【後編】繰り返される詐欺的手法 首謀者は10年前から野に放たれたまま。あなたの隣にいるかもしれない。
【前編】“「怖くて、ただ怖くて」借金は1600万円、自己破産に追い込まれて” の記事にて、買い物代行に応募したのをきっかけに、多額の借金を背負わされ、極度の精神的苦痛を強いられた40代男性の話をしました。
この手口は、今に始まったことではありません。
10年ほど前から、私は実質的経営者が引き起こす事件を追い続けています。
改めて2007年に500万円の借金を背負わされた、当時40代だった女性に話を聞くと、彼女もまた、求人紙に載っていたアルバイトの募集がきっかけで被害に遭っています。
現在の会社では、首謀者である男は傀儡の社長をたてて、裏ですべての業務を取り仕切っていますが、10年前の会社の社長はこの男自身で、矢面にたってすべてを行っていました。仕事内容は前回の40代被害男性と同じ「クレジットカードを使って、ブランド品を買う仕入れの手伝い」です。
最初の渡航で、彼女は120万円のカードを切ってブランド品を買い、帰りに日当として3万円が渡されました。後日、カードの代金120万円と手数料3%が上乗せして振り込まれます。
この男の常とう手段、一度、お金を渡して相手を信用させる手口は、この時から変わりありません。
2回目に海外へ向かった時には、前回より多い500万円を複数のカードで決済しました。
しかし、翌月の支払日になっても入金されず、彼女が驚いて会社に電話をすると「香港で現金の盗難事件にあった」と言います。
翌月、会社から破綻したという封書が届いたのです。
クレジットカードを使った、巧妙な手口とは
当時バイヤーとして香港、マカオに向かった人たちからも話を伺うと、現地でこの男が皆を束ねて、バイヤーらを古美術店、宝石店に連れて行くと、購入する商品を指示してカード決済させるそうです。しかし不思議なことに、男はその商品を受け取らせずにバイヤーらを店から出します。当時は「商品は後に、会社に送られるのだろう」と思っていたそうですが、ここには巧妙なカラクリがありました。
「私たちがカード決済しても、いつも彼は商品を受け取りません。おそらく、お店側に一定の手数料を払い、商品を購入したことにして、代金をバックしていたのだと思います」
別な方にも話を伺うと、やはり同じ答えでした。
「男はお店でカード決済させると、私たちバイヤーを料理店に連れて行き、飲食をさせます。その間に、彼は席を立って、再び同じ店に戻ってくのです。どうやら商品を買ったことにして、現地の店側に購入代金の10%を払い、その分を差し引いた代金すべてを男が手にしていたようです」と犯罪の裏事情を話します。
3000万円分のクレジット購入をバイヤーにさせたとすれば、300万円を購入店舗側に払い、自分は2700万円を手にするというカラクリです。
つまり、男とお店が結託して、カード会社を騙し、不正に現金を手にしていたというのです。
今、日本でも高額商品をクレジットカードで決済させて、それを別なお店に持ち込ませ、手数料などを引いた金額を相手に手渡すという「クレジットカードの現金化」という違法性の高い借金の手法がありますが、まさにその走りといっていかもしれません。
怒号の債権者集会。しかし実質的経営の姿はない
彼女は、会社破綻の連絡を受けた後、債権者への説明会が開かれるというので向かいました。
そこには、100人ほどが集まっていました。この時点で社長は別な男性に代わっていました。
すでに責任回避のために、傀儡の社長を立てていたのです。
新社長は「国外にお金をプールしているので、来月、現金化してお返しできる」の説明をしましたが、借金を背負わされた人たちからは「信じられるか!」「すぐに金を払え!」の怒号が飛び交います。
当時、被害者の会のメンバーとして動いていた男性によると、社長になった男は「裁判を起こさず、カードの支払いを毎月の分割支払いにすることに同意すれば、この場で3万から5万円を払う」との提案をしてきました。しかし彼は同意せずに、民事裁判を起こして戦い、後に勝訴判決を得ています。
一方、先の女性は毎月20万円を分割で受け取ることに同意しました。その場でお金を若干受け取ったものの、翌月の入金はなく、結果、多額の借金を背負い、自己破産せざるを得なくなったのです。
あれから10年以上がたち、思い出したくもない記憶のなか、今も被害者出ていることを聞き、女性は取材に応じてくださいました。
「あの男は、人をたらしこむのがうまかった」
「多くの人の不幸を踏み台にして、己だけが私腹を肥やすのは、本当に許せない!」
憤りを口にします。
被害届が受理されずに、被害は繰り返された。
当時の被害者らは結束して集まり、警察に被害届を提出しましたが、受理してもらえず、今回、また同じことが繰り返されています。
一般論として、詐欺師というものは、一度、お金を騙し取るのに成功すると、同じ手口を行います。
それは、競技場のトラックを回るように、何度も周回して新たな人を騙し続けるようなもので、一時期、話題になった事件でも、時間がたつと忘れられていきます。すると再び、出てくるのです。
今回、過去の被害者に取材すると「まだやっているのか」と、皆さん驚きの表情を浮かべていました。
詐欺は“忘却の時”を利用して、やってくるものなのです。
ここに同じような詐欺行為がなくならない理由があります。
残念なことに、今回、1600万円の被害に遭った男性もバイヤーらとともに、警察に行きましたが、被害届は受理されませんでしたので、当然、男性の被害への捜査はされていません。
最初から騙す意図をもって行ったと思われる男の言動
今回のカード詐欺で、ある方が数百万円の支払いを電話で迫ると、男は次のように答えました。
「すぐに払ってというのは無理ですよ」
払えない理由を次にように言います。
「そうする(あなたに払うとなる)と、(今、海外に買い付けに行っている)誰かを潰すしかなくなるんで」
「今、すぐに飛ばせる人間がいない。そういう人間がいれば、飛ばして、払ってもいいんだけど」
「飛ばす」とはクレジットの支払いを止めるということです。
つまり、誰かの返済代金を払うために、別の誰かのクレジットの支払いを止める。
こうした「飛ばす」「潰す」ことを確信犯的に繰り返して、バイヤーらにこの仕事をさせていることは、明らかです。
確かに、詐欺の立件のハードルは高いかもしれません。
ですが、過去の事例からみても、このビジネスでの利益は出ず、破綻するスキームであることは明白です。それがわかっていながら、同じことを繰り返し「バイヤーを飛ばす」ことを前提で行うこの行為を、詐欺といわず何といえばよいのでしょうか。
10年以上前に被害に遭った方の一人は、当時、さらに過去にさかのぼり、消費者センターなどに同様な相談が寄せられていないかを尋ねたそうです。すると、この男の起こした事案かはわかりませんが、今回と同じようなカード不正が2000年にも、複数、起きていることがわかりました。
昨年、一昨年の被害、10年前の被害、その前にも被害は起きており、なかには数千万円ものお金を出した方もおり、被害総額は数百億円規模に上る可能性もあるのではないかといわれています。さらに今、この男による、カードを使わない新たな詐欺行為も見えてきています。
しかし実質的経営はいまだ逮捕、起訴されることなく、野に放たれたまま。今、人当りの良い顔をしながら私たちの隣にいるかもしれず、明日の被害は、我が身かもしれないのです。