のまくり方、パンツ裾の折り返しなどに絶妙な無造作感が漂い、飾らない魅力を発揮しています。
お手本にしたい、「フォーマルを崩す」着こなし
2023-24年秋冬に向けて有力ブランドから提案されているスタイリングに「フォーマル崩し」があります。タキシードや夜会服など、セレモニー向けの正統派ウエアを大胆に普段使いするアレンジ。ウエディングドレスの街中使いまで登場しています。ジェーンさんはレッドカーペットの晴れ舞台でもしばしば型にはまらない着こなしを披露してきました。
21年のカンヌ国際映画祭に来場したジェーンさんは黒主体のフォーマルなパンツスーツをチョイス。でも、ブラウスのボウタイ(リボン)をルーズに垂らして、くつろいだような雰囲気に着崩しました。気取らない抜け感を必ず寄り添わせるのは、「ジェーン流」の極意。妙にかしこまっていないから、服に着られてしまうのではなく、かえって服が自分になじんで堂々とした仕上がりです。
ネクタイ風の「タイドアップ」スタイルに
ネクタイを締める「タイドアップ」の装いは23-24年秋冬に盛り上がりそうな新スタイリングとして有力ブランドから続々と提案されています。メンズのスーツ姿で見慣れた、「きちんと感」の高いルックですが、ウィメンズへのお引っ越しでは、適度に崩したりゆるめたりといった「脱・カッチリ」のずらしコーディネートが肝心です。
「ゆるめタイドアップ」のお手本的着こなしを15年の映画祭で披露したジェーンさん。シャツの胸元を広めに開けているのは、彼女のトレードマーク的な小技です。そのシャツに合わせて、ネクタイもゆるく結んでいます。ネクタイを細いスカーフのように垂らす使い方はマネしてみたくなりそう。黒のスーツ姿なのに、ちっとも堅苦しく見えないのは、さすがの抜け感マジックです。
東日本大震災で温かい支援 大の親日家として有名
東日本大震災に心を痛め、早い段階から支援してくれたジェーンさん。こちらの写真は12年の追悼式典がパリで催された際のもの。「KENZO(ケンゾー)」ブランドの創始者、高田賢三さんとのツーショットです。追悼式典という場にふさわしく、どちらも黒主体の装いです。
ジェーンさんは黒いアウターに身を包みながらも、首回りにストールで差し色を効かせて、顔周りを優しげに演出。一方の賢三さんも厚手のレザージャケットでタフ感と穏やかさが同居する装い。悲しみをまといつつ、前を向く気持ちが感じられます。
「バーキン」バッグをチャーミングにカスタマイズ
ジェーンさんが羽田空港に降り立ったのは、東日本大震災が起きてからまだ1カ月も経っていない11年4月のことでした。その後、日本に留まって、様々なチャリティー活動を通して、被災地を勇気づけたことは忘れられない出来事です。東京・渋谷ではライブも開催。手荷物を収めているのは、もちろんあのバッグ。日本のお守りを添えているのは祈りの気持ちを示す心配りでしょうか。彼女は「バーキン」にステッカーを貼ったり、チャームを付けたりと自分好みにカスタマイズするのが好きでした。
ニットトップスにジーンズ、スニーカーという、ほぼ定番の「ジェーン・ルック」。片方の肩がのぞくほど、ニットをゆるめに着ているのが、かえって様になっています。軽くたくし上げた両袖もリラクシングな風情。バッグの口から服があふれている様子にすら「かっこつけないかっこよさ」がにじむ、オンリーワンのスタイルです。
誰もが憧れる、こなれた「エフォートレススタイル」
大人の着こなしでジェーンさんがロールモデルと呼ばれるのは、嫌味がなく、やさしげなうえ、自分らしくおしゃれを楽しんで見えるから。頑張らない、気張らない、欲張らないといった雰囲気を指す「エフォートレス」が彼女の代名詞。このお見事なカジュアルコーディネートは51歳の街角ショットです。
いわゆる「こなれ感」って、こういうことよと言いたくなる自然体の構え。Vネックのニットにチノパン風ボトムスという、シンプルコーデなのに、手抜きに見えません。全体に程よくしわやたるみを帯びているのがのどかな景色の理由です。
胸元の開いたニットトップスの横からチラリとアンダーウエアの黒のストラップを覗かせたりするのもこなれコーデのコツのひとつ。首からアイウエアを垂らす小技はアクセサリーのようなさりげなさ。履き古した風合いのレザースニーカーを迎えた足元からはエイジレスな軽やかさが漂っています。
自分が大好きなアイテムを着続けて「自分ユニフォーム」に
ジェーンさんのお母さん、ジュディ・キャンベルさんはもともと俳優だったこともあって、おしゃれが上手でした。こちらの母娘ツーショットでも、気品を感じさせる、素敵な装いを披露。こんな風に年齢を重ねたいと思わせるような並び姿。それぞれの着こなしの好みが違う様子もよくわかります。
俳優らしく振る舞うことが多かった母を見て、ジェーンさんはボーイッシュな服を選ぶようになったそうです。ものすごくVゾーンが深いニットトップスはほんのりセンシュアル(官能的)な印象。ここでもインナーの白カットソーをちらりと覗かせてレイヤード。ボトムスはいつも通りのジーンズで自分らしく。一方のジュディさんはシャツにネックレスを載せて、パンツルックにエレガンスをプラス。マニッシュなルックにも気品が漂うコーディネートです。
服を自分になじませて、自分好みにアレンジ
ジェーンさんの装いは屈託のない伸びやかでオープンな人柄を映しているところが最大の魅力です。着心地や自分らしさを重んじる、今の着こなしマインドをずっと昔から体現していたとも言えそう。
今回、ご紹介した写真を見てもおわかりの通り、ピカピカの新品をそのまままとうのではなく、愛着を持って着続けることで、服にユーズド感が出ていることがわかります。どこかに必ず自分らしさを織り込む形でアレンジしているのもポイントです。
ジーンズやスニーカーは着古したり履き込んだりしたムードがジェーンさんの好み。シャツやジャケットはかっちり着ないで、胸元を開けたり、袖をまくったり。リボンやスカーフ、ネクタイもきちんと結ばない。若い頃からずっと自分の好きなものを頻繁に繰り返しまとうことによって、「マイユニフォーム」化するのが彼女の流儀。
みなさんも自分の本当に好きなアイテムは何だろうと考えてみれば、自分らしいスタイリングのヒントになるのではないでしょうか。ルールにとらわれない「自由、自在、自主」のジェーンさん流スタイリングは、この先も私たちの「おしゃれ遺産」であり続けることでしょう。
(関連記事)
オードリー・ヘプバーンはなぜ愛され続けるか? 「永遠のおしゃれアイコン」の秘密