「アホ」、「犯罪者」、「鉄砲玉」 警備業界大手テイケイによる「異常」な言動の真相とは?
労働組合・プレカリアートユニオンが、警備会社大手のテイケイ株式会社に対し、損害賠償1221万円を請求する訴訟を提起した。
テイケイに対し、ユニオンは、2019年3月から警備員の未払い賃金問題などの改善を求め、団体交渉の申し入れていた。ところが会社側は組合の申し入れに一切応じようとせず、退職強要で無理やり会社を辞めさせる、怪文書を送り付けるなどの激しい組合攻撃をはじめた。
特に今回訴訟で問題にされている、ユニオンやそのメンバー個人に送られた「怪文書」と、ユニオンがテイケイ本社前で街宣活動を行った際に会社が本社の入り口に張り出した張り紙は一目見ただけでも「異様さ」が際立つ。すでにその様子はSNSでも拡散している。
なぜ会社がこのような異様な行動をとり続けるのだろうか。このような露骨な労働組合への権利侵害は、法的にいかなる「代償」を生み出すのだろうか。
違法な未払い賃金の支払いを求めてユニオンに加盟したテイケイの警備員たち
テイケイの警備員がプレカリアートユニオンに加盟して会社に求めたのは、未払い賃金の支払いだった。2019年3月のことだ。
テイケイでは毎週水曜日15時から21時の間で勤務実績報告書を持参し実績報告するよう命じられていたが、その間の賃金は一切支払われず交通費が支給されなかった。
勤務実績報告書の作成は明らかに労働法が定める労働時間であり、会社は賃金を警備員に支払う義務がある。そのため、労働基準監督署が賃金を支払うよう指導し、裁判所が労働審判で賃金を支払うよう命じる審判を下している。それにもかかわらず会社は応じなかった。
組合の正当な要求を無視し、組合をつぶすべく動き始めたテイケイ
それどころか、会社は激しい組合攻撃を行い、組合を排除する行動をとり始めた2019年5月には、会社は組合員を呼び出し退職をせまった。
会社側の言い分は次のようなものだったという。組合員が5分遅刻したり昼休みの昼寝の際に寝過ごして仕事に遅れた時間の賃金を、組合員が会社に報告せず賃金を請求した。それが犯罪行為だとして退職を迫ったのだ。プレカリアートユニオンによればその際会社は「退職届を書かなければ組合員が犯罪者として警察に追われる」と脅したという。
もちろん、会社側の「犯罪行為」という主張は妥当しない。むしろ脅迫行為として違法である可能性が高いだろう。ユニオン側は会社への抗議活動を重ね続けた。すると、今回の訴訟で問題になった「怪文書」の送付と掲示が開始されるようになったのである。
テイケイの異様な怪文書
まずはプレカリアートユニオンから提供を受けた写真で、テイケイが出した怪文書がいかなるものか見てもらいたい(なお、プレカリアートユニオンはYouTubeで怪文書の内容について紹介してる)。
動画:テイケイで今、何が? 労働基準法違反、労働組合法違反を開き直るテイケイに公共施設の警備をさせてよいのか
参考:大手警備会社テイケイが労働組合に対して「雲助」などと誹謗中傷する匿名掲示板レベルの怪文書送付、社前行動では差別・中傷の横断幕も
テイケイは、労働基準法違反を改善するように求めた組合に対し「暴力反社」「アホタレ」「小学生並みだな」などと罵っている。もちろん、これらの暴言は、労働問題と一切関係がなく、組合の存在や組合活動を行う人を全否定する内容である。
あまりにも稚拙で気分を害する人も多いだろう。文書にある「雲ドラ」という用語は運輸労働者に対する差別用語だ。
青いテイケイの封筒と共に写されている文書は郵送された文書で、組合の事務所のみならず組合メンバーの個人宅にも送付された。訴訟によれば、提訴の段階で少なくとも2019年5月から今年1月までに32通も送られているという。
差別用語を張り付けた郵送物を、大企業が個人に送り付けるという事態も、「異様」としか言いようがない。
一方、窓ガラスに張り出された垂れ幕の文書は、ユニオンがテイケイの社前で宣伝活動を行うたびに張り出された。張り紙は不特定多数の通行人の注目も集めており、宣伝活動を行っているユニオンの信用をおとしめる効果があり、名誉棄損の疑いが濃厚だ。訴状によれば、文書の掲示は昨年8月から今年1月までに合計19回行われたという。
繰り返しになるが、これらの行動は、あまりにも「異様」というより他ない。
テイケイの行為の「違法性」
これらのテイケイの行為は、法的には、名誉棄損と労働組合への権利侵害(支配介入)の二点が争点となる。
名誉毀損とは人や団体の社会的信用や評価を低下させることをいい、不法行為に該当し、損害賠償の対象になる。人や団体の社会的評価を低下させたかどうかを判断するにあたって評価されるのは、どの程度の数の人に事実が認識される状態にあったか、適示された内容がどのようなものであったか、ということだ。
テイケイの文書掲示は、本社前を行き交う不特定多数の通行人が認識できるものだった。さらに文書掲示がなされた際、ユニオンは、「プレカリアートユニオン」の旗を掲げて街宣活動を行っていたから、通行人には掲示内容がプレカリアートユニオンに向けられたものであることがわかる。
