有機フッ素化合物PFOS・PFOAが水道水の水質基準に。水質基準とは?生活への影響は?
有機フッ素化合物の「PFOS」と「PFOA」はかねてより有害性が指摘されてきたが、国は昨年(2024年)末、これらを水道水の「水質基準」項目に指定することを決めた。ここでは水質基準とは何か、PFOSやPFOAが水質基準に加わることで、私たちの生活にどのような影響があるのかを考察する。
水質基準とは
まず、水質基準とは、水道法第4条に基づき、水道水の安全性と品質を確保するために定められる。健康への長期的な影響や日常的な利用に支障がないことを目的に、項目と基準値が設定され、日本全国で統一されている。
基準値の設定には、最新の科学的知見(健康影響の研究や調査など)、国際的なガイドライン(WHO飲料水水質ガイドラインなど)、諸外国の基準値や検査技術が総合的に検討される。そのうえで日本の実情に合わせ、環境省が決定する。2023年度(令和5年度)までは厚生労働省が担当していたが、2024年度(令和6年度)から水道事業の所管が国土交通省と環境省に変更され、水質は環境省が担当している。
水道水の管理項目
水道水の管理項目には、水質基準以外にも、下図でまとめたように、水質管理目標設定項目、要検討項目がある。水質管理目標設定項目とは水質管理上留意すべきもの、要検討項目とは毒性評価が定まらない物質や水道水中での検出実態が明らかでないものだ。項目の設定や基準値、目標値の設定は、最新の知見により常に見直されている。
PFOSおよびPFOAの水質基準化とその影響
PFOSおよびPFOAは、2020年(令和2年)に水質管理目標設定項目に指定され、2020年(令和2年)に水質管理目標設定項目に指定され、暫定目標値が「1リットルあたり50ナノグラム以下」とされた(1ナノグラムは1ミリグラムの100万分の1)。この値は「体重50kgの人が毎日2リットルの水を一生涯飲み続けても、健康に悪影響を及ぼさない濃度」とされている。
水質基準に指定されたことで、水道事業者は法律に基づき以下の対応が義務づけられる。
- 定期的な水質検査の実施
- 基準を超えた場合の改善策の実施
このため、施行は2026年(令和8年)4月からになる見込みだ。
費用と汚染源という課題
PFOSおよびPFOAの対応には新たな費用が必要だ。例えば、水質検査の費用は現在1検体あたり数万円かかり、基準を超えた場合には対策費が必要になる。沖縄県では、北谷浄水場でPFOSとPFOAの濃度が高かったため、粒状活性炭を用いた浄水処理が行われた。その年間費用は約4億円であり、これが水道料金に反映される可能性もある。
PFOSおよびPFOAの水質基準化は、安全な水の供給に向けた重要な一歩である。しかし、より俯瞰的に見れば、これが「下流での対症療法」に過ぎないことも事実だ。
PFOSおよびPFOAは、残留性有機汚染物質(POPs:Persistent Organic Pollutants)に該当し、その排出の廃絶や低減を目的とする国際条約「残留性有機汚染物質に関するストックホルム条約(POPs条約)」によって、製造・輸出入・使用がすでに規制されている。日本もこの国際条約の締結国であるため、「化学物質の審査および製造等の規制に関する法律(化審法)」に基づき、これらの物質は原則として製造・輸入・使用が禁止されている。しかし、自然界で分解されることはほぼなく、水に溶けやすい性質から川、地下水、水道水などに流出することがある。
すなわち上流にある汚染源の特定と削減が根本的な解決に不可欠だ。費用負担や汚染源対策といった課題を総合的に解決することが、持続可能な水資源管理と安全な水の供給を実現する鍵となるだろう。