「令和2年7月豪雨」災害を大きくした「雨×土地×土地開発」の掛け算
災害は1つの要因で発生するわけではない
熊本南部を中心に甚大な被害をもたらした「令和2年7月豪雨」の発災から4日で1年。熊本県では65人が死亡し、2人の災害関連死が認定されるなど最も深刻な被害が出た。多くの人が住まいを失い、現在でも3700人以上の人が、仮設住宅(みなし仮設含む)に暮らす。
とりわけ球磨川流域の豪雨および土砂災害は甚大だった。この災害を振り返るとき、3つの視点がある。それぞれに専門家がいて情報や今後の対策を発信している。それは貴重なことだが、災害は1つの要因で発生するわけではない。情報を受け取る時に、頭のなかで整理する必要がある。
1つ目は雨だ。大雨をもたらす線状降水帯が同時多発的に発生した。気象庁によると線状降水帯の東西276.5キロにおよぶ過去最大規模のもので、3日午後9時〜4日午前10時の13時間にわたって熊本、宮崎、鹿児島にかかり、総降水量の最大値は653.3ミリだった。積乱雲の長い列が、長時間、同じ場所に居座ることで、特定地域での総降水量が多くなる。
地球温暖化が進むと線状降水帯は維持されやすくなる。線状降水帯の維持される時間は水蒸気量で決まる。海水温が高くなると、積乱雲の原材料である水蒸気量が増える。
2つ目は土地(地形や地質)だ。球磨川流域では降った雨が人吉盆地に集中する構造になっている。流域内には複数の河川があるが、その多くが人吉盆地で本流に合流する。とりわけ川辺川は支流とはいえ、本流と上流域の規模がほぼ同じだ。
日本三大急流の1つである球磨川だが、人吉盆地に入ると河床勾配はゆるやかになる。それは上の地形図からも見て取れる。
さらに、人吉盆地を抜けると川幅は極端に狭くなる。こうした場所を「狭窄(きょうさく)部」という。狭窄部は排水能力が低いため災害が発生しやすい。2018年西日本豪雨では、高梁川の狭窄部の上流(岡山県倉敷市真備町)、2019年東日本台風では千曲川の狭窄部の上流(長野市)で災害が発生した。
人吉盆地は、水が急激に集まり、流れにくいため水害が起きやすいと言える。
人為的な要因による災害
3つ目が上流部の土地利用である。
かねてより、この地域では大規模な森林伐採の影響が懸念されていた。「九州南部の大面積皆伐跡地周辺域における斜面崩壊の実態」(宮緑育夫、田中均/砂防学会誌2009)では、
「皆伐跡地周辺で起きている斜面崩壊は、1)作業路網に沿った流れ盤斜面の表層崩壊、2)路肩や盛土斜面の崩壊、3)仏像構造線周辺の受け盤斜面での深層崩壊という3つの形態に分類することができた」
と指摘している。
このうちの1)と2)は林業施業に起因するものだ。
「令和2年7月豪雨」の発災後、NPO法人自伐型林業協会(中嶋健造代表理事)は球磨川流域の崩壊現場を個別に洗い出し、崩壊の種類別集計を行った。
その結果、球磨村183箇所の崩壊箇所の94%が林業施業に起因するものだった。
皆伐は森林の保水力を弱め、崩壊が発生して土が川に流れ込めば、川床が上がり、河川は氾濫しやすくなる。
土砂災害が発生する要因は、雨、土地という自然的な要因と、土地開発という人為的な要因が考えられる。
最近では「想定外の雨量」「低いと土地に住む人は高台へ」などと報道されることが増えているので、雨と土地には比較的注意が向く。一方で、上流部での林業、メガソーラー建設など、土地開発との関係は気づきにくい。
そのため目に見える表層の議論に終始していまいがちだが、たとえば、しみこんだ水がどこを流れ、どこで吹き出すかも重要だ。そして地表につくられた構造物が、地下の水と空気の流れにどのような影響を与えるかを考えるべきだ。そうしないといつまで経っても災害が起きる。
そして重要なのは、雨、土地という自然的な要因は防ぎにくく、ダムや堤防で防ごうと考える。一方、土地開発は手を打つことができる。荒っぽい林業施行を改めたり、脆弱な土地の開発などを止めることが、災害の軽減につながる。