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オマーン沖でタンカーにドローン攻撃、死者2名

JSF軍事/生き物ライター
攻撃を受けたタンカー「マーサー・ストリート」(写真:ロイター/アフロ)

 7月29日夜、中東のオマーン沖でタンカーが何者かによる攻撃を受けてイギリス人とルーマニア人の船員2名が死亡しました。

  • タンカー 「マーサー・ストリート」 
  • 所有者 太平海運(日本、今治)
  • 運航者 ゾディアック・マリタイム(イスラエル企業、本拠地ロンドン)
  • 船籍 リベリア 

 アメリカ、イギリス、ルーマニア、イスラエルは攻撃の犯人をイランと断定し名指しで非難しました。日本も被害関係者ですが攻撃への非難はしたもののイランを名指しませんでした。(追記:8月6日にG7共同でイランを名指しして非難声明を発表、日本もイランを名指しした扱いになりました。)

 周辺の海域ではイラン船とイスラエル船が謎の攻撃を受ける事態が続いており、イランとイスラエルがお互いに民間船に攻撃を続けている疑いが持たれています。

 一連の攻撃では双方ともにリムペットマイン(吸着爆弾)や小型自爆ドローンで攻撃されており、内蔵されている炸薬量は数十kg程度と推定されています。本格的な対艦兵器である魚雷や対艦ミサイルの炸薬量は数百kgあるのと比べると少なく、大型船に対してリムペットマインやドローンで攻撃しても沈没するような大損害は与えられません。

 つまり双方ともわざと威力の低い攻撃を行っています。これは本格的な戦争に発展しないように抑制された攻撃に止めた、嫌がらせの小競り合いの応酬なのです。しかし今回は不幸にも死者が出てしまいました。初めて生じた死者は更なる強い報復を招きかねず、事態をエスカレートさせる危険性を孕んでいます。

 「マーサー・ストリート」の被弾状況です。ブリッジ(船橋。操船を行う場所)の上に直撃して船員2名を死亡させました。穴の開いた状況から対艦ミサイルの炸薬量(200kg前後)ではなく、自爆ドローンの炸薬量(20kg前後)だと判断されたのは妥当のように思われます。

 おそらくドローンの誘導方式は画像カメラの情報を伝送する遠隔操作式です。パッシブレーダー(レーダー波を感知して突入)だと周囲の無関係な民間船に突入してしまいかねず、アクティブレーダー(自機搭載レーダーで目標を捉え突入)でも多数の民間船が入り混じる海域では誤射の可能性があります。

 ただし画像伝送式の場合、近い距離に居るなら操縦者とドローンが直接的にLOS通信(見通し線内通信)することが可能ですが、イラン本国からドローンが発進していると仮定した場合はオマーン沖まで数百kmと距離が遠く、以下の二通りの方法が考えられます。

  • 衛星通信を用いた遠隔操作
  • 電波リレーの中継ドローンを複数用意して遠隔操作

 画像カメラで目標を確認して自爆ドローンを突入させたと考えられる今回のマーサー・ストリートの事件では、人が居る可能性が高いブリッジが狙われました。従来のイランとイスラエルの民間船への攻撃では船員が居ないような箇所を狙った抑制的な攻撃でしたが、方針が変わってしまったのでしょうか? それともドローン操縦者に攻撃命令の意図が上手く伝わっておらず、うっかりブリッジに突入してしまった間違いが起こってしまったのでしょうか?

 現状では意図的な攻撃だったか間違えて狙ってしまったのか判断はできません。イランは攻撃したこと自体を否定しています。

 もし仮にイスラエルが報復手段として潜水艦からの魚雷攻撃を選択した場合、イランは対艦ミサイルで民間船に報復することになるでしょう。強力な対艦兵器による応酬が始まった場合、リムペットマインやドローンでの小競り合いとは次元が異なる本格的な戦争に発展しかねません。

軍事/生き物ライター

弾道ミサイル防衛、極超音速兵器、無人兵器(ドローン)、ロシア-ウクライナ戦争など、ニュースによく出る最新の軍事的なテーマに付いて兵器を中心に解説を行っています。

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