飽くなき豚骨愛! 豚骨ラーメンを極めたカップ麺「焼豚ラーメン」 そのこだわりに迫る!
カップ麺の市場が毎年うなぎ上りだ。
日本即席食品工業協会がまとめた2020年の即席麺総需要によると、カップ麺は出荷額ベースで前年比2.6%増の4,803億2,400万円、数量ベースで39億8,960.4万食となっている。新型コロナウイルスの巣篭もり需要も後押しして、需要が大きく拡大した。
各社から様々な趣向を凝らしたカップ麺が発売されているが、九州・佐賀で50年以上「豚骨ラーメン」の即席麺を追求し続ける会社がある。サンポー食品(佐賀県三養基郡基山町)である。
前身である米穀卸大石商店の創業(1921年1月)から数えると100年を超える老舗企業だ。
このサンポー食品が出している「焼豚ラーメン」というシリーズがある。
先日YouTubeでサンポー食品の「焼豚ラーメン」を4種類食べ比べするという企画に参加したのだが、そのクオリティの高さに驚きを隠せなかった。
ノーマル、こってり豚骨推し、黒 熊本とんこつ、博多辛ダレとんこつと4種類を並べて食べたのだが、地域ごとの味の違いや濃度、豚骨独特の香り、さらには流行までしっかり捉えていて、まさに開発者の“顔の見える”一杯に仕上がっていた。お店の味がカップ麺でこれほどまで再現できるのかという驚きと、もはやマニアックな領域にまで片足を突っ込んでいる「焼豚ラーメン」の世界の虜になってしまった。
43年前に生まれた豚骨カップ麺
「焼豚ラーメン」は九州の豚骨ラーメンをカップ麺で手軽に食べられるようにと開発されたもので、1978年に誕生している。
今でこそ豚骨ラーメンは全国区だが、発売当時の豚骨ラーメンは九州地方の地ラーメン的なもので、カップ麺もインスタント麺もオーソドックスな醤油味が全盛の時代だった。日清の「カップヌードル」が誕生してから(1971年)わずか7年後に豚骨味のカップ麺があったというのがむしろ驚きである。
「九州で“ラーメン”といえば“豚骨ラーメン”のことを指します。
ですが、当時は本格的な豚骨の即席麺はほとんどありませんでした。我々は豚骨ラーメンの元祖である久留米の近くに工場を構えていたこともあり、地元から本場の豚骨味を開発して売り出していこうということになりました。こうしてできたのが、1965年に発売した『サンポー軒』という袋麺です」(取締役 製造本部長 古川揚一さん)
この「サンポー軒」のヒットを受けて、それをベースにカップ麺として開発されたのが「焼豚ラーメン」だ。
発売されると半年後には大ヒット。工場の前には配送のトラックが毎日並び、生産が追いつかず、時には数量制限をかけて売っていた。店頭からは発売と同時に消えるという現象が起こるほどだった。
「粉末スープで豚骨の味を作ること自体がかなり難しいこともあり、カップ麺としてはあまり存在していませんでした。そういう経緯から、豚骨全盛の九州でも醤油味のカップ麺がメインだったようです。
『焼豚ラーメン』はそういう時代に発売された商品なんです」(取締役 広報・マーケティング部 部長 大石梨恵子さん)
地域ごとの違いをカップ麺で表現
このヒットをきっかけに、サンポー食品は豚骨ラーメンの“地域ごとの違い”に着目した。
代表的な博多ラーメンを始め、長浜ラーメン、熊本ラーメン、久留米ラーメンなど、同じ豚骨ラーメンでも地域によって少しずつ違いがある。その違いをカップ麺で表現しようとしたのだ。
「九州以外の方からいえば『豚骨ラーメンなんてどれも一緒でしょ?』と思われるかもしれません。
ですが、本当は地域によってこんなにも違うんだということを『焼豚ラーメン』を通じて見せていきたいと思っています。その違いの面白さをこのラーメンをきっかけに伝えていきたい。
開発メンバーには“豚骨ラーメンのパイオニア”としての自覚を持ちながら商品開発に取り組んでもらっています」(商品開発部 課長 奥川翔吾さん)
エリアごとの大まかな特徴については、それぞれのエリアの「モデルレシピ」を作っていて、これが味のベースとなっている。
さらに市場調査を行い、定期的に人気店の豚骨ラーメンを食べ、その味をインプットしていく。
そして、市場調査の結果とモデルレシピの掛け合わせで新たな味を構築していくのだ。
筆者が食べた「こってり豚骨推し」は「魁龍」などに代表されるストロングな濃厚豚骨ラーメンを彷彿とさせ、「博多辛ダレとんこつ」は「一蘭」のような全国に広がる流行りの豚骨ラーメンの雰囲気を感じた。これも市場調査の結果とモデルレシピの掛け合わせで完成した商品だそうだ。
「『こってり豚骨推し』はポークエキス20種類からコンセプトに合うエキスを選定して作っています。何度もそのバランスを変えながら、鼻に抜ける豚骨の余韻をどうにか表現できないか試行錯誤して作りました。実は、女性の開発担当者が作った商品です」(奥川さん)
ポークエキスには王道の白湯系から味を下支えするライト系、ロースト感の香りのあるもの、肉感や味強めのものまで様々ある。
粉末スープだけでは油感があまり残らないので、スープの表面の油感は調味油で補っていく。調味油も濃いもの、薄いもの、香りの強いものからマー油(ニンニクの焦がし油)を配合したものなど多種多様だ。
この組み合わせでたくさんの種類の豚骨ラーメンを次々と具現化しているのだ。
毎年250以上の企画が社内から上がる
「開発担当者の『自分はこれが作りたいんだ』というモチベーションが開発を引っ張っています。それぞれこだわりがある中で開発しているので、それが形になっているんだと思います。
豚骨ラーメンにこだわりのある社員ばかりですので、開発担当者以外からもスープのとろみ、コク、塩分などいろんな意見が出てきます」(大石さん)
新たなトレンドについては常にアンテナを張っている。情報誌やSNSなどで流行をしっかりチェックしながら、象徴的な人気店ができたら食べに行ってみて、実際にその味を商品化するかどうかを逐一検討する。
毎年250以上の企画が社内から上がる中で、具体的に商品化されるのはわずか12、3だという。
「本物感」を追求する中で、トレンドをただ追うことはなく、社員全員が「美味しい」と思えるものだけを商品化する。社内のハイレベルなジャッジを経ているからこそ美味しいものだけがラインナップされる。
「大手メーカーのトップブランドが豚骨味を出されたことで、豚骨のフレーバー自体が全国区になってきています。しかし、フレーバー全体としては豚骨は醤油、味噌、塩にまだ負けており、伸びしろはまだあると思っています。豚骨では他社に絶対に負けてはいけないと思っています。」(奥川さん)
1978年からある「焼豚ラーメン」(ノーマル)で昔からの味を守りながら、常に「本物感」にこだわり、新商品で味を追求していく。
会社全体に漂う強い「豚骨愛」が「焼豚ラーメン」のクオリティにそのまま直結しているように感じた。旨い一杯には本気の職人あり。これは店でもカップ麺においても同じなのだ。