後期高齢者の窓口負担一律3割化を機械的に試算してみた-現役世代の負担は3.5万円ほど減らせる可能性-
先日、高齢社会対策基本法に基づいて政府が作成する高齢化対策の中長期指針となる「高齢社会対策大綱」に、75歳以上の後期高齢者の医療費の窓口負担の拡大に向けた検討を行う方針を盛り込むことが報道されました。
75歳以上医療費、3割負担の対象拡大検討 高齢社会大綱(2024年9月4日 日本経済新聞)
またこれに先立ち日本維新の会は、他党に先駆けて、今年3月に高齢者の医療費の窓口負担を原則3割にすべきだとする提言「医療維新」を発表しています。
医療制度の抜本改革(医療維新)に向けての政策提言書(2024年3月5日 日本の維新の会)
維新、高齢者医療3割負担を提言 社会保障財源で(2024年3月5日 日本経済新聞)
国民負担率がほぼ50%に達し、現役世代の負担も限界になるなか、毎年最高の税収を記録するにもかかわらず、防衛費や少子化対策等のため更なる増税が予定されていることに疑問を感じ始めた国民が多くなったためか、また、賃上げがあっても所得税や社会保険料も上がるので、手取りが思うようには増えず賃上げの恩恵が実感されにくいためか、その元凶の一つとして、現役世代の社会保険料負担の重さに国民の関心が集まりつつあります。
本記事では、議論の出発点、参照点として、後期高齢者の窓口負担を原則3割にした場合、後期高齢者の負担はどの程度増えるのか、現役世代の負担はどれだけ軽減できるのか、機械的でかなり荒いものではありますが、試算してみたいと思います。
現在、後期高齢者医療制度では、原則、窓口負担(自己負担)1割(現役並み所得者は3割、現役並み所得者以外の一定所得以上の者は2割)と、他の世代に比べて窓口負担は優遇されています。
厚生労働省「後期高齢者医療事業状況報告」によれば、2022年度時点では、各所得区分の医療費や窓口負担の年額は下表の通りとなっています。
いま、後期高齢者の窓口負担原則3割化によって、現状では、1割負担の現役並み所得者及び一定以上所得者以外の者、2割負担の一定以上所得者の給付率が、窓口負担が現在でも3割となっている現役並み所得者と同じになったと機械的に仮定します。なお、100-給付率が窓口負担割合ですが、それぞれ1割、2割、3割にならないのは、高額医療費制度が適用される方もいるからです。
この仮定の下では、各所得区分の医療費や窓口負担は下表のように変更されます。
表1と表3より、マクロで見れば、窓口負担3割化により、現状1兆4,648億円の窓口負担総額が3兆6,052億円と、2兆1,404億円増加することが分かります。
逆に言えば、2兆1,404億円だけ、現役世代の後期高齢者への「仕送り」を減らすことができる訳です。単純に計算すれば大体現役世代(被用者保険被保険者)一人当たり年額3万5,000円ほどの負担軽減となります。
一方、表2と表4との比較からでは、後期高齢者一人当たりの平均では、1割負担の現役並み所得者及び一定以上所得者以外の者は、現在の6万7,830円の負担から19万6,173円と12万8,342円の負担増、2割負担の一定以上所得者は、現在の10万2,443円から17万1,339円と6万8,896円の負担増となります。
後期高齢者医療制度に限らず、社会保障は誰かの負担が誰かの給付になっていますから、誰かの負担を減らそうとすれば誰かの給付を減らすか誰かの負担を増やすことになりますので、必ずどこかから反対が出るので政治的には難しい問題であることは確かです。特に後期高齢者医療のように高齢者をターゲットにするものほど、政治的な困難さが増すでしょう。
しかし、現状では、後期高齢者医療では、大多数の方の窓口負担は1割で、これは9割引きで医療を受けられるということですので、どうしても無駄な医療の発生は避けられないと思われます。こうした無駄を削減することで現役世代の負担を減らすことができるのです。
国民皆保険、国民皆年金が実現した1961年とは異なり、余裕のある高齢者も増えましたから、現役世代から高齢世代への仕送りだけでなく、窓口負担の引き上げや、現状の医療給付を前提とするのであれば、余裕のある高齢者からそうではない高齢者への世代内の再分配の強化も必要になると筆者は思いますが、読者のみなさまはいかがお考えでしょうか?