Yahoo!ニュース

エリザベス女王、着こなしの秘密  「あの色・アイテム」に理由があった

宮田理江ファッションジャーナリスト/ファッションディレクター
ニュージーランドで開催されたエリザベス2世回顧展で(写真:REX/アフロ)

英国のエリザベス2世女王を追悼する声がさらに広がっています。女王はエイジレスな装いでも世界最高のファッションアイコンでした。誰もが好感を持つ着こなしの裏には、色選びや小物使いなど、いくつもの「クイーン技」が駆使されていました。今回は追悼の気持ちを込めて、女王のエレガントでチャーミングなおしゃれの軌跡を振り返りつつ、着こなし技の秘密に迫っていきます。

女王の装いが特別だったのは、常に大勢から見られることを前提にしていたからです。現場やテレビ・写真でお姿を見る人たちの気持ちに働きかけるファッションを意識した着こなしは「英国のムードメーカー」だったといえるでしょう。同時に、警護スタッフから守られる立場でもあり、目立ちやすい色を選ぶことによって、警護しやすい状況をつくるという気配りもみせていました。

年を重ねるに従って、愛らしい雰囲気を強めたところからは、年齢にとらわれず、国民の役に立ちたいというお考えがうかがえます。そうした役割意識を反映しつつ、自分らしいおしゃれを貫いた結果、オンリーワンのアイコンになっていったのが女王のおしゃれヒストリーと映ります。

きれい色のワントーンで統一 引き締め役は黒小物

1978年のエリザベス女王
1978年のエリザベス女王写真:REX/アフロ

エリザベス女王とキャサリン妃 2人で公務に
エリザベス女王とキャサリン妃 2人で公務に写真:REX/アフロ

女王ルックの基本形は「明るい色のワントーン(1色で統一)」です。ワンピースやコートを主役に据えて、きれいなワントーンカラーで着こなすのがお好みのスタイリングでした。

2枚の写真は1978年と89年と、10年以上も離れていますが、両方とも1色で統一されています。明るいトーンを選んでいるのは、女王が人混みの中にいても、警護スタッフがすぐに居場所を確認しやすいようにだといわれています。見る人を穏やかな気持ちに誘うような色でもあります。様々な立場の人たちから視線を浴びる女王ならではの色選びとも言えそうです。

ワントーンをシックに引き締めているのは、手袋やバッグ、靴のブラック。品格を寄り添わせつつ、パステル系カラーを引き立てる役目も果たしています。色や柄を装うときに小物は黒で引き締めるという、お裾分けにあずかりたくなるテクニックです。

顔周りをスカーフで彩る 落ち着いた色の服に華やぎをプラス

1985年ポロ観戦でのエリザベス女王
1985年ポロ観戦でのエリザベス女王写真:Shutterstock/アフロ

2010年英国ノーフォークのキングス・リン駅でのエリザベス女王
2010年英国ノーフォークのキングス・リン駅でのエリザベス女王写真:Shutterstock/アフロ

女王が好んで使ったおしゃれ小物にスカーフがあります。多彩な使い道のあるスカーフですが、女王がお得意だったのは、髪を包み込んで、あごの下で結ぶ巻き方。日本では「真知子巻き」と呼ばれるヘッドスカーフ使いです。

1枚目の写真は85年、2枚目は2010年で、女王がずっとこの巻き方を好んできたことがわかります。実はこのスカーフ使いには、女王流のアレンジが生かされています。それは服とのバランス。服の色がやや落ち着いたトーンの場合に、スカーフを巻いて顔周りを鮮やかに彩っているのです。深い色の服は見た目の印象が地味になりがちですが、女王は柄入りのモチーフを、目立つ顔周りの位置に迎えることによって、華やぎや優美さを補っています。

顔をぐるっと囲むようなスカーフ使いは、キュートさやエレガンスを加える効果が期待できます。顔に視線を集めて、朗らかな表情をいっそう印象づける「フレーム」の役割も発揮。2枚の写真では、落ち着いた服でもスカーフの柄が表情を深くし、笑顔を引き立てています。笑顔を期待されることの多い女王ならではの心配りともみえます。

花柄で品格とあでやかさ 周囲の気持ちをときめかせる

エリザベス女王来日 (1975年5月)
エリザベス女王来日 (1975年5月)写真:Shutterstock/アフロ

エリザベス女王が訪米 グラウンド・ゼロで献花
エリザベス女王が訪米 グラウンド・ゼロで献花写真:ロイター/アフロ

ワントーンの装いが主流ですが、女王は様々な柄物の服も巧みに着こなしてきました。とりわけ、人々の気持ちをときめかせたり支えたりするような場面で、お気持ちをモチーフに託す装いを選んでいます。

