医療用マスクやガウン不足に中小企業の底力「無いものは作る」新型コロナ
いま、医療用マスクやガウンなどの不足が問題化しています。
これまで、医療用のマスクなどは中国などのメーカーからの輸入に依存していましたが、世界的な需要の高まりをうけて価格が高騰。
大量に利用する医療機関からは、「在庫が数週間単位で枯渇する」「ゴミ袋を切り抜いてかぶって働いている」などの声があがっています。
そんななか、国内で別の産業に従事していた中小メーカーによってマスク不足などに対応しようとする動きも始まっています。
この写真のマスクは、広島県東広島市の自動車部品メーカーが製造したものです。素材は手術用の器具を包むシート。ウイルスなどの微細な粒子を通しにくい「不織布」という素材でできています。それを自動車のシートを型抜きする機械で精緻に切り抜くことで、マスクとして使えるようにしました。
開発に関わったのは、広島県福山市にある医療機関、脳神経センター大田記念病院です。もともと脳卒中などの治療が中心で、入院患者の8割が 65 歳以上。糖尿病など感染症が悪化しやすい持病がある人も少なくありません。
感染症を拡げないためにマスクやガウンは重要ですが、新型コロナウイルスの世界的な感染拡大をうけ、2月上旬には業者より「マスクの入荷がない」との連絡を受けました。
このまま備蓄のマスクを使っていたらすぐに枯渇する。
そこで院内で出たのが、「 医療用の不織布を、マスクの形に型抜きすれば作れるのではないか?」というアイデアでした。
そこで病院の職員が手作りで型を作り、自動車部品メーカーに持ち掛けて生産を開始。これまで4万枚の納入を受け、事務や管理部門などのスタッフが使うことにしました。患者さんに直接対応する医師や看護師などだけが医療用のサージカルマスクを使うことで、備蓄を減らさないようにしています。
自動車部品メーカー側にとっても、いま新型コロナウイルスの影響で自動車の生産ラインが動かない中、救いの需要となっています。
現在プレス機はすべてマスク製造に振り向け、医療機関のほか食品メーカーの工場への出荷が始まっているとのことです。(一般の消費者向けの販売は行っていません)
地域の力を生かして医療用ガウンも
いま大田記念病院ではガウン不足にも対応するため、地元の青年会議所のメンバーと連携し、ポリエチレンフィルムメーカーやプレス加工工場をつなげて試作品を製作しています。
現在、中国産のガウンは価格が高騰し、手に入れることが難しくなりつつありますが、その半値程度で量産体制を作れないか、医療機関とメーカーとが話し合って検討を進めているとのことです。
こうした動きを進めている、大田章子さん(福山脳血管医学研究所・研究員)は次のように話しています
医療用のマスクやガウンは、医療者と患者さんの命を守るために欠かせないもの。不足したからといって嘆いていても始まらないので、『無いものは作る』を合言葉に進めています。
中小企業に協力してもらうためのポイントは、ある程度まとまった数の発注を出すこと。マスクのときも、『うちの病院で4万枚買う』と宣言したことで先に進みました。全国で進めていくためには、自治体などが音頭をとって思い切った量を生産できるよう支援するのが必要だと思います。世界に誇る技術をもつ中小企業の底力を、いまこそ活かすべきです。
世界的に感染が拡大する中、医療用のマスクやガウンの供給体制はひっ迫しています。一方で、長引く需要の冷え込みが、地域の経済を支えている製造業にもたらす影響も計り知れません。
そのなかで、医療機関自身が音頭をとり、地域の力を生かして難問に立ち向かおうと始めた取り組みは、ひとつの希望といえるかもしれません。すべての課題を一挙に解決する魔法のような対策は想定しえない現状だからこそ、こうした草の根の動きのひとつひとつの価値が高まっていると感じます。
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この記事の執筆にあたり、筆者は大田記念病院およびメーカーより、金銭的なものを含めた一切の利益の供与を得ていません。