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スペインから来た男が、たった一人で始めた映画祭が15年も日本に定着。情熱は映画を超えて人々を刺激する

斉藤博昭映画ジャーナリスト
ラテンビート映画祭プロデューサー、アルベルト・カレロ・ルゴ(撮影/筆者)

「映画祭はたくさんあるけれど、一人の人間が始めたものが、これだけ続いているのは他に例がないでしょう。しかも僕は外国人です。日本人の倍以上の努力が必要でした」

第31回東京国際映画祭が迫っているが、その半分の歴史ながら、今年、記念すべき第15回を迎える映画祭が同時期に東京で開催される(追って大阪・横浜でも開催)。ラテンビート映画祭だ。スペインや南米などラテン諸国の映画、またはそうしたテーマを扱う映画を特集するこの映画祭は、映画ファンの間でも貴重な機会として定着し、愛され続けている。

第15回のメインビジュアルは、過去何度もラテンビートに協力してきた、スペインのイラストレーター、アナ・ファンによるもの。雑誌「The New Yorker」の表紙も手がける世界的アーティストだ。
第15回のメインビジュアルは、過去何度もラテンビートに協力してきた、スペインのイラストレーター、アナ・ファンによるもの。雑誌「The New Yorker」の表紙も手がける世界的アーティストだ。

冒頭の言葉が示すとおり、驚くべきは、この映画祭が一人のスペイン人の情熱によって続いている点だ。映画祭プロデューサー、アルベルト・カレロ・ルゴ。スペインの公共テレビ放送で働いていた彼は、「90年代のスペインでは、ちょっとした日本ブームがあった」と、日本語を勉強。1994年、東京藝術大学への留学で来日し、1997年頃から母国スペインの映画を日本に紹介するという「ミッション」を自らに課すようになった。そして2003年の「バスクフィルムフェスティバル」を経て、2004年、第1回ラテンビート映画祭へとこぎつけたのだ。

それから15年。アルベルトは自身の仕事(スペイン政府や企業のコンサルティング業)と並行し、プロデューサーとしてラテンビート映画祭を継続させてきた。いったい何が彼を突き動かしているのか聞いてみた。

スペインで大々的に報じられる日本の映画祭

「バスクフィルムフェスティバルや、その前の東京国際レズビアン&ゲイ映画祭(現・レインボー・リール東京)に作品を提供した経験から、とにかく自分で映画祭のプログラミングディレクターをやりたいと強く感じるようになりました。日本からスペインには多くの観光客が訪れるし、スペインでは村上春樹や吉本ばなな、谷崎潤一郎などの文学が一般レベルに浸透しています。でもスペインの文化は日本で広く知られているでしょうか? その疑問がラテンビートの大きな動機ですね。スペイン政府にアプローチし、スポンサーを探すなど奔走し、第1回から字幕制作費、ゲストを呼ぶ予算などを幸運にも賄うことができました」

このラテンビート映画祭、日本ではメジャーな知名度があるとは言えないが、アルベルトの母国スペインでは、つねに大きく報道されているという。

「スペインでは、公共放送のチャンネル1で、日本でのラテンビート映画祭が20分間にもわたって特集で放映されました。しかも日曜の夜の時間に! もちろんTVクルーを日本に送って取材したのです。なぜならスペインやラテンアメリカを特集する映画祭は世界的にも珍しいので、それくらい注目を受け、評価されているのです」

作品、来日ゲストとも充実させる努力

プログラムの選定から、それぞれの映画のプロモーターやスポンサーとの交渉、字幕の発注やラボとのやりとり、ゲストのエアチケットやホテルの手配など、すべてを「オーケストラの指揮者のように(本人談)」行なっているというアルベルト。もちろん何人ものサポート役がいるのだが、本業の傍らで映画祭を取り仕切るエネルギーは尋常ではないと思われる。

第1回ですでにペドロ・アルモドヴァル監督の『バッド・エデュケーション』を日本公開に先駆けてプレミア上映するなど、そのラインナップは定評があり、名匠、カルロス・サウラ監督など来日ゲストも話題を集めてきた、ラテンビート映画祭。人種やセクシュアリティなど「多様性」を早くから意識してきたのも特徴で、時代を先取りしている点も注目に値する。