代表的と言えそうなのは、あでやかな花柄です。たとえば、1枚目の写真は1975年に来日した際のお姿。ブラウスまでおそろいのきちんと感が漂うスカートスーツですが、全身を彩った花柄のおかげで優美な雰囲気に。ロイヤルブルーと白のツートーン(2色使い)で、品格のある華やぎを演出しています。

2枚目の写真は、9.11テロ事件の起きたグラウンド・ゼロで2010年に献花した折のご様子。いたましい記憶の残る場所ですが、女王は全体に花柄をあしらったワンピースで参加。約10年を経て、アメリカの人々と共に前へ進む気持ちを装いで表しているかのようにも見えます。既に80代半ばを迎えていましたが、明るいトーンの花柄が年齢を感じさせないエイジレスな装いに一役買っています。

おしゃれの「切り札」は笑顔 心をつかむ表情の深み

2018-19秋冬 ロンドンコレクション エリザベス女王がVogueアナ・ウィンター氏と一緒に鑑賞
2018-19秋冬 ロンドンコレクション エリザベス女王がVogueアナ・ウィンター氏と一緒に鑑賞写真:代表撮影/ロイター/アフロ

いろいろな服を見事に着こなしてきた女王ですが、女王流おしゃれの決め手となっていたのは「極上の笑顔」です。どんな場面でもほほえみを絶やさず、時には目を見開き、ほおをゆるめて笑う様子は、最高のお手本でした。

こちらは、2018年にロンドンコレクションで初めてファッションショーをご覧になった折の貴重なショットです。実は筆者もロンドンに取材に行き、この同じショーを見ていて、女王のお姿を写真に撮ることができました(写真はこちら )。女王がロンドンでファッションショーに臨んだのはこれが最初で最後となったので、忘れられない思い出です。

隣に座った解説役の米国版『VOGUE』誌のアナ・ウィンター編集長と、ショーの前に歓談。これから始まるショーの話題でしょうか、目を輝かせて笑顔を見せておいでです。何歳になっても、好奇心やチャレンジが大切だということを、あらためて教えてもらえるショットです。

長寿テレビシリーズの撮影現場を訪れ、反応するエリザベス女王(2021年)
長寿テレビシリーズの撮影現場を訪れ、反応するエリザベス女王(2021年)写真:代表撮影/ロイター/アフロ

ラストの写真は、2021年にロンドンでテレビ番組の撮影現場を訪れた際のものです。これ以上ないほどの素敵な笑顔は、向き合った人の気持ちを自然とほどき、こちらまで朗らかにしてもらえます。パールのイヤリングと3連ネックレスのコンビネーションも、笑顔に特別感を添えました。マスクが常態化して、なかなか口元の笑顔を見たり見せたりという機会が戻ってこないところがありますが、口元の感情表現力がどれほど豊かかは、この笑顔が証明しているでしょう。マスクをはずせない状況でも、その代わりに目や仕草でメッセージを補いたいものです。

エリザベス女王のファッションは、自分が楽しむだけではなく、周りから見られることの意味を教えてくれます。服やスタイリング、表情の選び方次第で、その場のムードや相手の気持ちをポジティブに華やがせることができるという「ファッションの力」を再確認させてもらえたことも、女王からのありがたい「遺産」ではないでしょうか。

(関連記事)

エリザベス女王が教えてくれた、「エイジレスに生きるコツ」 秘訣を読み解く

オードリー・ヘプバーンはなぜ愛され続けるか? 「永遠のおしゃれアイコン」の秘密

100歳でもおしゃれに着こなす ファッションは「エイジレス」がキーワード

ファッションジャーナリスト/ファッションディレクター

多彩なメディアでコレクショントレンド情報をはじめ、着こなし解説、スタイリング指南などを幅広く発信。複数のファッションブランドの販売員としてキャリアを積み、バイヤー、プレスも経験。自らのテレビ通販ブランドもプロデュース。2014年から「毎日ファッション大賞」推薦委員を経て、22年から同選考委員に。著書に『おしゃれの近道』(学研パブリッシング)ほか。野菜好きが高じて野菜ソムリエ資格を取得。

宮田理江の最近の記事