春を告げる雪の造形「雪形」
4月27日(日)は長野・上高地の開山祭です。信州にも遅い春がやってきました。JR中央線に乗って、一路松本へ。トンネルを抜けると、視界が急に開けて、松本盆地と北アルプスが目に飛び込んできます。この雄大な景色はいつ見ても、感動します。
山の紋章「雪形」
山肌にできる残雪の形を雪形といい、山国に暮らす人びとは昔から、農作業を始める目安(農業暦)としてきました。雪形は北日本から東日本にかけて、各地で見られますが、長野県では代表的なものだけでも45個の雪形があるそうです。
そのなかで、最も有名な雪形は北アルプス白馬岳の「代掻き馬(しろかきうま)」です。例年ならば、5月中旬ごろに標高2600メートル付近に頭を南に向け、尾が跳ね上がり、背に鞍を置いた黒い馬が現れます。この雪形を目安に代掻きを行ったことから、名づけられました。白馬の語源となったことでも知られています。
気象の観点からみた雪形
雪形は、冬の積雪と春の気温に大きく影響を受けるため、年によって出現と消滅する時期は大きく変わり、ときには1か月以上ずれることがあります。今のように、きめ細かい気象情報がなかった時代には、まさに気候のカレンダーだったわけです。
また、雪形の雪線を詳しく観察すると、山の積雪がよく分かります。民俗学的に捉えられがちな雪形ですが、気象の情報がたくさん詰まっています。温暖化の進行を知る上でも、もっと研究すべきだと思います。
雪形ウオッチング
雪形を知ってからは、山の残雪を気にしてみるようになりました。夜空の星座を見つけるような気持ちでしょうか。雪形は観光資源としても注目されていて、長野県安曇野市では雪形めぐりのモデルコースを紹介しています。また、体験型イベントとして雪形ウオッチングを開催しているところもあります。
一方で、海外では雪形と呼ばれるようなものはないそうです。左図はスイスのシーニゲ・プラッテ展望台(標高1967m)からみたアルプスです。
たしかに、スイスやオーストリアのアルプスは、昔ここには氷河が流れていた、とわかるような山肌で、日本のアルプスとは趣きがまったく違います。そう思うと、雪形は日本だからこそ、生まれた言葉なのでしょう。日本の四季の奥深さを感じます。
【参考資料】
信州の雪形,2001,長野県観光課
長野県安曇野市ホームページ
国際雪形研究会ホームページ
田淵行男記念館(長野県安曇野市)
写真はすべて著者が撮影したものです。