そして掲示内容は、ユニオンが暴力団など犯罪を行う集団との印象を抱かせるものであるから、ユニオンの反社会的評価を下げる可能性が高い。以上のような事情から、ユニオンはテイケイの文書掲示は名誉毀損にあたるとしている。
次に、今回の事件で重要なのは、一般的な名誉棄損だけではなく、憲法で保障された労働組合に対する権利侵害行為である。今回の事件のように、労働組合は賃金の支払いなど、労働者の当たり前の権利を要求する主体である。
労働組合の権利が侵害されてしまえば、会社に法律で定められた賃金を請求することさえできなくなってしまう。そのため、労働組合への権利侵害は、非常に重大な法的問題を引き起こすのである。では、今回のテイケイの行為はどのような法律に違反するのだろうか。
誰しも義務教育で習うように、憲法第28条は労働者が団結する権利=労働組合を作る権利を強く認めている。これを保障するためにあるのか労働組合法第7条である。労働組合法第7条は労働組合の権利侵害を「不当労働行為」として禁止し、労働者が組合を結成し団体交渉によって会社と労働条件を決定することを促している。
不当労働行為の一つに「支配介入」という違法行為がある。労働組合は組合員が自主的に民主的に運営する団体であり、使用者は労働組合を支配することを目的に、組合の運営について介入してはならない。これを侵害する行為が「支配介入」である。
例えば、組合が自分たちで選んだ代表者を会社が認めないとして別の人に代えるように要望したり、組合の正当な行動について違法なもののように言って行動を取ることを阻害したり、組合のことを誹謗中傷して労働者が組合に加入することを妨害したりする事は全てこの「支配介入」に当たることになる。
テイケイの怪文書はその内容から明らかなように、組合や組合員個人を威圧して、組合の団結を弱めたり、正当な組合活動をあたかも正当性がないように見せることによって阻害し、運営に介入する「支配介入」に該当する可能性が極めて高い。
テイケイが露骨に不当な言動を続ける理由
怪文書のような露骨な支配介入の手段を用いれば、裁判で違法判決が出される可能性は非常に高いと思われる。では、そこまで「リスクの高い方法」でテイケイが組合に敵対する理由は何だろうか。
実はこうした露骨ないやがらせは、いわゆる「ブラック企業」の常とう手段でもある(なお、けっしてまともな会社は組合と主張が対立してもこのようなことは行わない)。今回の会社の行為の目的は、ユニオンやそのメンバーが会社の違法行為を追求することを諦めるさせることにあると思われる。ただ経営者が短気で無鉄砲ということではなく、練られた「戦略」である可能性が高いのである。
法律がいくら労働組合の原理を法律で保障しようと、それは紙に書かれた文章に過ぎない。法律が現実のものとなるには権利行使が必要なのである。逆に言えば権利行使がなければ法律は実現されない。
だから「ブラック企業」の経営者は、いやがらせによって「労働者が権利行使できないようにしよう」と考えることが多いのである。テイケイがあまりに異様で「リスクの高いやり方」をする理由は、ここにある。労働者が異様さに恐怖し、権利行使をあきらめれば、その時点でテイケイの「勝利」が確定するというわけだ。だからこそ、あえてとことんまで異様な行動をとっているものと推察できる。
逆に、労働者が今回の裁判で権利主張をし続ければ、損害賠償の支払い命令が下る可能性は高いと思われる。同時に、多くの消費者がこの会社の「実態」を知れば、コンプライアンス意識が欠如した企業とみなされてしまうだろう。
結局、「異常な言動」の繰り返しは、労働者が権利行使をあきらめて、消費者にも「実態を知られない」と思っているからできる行為であり、その前提が崩れた場合、会社の「代償」は甚大になるだろう。
すべての人たちの権利を守る労働運動
労働組合は社会的な存在だ。今の現代社会ではほとんどの人は何らかの形で働き、その対価として賃金を得て生活を営んでいる。だから労働組合への権利侵害は、非常に重大である。
私が代表務めるNPO法人POSSEと連携している総合サポートユニオンや、今回の事件の当事者であるプレカリアートユニオンは、組合員が何万人もいるような大きな組織ではない。
しかし、小さな組合が一つ一つの組合メンバーの問題について社会的に闘うことで、大企業を含め、大きな労働事件を世の中に知らしめている。報道される労働事件の大半が「ユニオン」による告発に関係しており、裁判所の「労働判例」のほとんども労働組合が当事者を支援している。
企業別組合は自社の問題に消極的なこともあり、「困ったときに一緒に問題に取り組む組合」は、ほとんどが社外の小さな組合なのだ。
そしてそうした取り組みの積み重ねが、今日の「ブラック企業問題」を明るみに出すことで、労働社会の改善を促している。労働組合への権利侵害は、そうした個人の権利行使の道を閉ざし、労働改革の道筋さえも圧迫する。だからこそ、決して許してはならないのである。
参考:『日本の「労働」はなぜ違法がまかり通るのか?』(星海社新書、2013)
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