Yahoo!ニュース

やっぱり「浮気」していた加熱式タバコ喫煙者

石田雅彦科学ジャーナリスト
写真:筆者撮影

 加熱式タバコのシェアがジワジワと伸びているようだ。そのあおりを受け、紙巻きタバコの売上げは次第に減りつつある。日本たばこ産業(JT)はアイコス(IQOS)でフィリップ・モリス・インターナショナル(PMI)にやられっ放しなので、奪われたシェアを奪還する巻き返しの商品を投入するらしい。

二股をかけていたアイコス使用者

 そもそもタバコはロイヤリティの高い商品で、喫煙者はブランドをコロコロ換えるような浮気をあまりしない。かつて喫煙者だった筆者もラッキーストライク一穴主義だった。

 タバコ会社にとってみれば、これほど律儀な消費者はいない。しかも毎日、欠かさず同じ金額を支払ってくれ、それを何十年も、それこそ「病に冒されて死ぬまで」買い続けてくれるのだ。

 では、加熱式タバコはどうだろう。加熱式タバコに移行した喫煙者は、紙巻きタバコに戻らないのだろうか。よりマシな毒物へ、といういわゆるハームリダクションの考え方からすると、紙巻きタバコよりまだマシな加熱式タバコだけを吸うようになることは、まだマシな行動となる。

 昨年2017年11月に発表された日本の報告によれば、加熱式タバコ(アイコス)と紙巻きタバコのデュアルユース、つまり両方を吸っている浮気者は4.7%いたという。この論文(※1)は九州の産業医科大学の産業生態科学研究所の研究グループによるもので、今から約1年前の2016年12月に九州の某製造工場の全職員3155名を対象にしたアンケート調査をまとめたものだ(男性3008名、平均年齢33.6歳、回収率100%)。

 その結果、全体の75.8%(2390名)が加熱式タバコについて認識し、アンケート対象の男性3008名で調べてみたところ、紙巻きタバコを主に吸っている人は1566名(52.1%)、アイコスを主に吸っている人は273名(9.1%)だった。また、紙巻きタバコとアイコスの両方を吸っている人は140名(4.7%)だったという。

 両方吸っている140名のうちわけでは、紙巻きタバコを主に吸っている人では8.8%だったのに比べ、アイコスを主に吸っている人では51.1%となった。つまり、加熱式タバコの使用者では、少なくとも2016年12月の時点で半分以上がデュアルユースの浮気者だったことになる。

 また、加熱式タバコを認識している人のうち「加熱式タバコを使用することは"喫煙である"と思いますか?」という質問に17%(男性17.4%、396名、女性8.9%、10名)が「いいえ」と回答した。この回答者のうちわけは、現使用者22.4%、元使用者10.2%、非使用者6.4%となっている。

 さらに「加熱式タバコを禁煙の場所で使用してもよいと思いますか?」という質問には、16.7%(男性17.0%、387名、女性10.6%、12名)が「はい」と回答した。この回答者のうちわけは、現使用者20.6%、元使用者11.3%、非使用者9.2%となっている。

 アイコスを使用する理由(複数回答)としては、ニオイが少ない47.8%、興味があった42.4%、周囲の人に害を与えない37.7%、紙巻きタバコより害が少ない35.9%、他人から勧められた15.9%、本数を減らすため5.8%、その他4.0%となり、禁煙するためという回答は3.6%(回答数10)のみだった。また、今後もアイコスを続けて使用したいかどうか聞いたところ65%(180名)が「はい」と回答している。

紙巻きタバコへの「郷愁」とは

 アイコスが全国販売され始めたのは2016年4月だ。徐々に入手しやすくなり、2017年4月には日本のタバコ市場の約10%を占めるまでになっている。

 アンケートを実施したのは1年以上前なので、加熱式タバコへの認識回答数はもっと増えるだろう。ただ、加熱式タバコがいわゆる一般のタバコと違うということ、加熱式タバコを禁煙場所で吸ってもいいと考える人の数が減っているかどうか疑問だ。

 この調査をした研究者は、これまでの喫煙についての問診票では喫煙率を正確に把握できないのではないかと指摘する。実際、このアンケートでは男性の見かけ上の喫煙率(52.1%紙巻きタバコかアイコス、両方)よりタバコ製品という表現でくくった喫煙率(56.5%)のほうが高かったという。

 同様の調査は、加熱式タバコはそれほど広まっていないがニコチン添加式の電子タバコが普及しているニュージーランドでも行われている。

 ニュージーランドのオタゴ大学などの研究者は、電子タバコというニコチン伝送システムと紙巻きタバコのデュアルユース、つまり二股行動について面談方式で調べた(※2)。調査の対象者は、喫煙者であるニュージーランドの男女20名(女性7名、19〜65歳)で、そのうち16名が電子タバコなどのニコチン伝送システム(ペンタイプ第2世代VAPEや第3世代のタンクシステム)を使用している。

 インタビューで聞き取り調査した結果、ニコチン伝送システムを使用中、紙巻きタバコを吸っていたときの感覚を思い出して郷愁を感じ、懐かしがっていることがわかったという。彼らは電子タバコによるニコチン補充では、紙巻きタバコほどの満足感は味わえないと思い、また紙巻きタバコを吸っていても電子タバコとのデュアルユースを「禁煙の成功」と認識しようとしているようだ。

 加熱式タバコもニコチン伝送システムの一種で、紙巻きタバコに匹敵するニコチンが供給される。この調査をした研究者は、ハームリダクションやタバコ規制政策の効果を高めるために、こうした感想が役立つのではないかといっているが、加熱式タバコを含む電子タバコなどのニコチン伝送システムは、果たしてニコチン中毒という特有の依存症を解決することができるのだろうか。

※1:姜英ら、「勤労世代における非燃焼・加熱式タバコの認識と使用状況の実態調査」、第11回、日本禁煙学会学術総会、繁田正子賞セッション、2017

※2:Lindsay Robertson, et al., "Dual use of electronic nicotine delivery systems (ENDS) and smoked tobacco: a qualitative analysis." BMJ, Tobacco Control, dx.doi.org/10.1136/tobaccocontrol-2017-054070, 2018

科学ジャーナリスト

いしだまさひこ:北海道出身。法政大学経済学部卒業、横浜市立大学大学院医学研究科修士課程修了、医科学修士。近代映画社から独立後、醍醐味エンタープライズ(出版企画制作)設立。紙媒体の商業誌編集長などを経験。日本医学ジャーナリスト協会会員。水中遺物探索学会主宰。サイエンス系の単著に『恐竜大接近』(監修:小畠郁生)『遺伝子・ゲノム最前線』(監修:和田昭允)『ロボット・テクノロジーよ、日本を救え』など、人文系単著に『季節の実用語』『沈船「お宝」伝説』『おんな城主 井伊直虎』など、出版プロデュースに『料理の鉄人』『お化け屋敷で科学する!』『新型タバコの本当のリスク』(著者:田淵貴大)などがある。

石田雅彦の最近の記事