ロシアの危機で、中央アジアの苦難と中国への影響:ウクライナ戦争
ウクライナ侵攻によるロシアの経済危機で、中央アジアが苦難に陥っている。
中央アジアの国々は、貿易や労働市場でロシアに頼っている国が多いのだ。そして、その影響が玉突き状になって、中国に影響を及ぼそうとしている。
まず挙げられるのが、カザフスタン。
ロシアが、制裁の影響を抑えるために、穀物の輸出を制限している。
そのため、ロシアからの穀物輸入に頼っているカザフスタンでは、食品の不足と価格の上昇が問題となっている。
トカエフ大統領は3月2日、国民向けの演説で、ウクライナでの出来事により食糧価格が「絶対的な記録」に達する可能性が高いと警告した。そして、国の食糧安全保障を確保するために、春の作付け時期の重要性を強調したのだ。
人々は食品の買い急ぎに走ろうとし、食料価格が上昇している。
カザフスタンだけではない。
中央アジアの5カ国、カザフスタンに加えて、キルギス、タジキスタン、トルクメニスタン、ウズベキスタンは、どの国もロシアからの輸入に大きく依存している。そして、ルーブルは、欧米の制裁で、急落している。
ロシアは、欧州連合(EU)に対抗して、ユーラシア経済同盟というものをもっている。2015年に発足した。
旧ソ連の5つの共和国(ロシア、カザフスタン、ベラルーシ、アルメニア、キルギス)から成っているのだが、この同盟にも、穀物と砂糖の輸出を一時禁止することを発表した。
穀物については6月30日まで、砂糖については8月31日まで規制が継続されるとロシア政府は発表している。「ロシア国内の食品市場を外部の規制から守るため」の決定であるとしている。『ル・モンド』が伝えた。
そして、食料だけではない。
カザフスタンはエネルギー大国であり、国の収入は大きく資源に頼っている。そして石油の3分の2を、ロシアの港から輸出している。
同国は内陸国で、海がない。カスピ海には面しているが、この「海」は超巨大な湖のようなものだ。同国の港から船で輸出するとしたら、カスピ海に面している国にしかできない(パイプラインはある)。
この事態に直面して、低迷する自国通貨テンゲを支えるために、重要な外貨準備高を使い果たしつつある。
同国は2022年1月に、225人の死者を出す騒乱を起こした際、中国ではなくロシアに鎮圧を頼った。その後、投資家の信頼を回復しようと努めてきたが、また微妙な事態になった。
ロシアへ出稼ぎに行く労働者と母国の苦難
また送金フロー、つまり労働者の送金の問題もある。
ロシアには、中央アジアから多くの季節的な労働者が働きに来ている。
タジキスタン、キルギス、ウズベキスタンでは、政府は高い失業率と予算不足に頭を抱えている。
だから、外国へ労働者が赴くのは、大変重要なのだ。昨年は、ロシアに780万人もの労働者を送り出している。
彼らは、自国の失業率を下げ、公共サービスへの負担を軽減してくれて、家族に送金をして必需品を購入できるようにしてくれるのだ。
しかし、これらは短期的な解決で、国の根本的な解決になっていないだけではなく、このような外的ショックには弱い。
送金額は現在、タジキスタンがGDPの30%、キルギスが28%を占めており、そしてこの地域で最も人口の多いウズベキスタンがGDPの約12%という最も少ない数値になっているという。
『ザ・ディプロマット』の分析では、ロシア経済が圧迫されると、移民労働者の仕事が減り、賃金も低下する恐れがある。しかも、ルーブル安で、家族に送るお金の価値が下がる。さらに、ロシアの銀行システムに対して制裁がかかっているので、公式な経路での送金を妨げて、より複雑で不安な送金手段へ頼らざるを得なくなる可能性が高い。
つまり、これら3カ国は、国家予算と各家計の崩壊という2つの圧力に直面してしまい、数百万人が食糧不足に悩まされることになるのだという。
ただ、このような苦難は、初めてのことではない。すでにロシアがクリミアを併合した時の制裁で、苦労している。でも、今回の制裁は、前回の規模よりさらに大きい。
経済に軍事、中国への影響は
経済的な意味では、この地域で、すでに中国はロシアを上回っている。
『タイム』によれば、1990年代には、ロシアはこの地域の貿易額の8割(1100億ドル)を占めていたという。今では約186億ドルにすぎず、しかもこれは中国の3分の2である。中国は、各国との貿易を、確実に伸ばしている。
ロシアの危機は、中国にとって経済的には利益になりそうである。北京はすでにタジキスタンとキルギスの国債の40%以上を保有している。ロシアに続いてこれらの国が経済的に衰退していくと、債務軽減と引き換えに、中国への安全保障上の譲歩を強めることになるかもしれない。
しかし、先行きは透明ではない。問題は経済よりも、安全保障である。
中国は、この地域の主要な武器供給国、戦略的パートナーとして急速に台頭してきているが、モスクワをしのぐにはまだ程遠い。
前述のカザフスタンの暴動の例だけではなく、ロシアは2021年8月、米国がアフガニスタンから撤退したのを受けて、国境に駐留するタジキスタンとアフガニスタンの軍隊に重要な支援を提供した。
確かに、中国も同様に、この不安定な両国の国境沿いには、多くの軍事基地を建設し、その管理を引き継いでいる。両国は1357キロも国境を共有している。この国境は不安定であり、何度も懸念材料になっている。
しかし、ロシアはこの国境に接しておらず距離があるが、中国にとっては両方隣国である。しかもこの二カ国には、新疆ウイグル自治区が隣接している。
アメリカがアフガニスタンから撤退して以降、過激派タリバンの政権復帰、アフガン難民問題(食糧難が95%の世帯に及んでおり、さらに拡大する可能性がある)への対応に苦慮していている。
警戒するのは、アフガニスタンやパキスタンの辺境に位置するテロ組織が、一気に中央アジアに浸透する可能性があると考えているからで、それが新疆ウイグル自治区に及ぼす影響を心配しているのである。
そして今、もしロシアが崩壊するような危機に瀕すれば、新疆ウイグル自治区はさらに不安定化する可能性があるのである。
中央アジアの人々は、ロシアにイラン、中国、アフガニスタンと、制裁を受けた国々に囲まれて、苦難が続く。でもそれは決して他人事ではなく、玉突きがさらに玉突きを呼び、日本にもなんらかの影響が及んで来るに違いない。