今年の第15回も、短編を含めて14本が上映されるが、どれも粒ぞろい、個性的な作品ばかり。

『アナザー・デイ・オブ・ライフ』はアニメによる表現が戦闘の悲劇をさらに強調する。
『アナザー・デイ・オブ・ライフ』はアニメによる表現が戦闘の悲劇をさらに強調する。

カンヌ国際映画祭で上映され、先日のサン・セバスチャン国際映画祭では見事に観客賞に輝いた『アナザー・デイ・オブ・ライフ』は、ポルトガルから独立するも、内戦が続く1975年のアンゴラをポーランド人ジャーナリストの視点で、しかもアニメで描く意欲作。当時のフッテージや写真、さらに関係者が語る現代の部分は実写で、その切り替わりもすばらしく、映画の「世界」に引きずり込まれる力作だ。

この『相続人』を筆頭に、女性が主人公、あるいは女性監督の作品が目立つのもラテンビートらしい。
この『相続人』を筆頭に、女性が主人公、あるいは女性監督の作品が目立つのもラテンビートらしい。

熟年のレズビアンカップルの運命がセクシュアリティを超えて胸に迫るパラグアイ人監督の『相続人』は、今年のベルリン国際映画祭でアルフレッド・バウアー賞(過去にレオス・カラックス、チャン・イーモウ、アラン・レネらが受賞)と女優賞の2冠を達成した傑作。

そのほか、ヴィム・ヴェンダース監督がバチカンでインタビューを試みたドキュメンタリー『ローマ法王フランシスコ』など貴重な作品も上映。後にチェ・ゲバラの革命に参加する、ボリビアの抵抗運動に身を捧げた日系二世をオダギリジョーが演じた『エルネスト』は、すでに公開済みの日本とキューバの合作ながら、ラテンビートのバラエティの広がりを感じさせる。

オダギリジョー主演の『エルネスト』(c) 2017 “ERNESTO” FILM PARTNERS
オダギリジョー主演の『エルネスト』(c) 2017 “ERNESTO” FILM PARTNERS

つねに感じる日本とスペインの文化への温度差

こうして今年も順調に開催を迎えるラテンビートだが、より広範囲の観客にアピールするうえで難しさも実感するというアルベルト。

「日本でのプロモーションでは苦労も多いです。日本の場合、新聞でも文化ページが限られていますし、紹介してもらえるメディアも限定的。スペインでは、サン・セバスチャン映画祭が行われている期間は、朝・昼・夜のTVのニュースで必ず映画祭のレポートがあります。でも日本では東京国際映画祭ですら、そんなに報道されませんから……」

しかし彼の情熱が消えることはない。今後もスペインと日本、両国の「橋」を築くため、マドリッドの王宮に隣接した日本庭園を作るプロジェクトにも尽力している。ラテンビートを続けたことで得た信頼感が、新たな目標へとつながっているようだ。

自分がやりたいと思ったら、とにかく自分で動くこと。それが僕の生き方なのです

その言葉どおり、ラテンの情熱は地球の反対側で新しい地平を切り開き、映画を通して、日本人の心を揺り動かしている。

第15回ラテンビート映画祭

11/1(木)〜11/4(日)、11/9(金)〜11/11(日) 新宿バルト9

11/17(土)〜11/18(日) 梅田ブルク7

11/23(金・祝)〜11/25(日) 横浜ブルク13

http://lbff.jp

映画ジャーナリスト

1997年にフリーとなり、映画専門のライター、インタビュアーとして活躍。おもな執筆媒体は、シネマトゥデイ、Safari、スクリーン、キネマ旬報、VOGUE、シネコンウォーカー、MOVIE WALKER PRESS、スカパー!、GQ JAPAN、 CINEMORE、BANGER!!!、劇場用パンフレットなど。日本映画ペンクラブ会員。全米の映画賞、クリティックス・チョイス・アワード(CCA)に投票する同会員。コロンビアのカルタヘナ国際映画祭、釜山国際映画祭では審査員も経験。「リリーのすべて」(早川書房刊)など翻訳も手がける。連絡先 irishgreenday@gmail.com

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