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【全日本ロード】最終戦プレビュー/来季、世界選手権へ!野左根航汰のパーフェクトウインなるか?

辻野ヒロシモータースポーツ実況アナウンサー/ジャーナリスト
ヤマハワークスの野左根航汰【写真:MOBILITYLAND】

10月31日(土)、11月1日(日)の2日間、鈴鹿サーキット(三重県)では今年初めてとなるオートバイの興行型レース「全日本ロードレース最終戦 MFJグランプリ」が開催される。

今年は新型コロナウィルス感染拡大の影響で、夏のビッグイベント「鈴鹿8時間耐久ロードレース」が11月に延期。しかし、海外チームや選手の入国が難しく、史上初めての中止になってしまった。その空いた週末に、恒例の最終戦・MFJグランプリが開催されることになった(元々の予定が復活した形)。

全日本ロードレース選手権としても9月の岡山国際サーキットの第2戦が台風の影響で中止となったなか、ただでさえレース数が減っていたところに鈴鹿での最終戦が復活したことはまさに渡りに船。今シーズンは全4ラウンドで争われることになった。

各クラスのプレビューをお届けしよう。

JSB1000は野左根が6連勝で王手

全日本ロードレース選手権の最高峰クラス「JSB1000」は勢力図が昨年までとは大きく変わっている。まず、Team HRC(ホンダ)とKawasaki Team GREEN(カワサキ)、ヨシムラ(スズキ)と3メーカーを代表するワークスあるいはワークス待遇に近い強豪チームが相次いで年間参戦を取りやめ、ワークス参戦するのはヤマハのYAMAHA Factory Racing Teamだけとなった。

一方でホンダはニューモデル、ホンダCBR1000RR-Rを各チームが投入し、打倒ヤマハワークスを狙ってきた。新設計のエンジンと電子制御技術で武装した新型CBRはまさに最新鋭のハイスペックモデルで、特にエンジンが最大の武器。ほぼノーマルの状態で先代モデルと遜色ない速さを見せるほどに素性が良く、ヤマハの強敵になるとみられていた。

ホンダCBR1000RR-Rで戦うハルクプロの水野涼【写真:本田技研工業】
ホンダCBR1000RR-Rで戦うハルクプロの水野涼【写真:本田技研工業】

しかし、蓋を開けてみると、YAMAHA Factory Racing Teamの中須賀克行野左根航汰がチームメイト同士で優勝を争う展開に。2015年に登場したヤマハYZF-R1は登場からすでに6シーズン目を迎えているにも関わらず、他メーカーの追随を許さないほどに熟成されていることが明らかになった。

それに加えて、野左根航汰の急成長もある。これまでJSB1000王者に9回も輝いた先輩、中須賀克行を実力で上回ったことがほとんどなかったが、今季はこれまで行われた6戦の全てでポールポジションを獲得し、さらに開幕から6連勝とここまで無双状態だ。

ランキング首位の野左根航汰【写真:MOBILITYLAND】
ランキング首位の野左根航汰【写真:MOBILITYLAND】

野左根はこの快進撃でヤマハの高い評価を獲得。なんと来季は「スーパーバイク世界選手権」にヤマハのジュニアチームからの参戦が決まった。野左根は2017年に「世界耐久選手権」に参戦して以来、3年ぶりに世界選手権シリーズに挑戦する。

野左根にとっては全日本卒業レースとなるが、最終戦・MFJグランプリでは今季8レース全戦優勝を決めて、海外挑戦を前に箔をつけたいところであろう。ただ、中須賀克行は鈴鹿を最も得意とするライダーであるし、ホンダの新型CBRはパワーサーキットの鈴鹿をターゲットにして作られたマシンとも言われているし、簡単には勝たせてくれないだろう。

ヤマハワークス、野左根と中須賀の戦い【写真:MOBILITYLAND】
ヤマハワークス、野左根と中須賀の戦い【写真:MOBILITYLAND】

ランキング首位の野左根航汰(ヤマハ)と2位の清成龍一(ホンダ)のポイント差は52点。最終戦で獲得できるポイントは2レースで56点であるため、チャンピオンは野左根が圧倒的優位な条件だが、最終戦では今季初優勝を狙って経験豊富なベテランたちが野左根に襲いかかることになる。

【JSB1000 ランキング】

1.  野左根航汰(ヤマハ) 150点

2.  清成龍一(ホンダ) 98点

3.  濱原颯道(ホンダ) 94点

4.  岩田悟(ホンダ) 84点

5.  亀井雄大(ホンダ) 81点

新設ST1000はベテラン、高橋裕紀が席巻

2020年の全日本ロードレース選手権の最大の変化は600ccのJ-GP2クラスに代わって、より市販車状態に近い仕様の1000ccスポーツバイクで戦うクラス「ST1000」が今季から新設されたことだ。

