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米中関係悪化の中、中国AI企業がアップル提訴 賠償金1600億円とiPhone製造・販売中止求める

小久保重信ニューズフロントLLPパートナー
(写真:ロイター/アフロ)

 先ごろ、米アップルに特許を侵害されたとして中国のAI(人工知能)企業が上海の裁判所に提訴したと、米ウォールストリート・ジャーナルなどの米メディアが報じた

 訴えが認められれば、アップルにとって米国に次いで重要な中国市場でスマートフォン「iPhone」などの主要製品を販売できなくなる可能性があるという。

「Siriは特許侵害」と主張

 訴えたのは「小iロボット(Xiao-i Robot)」の名で知られる上海智臻網絡科技。アップルの音声アシスタント機能「シリ(Siri)」が自社の特許を侵害していると主張しており、100億元(約1600億円)の損害賠償と、製品の製造・使用・販売・輸入の中止を求めているという。

 ロイターによると、上海智臻網絡科技は2004年に特許を出願し、2009年に取得したという。

 アップルがSiriを搭載したiPhoneを発売したのは2011年10月だったが、上海智臻網絡科技はその翌年に初めてアップルを提訴。アップルはこれまで、その特許の無効を主張してきたが、今年7月に最高人民法院(最高裁)が有効性を認めたという。

 アップルはSiriの機能に上海智臻網絡科技の特許は含まれないと反論している。同社は声明で、「上海智臻網絡科技が新たに提訴したことは遺憾。裁判所に事実を示し、引き続き世界の顧客に最高の製品とサービスを提供することに注力する」と述べている。

 今後は、上海智臻網絡科技がSiri搭載アップル製品の販売差し止めを求める可能性がある。一方、上海の裁判所が、アップルの技術と上海智臻網絡科技の技術を異なるものと判断し、アップルに有利な判決を下す可能性もあると、ウォールストリート・ジャーナルは伝えている。

アップルの中国事業好調

 こうした中、iPhoneの中国販売は好調だ。香港の調査会社カウンターポイント・テクノロジー・マーケットリサーチによると、今年4〜6月における中国での販売台数は740万台となり、前年同期から32%増加した。

 中国には華為技術(ファーウェイ)やvivo(ビボ)、OPPO(オッポ)、小米(シャオミ)といったライバルメーカーがあるが、このうちファーウェイを除く3社はいずれも台数を大幅に減らした。

 ファーウェイの販売台数は同14%増だったものの、アップルの伸び率を下回った。アップルが昨年9月に発売した「iPhone 11」は中国の機種別販売ランキングで連続1位となり、今年4月に発売した「iPhone SE」(第2世代)は同4〜6月の機種別販売ランキングで3位以内に入った。

 また、今年4〜6月期におけるアップルの中国売上高は、前年同期比2%増の93億2900万ドル(約9900億円)となり、全売上高の約16%を占めた。

中国企業への締め付け強めるトランプ氏

 今回のような知的財産権やテクノロジー、貿易を巡る米中の対立は、過去数十年の歴史の中で二国間の関係を最悪なものにしていると、米ウォールストリート・ジャーナルは伝えている。

 トランプ米大統領は最近、中国企業への締め付けを強めている。例えば、中国発の動画投稿アプリ「TikTok(ティックトック)」が国家安全保障を脅かすとして問題視。米国での利用禁止を警告しつつ、TikTok米事業の米企業への売却を迫っている。

 一方で、中国政府はこれに対抗している。8月28日夜、中国・商務省と科学技術省は技術輸出リストを改訂した。新たな輸出制限の対象に「コンテンツ・レコメンデーション」などを加えた。これによりTikTok米事業の売却が困難になったと指摘されている。

ニューズフロントLLPパートナー

同時通訳者・翻訳者を経て1998年に日経BP社のウェブサイトで海外IT記事を執筆。2000年に株式会社ニューズフロント(現ニューズフロントLLP)を共同設立し、海外ニュース速報事業を統括。現在は同LLPパートナーとして活動し、日経クロステックの「US NEWSの裏を読む」やJBpress『IT最前線』で解説記事執筆中。連載にダイヤモンド社DCS『月刊アマゾン』もある。19〜20年には日経ビジネス電子版「シリコンバレー支局ダイジェスト」を担当。22年後半から、日経テックフォーサイトで学術機関の研究成果記事を担当。書籍は『ITビッグ4の描く未来』(日経BP社刊)など。

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