ワークスチームの参戦でコストが高騰するJSB1000クラスに対し、プライベートチームの戦いの場として始まったST1000は予想以上の盛況エントリーを集めている。

ポイントリーダーの高橋裕紀【写真:本田技研工業】
ポイントリーダーの高橋裕紀【写真:本田技研工業】

そんな中、記念すべきシーズン1を独走しているのが高橋裕紀(ホンダ)だ。日本郵便HondaDream TPに移籍し、新型マシンであるホンダCBR1000RR-Rで開幕から2連勝と好調。第3戦のツインリンクもてぎで高橋が3連勝し、チャンピオンを決めるかと思いきや、若手の名越哲平(ホンダ)が接戦を制して優勝。ランキング2位の名越との差は25点も開いているが、最終戦・MFJグランプリで得られる最大得点は28点のため、チャンピオン争いは持ち越しとなっている。

新カテゴリー初年度にホンダが新型CBRを投入したため、ホンダ勢が主体のレースになるのかと思いきや、藤田拓哉(ヤマハ)、星野知也(BMW)、渥美心(BMW)ら他メーカーのライダーも善戦。最終戦・MFJグランプリには第2戦オートポリスで好走した岩戸亮介(カワサキ)のスポット参戦も予定されており、最終戦・鈴鹿ではST1000の本当の勢力図が見えてきそうだ。

全車がダンロップの同じワンメイクタイヤを使用するST1000はタイヤマネージメントが重要な鍵。ベテランがその経験を活かしてリードを築くのか、それとも若手が勢いで攻めて来るのか、興味深い最終戦となる。

【ST1000ランキング】

1. 高橋裕紀(ホンダ)72点

2. 名越哲平(ホンダ) 47点

3. 藤田拓哉(ヤマハ) 41点

4. 作本輝介(ホンダ) 38点

5. 清末尚樹(カワサキ) 37点

ST600、J-GP3の見所は?

市販車ベースのマシンで争うクラス「ST600」は今季最も多くの出場台数を集めるクラスで30台以上のエントリーがある。最終戦・MFJグランプリでも36台がエントリーしており、最後まで激しいバトルが展開されそうだ。

チャンピオン争いは昨年に続き、岡本裕生(ヤマハ)、小山知良(ホンダ)、南本宗一郎(ヤマハ)らが上位につけ、ここに荒川晃大(ホンダ)、長尾健吾(ヤマハ)、阿部恵斗(ヤマハ)と6人が最終戦で王者獲得の可能性を残している。

最も参加台数が多いST600クラス【写真:MOBILITYLAND】
最も参加台数が多いST600クラス【写真:MOBILITYLAND】

岡本裕生が2勝、小山知良が1勝でこの2人が優勝争いの中心人物になりそうだが、鈴鹿を得意とする18歳の荒川晃大はMFJグランプリの忘れてはいけない伏兵だ。

また唯一レース専用マシンで争う「J-GP3」は今季もベテラン、若手入り乱れあっての戦い。21歳の村瀬健琉(ホンダ)と43歳の小室旭(KTM)がチャンピオン争いの中心だが、7人のライダーにチャンピオン獲得の可能性がある。さらに鈴鹿はレーシングスクール「SRS-Moto」出身のライダーが走り込んでおり、意外な伏兵がチャンピオン争いをかき乱すかもしれない。

ランキング首位の村瀬健琉【写真:MOBILITYLAND】
ランキング首位の村瀬健琉【写真:MOBILITYLAND】

今年初めて国内のトップライダーが鈴鹿に集って開催されるビッグレース「MFJグランプリ」は各クラスのチャンピオン争いを含め、バトルは例年以上に激しくなりそう。僅か4戦しかなかった今季の締めくくり、誰もがベストリザルトを狙って攻めてくるだろう。

【ST600 ランキング】

1. 岡本裕生(ヤマハ) 72点

2. 小山知良(ホンダ) 59点

3. 南本宗一郎(ヤマハ)58点

4. 荒川晃大(ホンダ) 55点

5. 長尾健吾(ヤマハ) 54点

6. 阿部恵斗(ヤマハ) 47点

【J-GP3 ランキング】

1. 村瀬健琉(ホンダ) 66点

2. 小室旭 (KTM) 64点

3. 成田彬人(ホンダ) 53点

4. 古里太陽(ホンダ) 45点

5. 高杉奈緒子(KTM) 44点

6. 鈴木大空翔(ホンダ)43点

7. 徳留真紀(ホンダ) 42点

モータースポーツ実況アナウンサー/ジャーナリスト

鈴鹿市出身。エキゾーストノートを聞いて育つ。鈴鹿サーキットを中心に実況、ピットリポートを担当するアナウンサー。「J SPORTS」「BS日テレ」などレース中継でも実況を務める。2018年は2輪と4輪両方の「ル・マン24時間レース」に携わった。また、取材を通じ、F1から底辺レース、2輪、カートに至るまで幅広く精通する。またライター、ジャーナリストとしてF1バルセロナテスト、イギリスGP、マレーシアGPなどF1、インディカー、F3マカオGPなど海外取材歴も多数。

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