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【学校の働き方改革のゆくえ】残業は月45時間、年間360時間までなんて、絶対ムリか?

妹尾昌俊教育研究家、一般社団法人ライフ&ワーク代表理事
残業時間の上限に関するガイドライン案(筆者撮影)

きょうはクリスマスイブと振替休日ということで、学校の先生たちも少しはゆっくりできているだろうか?(うちの小学生の子たちは、明日のプレゼントが楽しみでハイテンションだ。中学生の長男は午前中は部活だった・・・。)

残業月45時間、月30時間とかムリじゃねえ?

近く、文部科学省は、公立学校の教師にも時間外勤務の上限の目安を定めるガイドライン(指針)を策定する。原則、月45時間、年間360時間までとする予定だ(災害時やいじめ問題で切迫している場合など、緊急性の高いときは例外)。

ガイドライン案の本文の重要箇所(筆者撮影)
ガイドライン案の本文の重要箇所(筆者撮影)

この指針案については批判や疑問の声も多い。例えば、福井新聞は「教員残業『月45時間』現場から疑問の声 『実現は不可能』」という見出しで、こんな証言も紹介している。

多忙化解消に向けた行動計画の作成を独自に進めている福井市教委の小林真由美・学校教育課長は「国が決めている業務は子どもに直接の益がない研修や調査も多い。国が業務を減らさずに残業時間の上限だけを決められても実現は不可能」と話す。現場の教員からも同様の意見が上がっているとし、教員配置の充実も求めた。

出典:福井新聞2018年12月8日

また、尾木ママはこうコメントしている。

<教育評論家の尾木直樹さんの話> 

教員の長時間労働は深刻な状況にあり放置できない。(中略)教員配置を充実させるなどの支援によって、現場にゆとりを生むという視点をもっと強く打ち出すべきではないか。中教審では残業時間の上限に関する指針案が示され、業務の見直しによりどの程度労働時間が減るかという目安も出たが、子どもと向き合う教育現場にとっては机上の空論で、現実味がない。

出典:東京新聞2018年12月6日

こういうコメントが来るのは、よく理解できる。いまの小中学校では、月80時間以上という過労死ラインを超えている人が非常に多いのだから(ラフに推計して5~7割)。いまの残業を半減させても、月30時間(年間360時間を単純に月割すると30時間になる)に届かない。

※高校については、学校と教員による差も大きいようだが、過労死ラインを超えている人も相当割合いる。

どだいムリと考えるのは、思考停止ではないか?

このように、非常にハードルは高い。言い換えれば、学校の長時間労働は深刻だし、根が深い。

だが、だからと言って、

「文科省や中教審が言うことは現場を見ない机上の空論だ」

「これ以上、現場で大幅に減らせと言われてもムリだ」

「教員数の大幅な増加がないかぎり、指針にある状態になるわけがない」

とはなから決め付けるのも、どうなのだろうか。

わたしは学校の教員でもないし、いち応援者、アドバイザーに過ぎないが、全国各地で講演や取材をしており、教職員の友人・知人はとても多い(おそらく中教審の委員のなかでは、最もたくさん教職員と飲んでいるかも・・・)。子どもたちのためにとても熱心で、いい先生が多いのはよく知っている。

だが、とても気がかかりなのは、思考停止モードになっている人が多いのではないか、ということだ。

できない理由ばかり言うことに長けてしまい、できるようにする方法を探す思考力と実行力が、弱くなっているのではないか。

たとえば、次の資料は、中教審の素案で示した業務量削減の目安だ。ここでは小学校版を載せておく。

これが評判悪い(苦笑)。

国が示した業務削減時間の例(筆者撮影)
国が示した業務削減時間の例(筆者撮影)

確かに、これは机上の空論かもしれない。だが、こういう計算、見積もりをしたことのある学校、教育委員会はどれほどいるだろうか。

批判は大いに結構。だが、同時に考えてほしいのは、このくらい、ひとつひとつのことにそれなりの大きさ、時間的な重みがあるということだ。

例えば、児童の登校時間が教師の勤務時間よりも早いこと等もあって、早朝に既に1時間近い残業が発生しているという問題は、全国各地の小学校等にある。これは教職員や教委職員であれば、昔からみんな知っていたことだ。

年間に換算すると、上記資料のように、1人・約150時間もの時間外となるし、40人の教員数の学校であれば、年間6000時間!

仮に時給2千円としたら、1200万円なり!(本当は特別な法律で残業代は出ていないし、仮に残業代を出すならもっと高い単価となるだろうが。)

こうしたことをこれまでは、「だって仕方ないことでしょう」、「保護者や社会の理解が得られないうちは早く登校してきますよ」などと言って、放置してきた。国も教委も学校も、また、私たち保護者も。

机上の空論とか、この問題は解決できないと決め付けるのではなく、では、例えば、この登校時間が早いという問題をどうするか、関係者で、対話と議論を進めるべきだ。

あるいは、朝スタッフを雇うといった予算要求をしている教育委員会はいるだろうか。わたしは聞いたことがない。ちなみに、朝の見守りに教員免許は必要ない。保育園では朝保育や昼休み用のスタッフがいることもある。

もちろん、様々な努力や取組を進めても、なお、教職員数が少な過ぎて、解消しない問題も出てくるだろうとは思う。だが、教職員数の増加、充実と同時に、もっとこれまでの反省をして、減らせるものは減らしていくことが必須だ。

尾木ママのコメントにあるように、教師という仕事は、子どもと向き合うことだ。だが、だからこそ、子どものためにということで、仕事がどこまでも広がりやすい。このため、多少教員数が増えても、業務の精選や優先順位を決めていくということなしでは、また長時間労働の日々に戻ってしまうだろう。

実際、小規模校では、児童生徒数のわりには、教員数は恵まれているが、残業が多い人もかなりいる。

※小規模校でも、学校のやるべきことは他の規模と同範囲なので、例えば、授業の年間時数や作成が必要な書類などは同じ。これを、中大規模校よりも少ない教員数で分担するので、1人あたりは重い。だが、児童生徒数が少ないため、採点も事務量も少なく済むという影響も大いにある。

※データできちんと検証された話ではないので、留意が必要だが、実際よく聞くのは、小規模校で、採点・添削や児童の日記のコメント書き、掲示物等に時間をかける教師が夜遅くまで残業している。多少時間ができると、そういうほうにより丁寧にやろうとしてしまう。丁寧なのは悪いわけではないのだが、このスタイルと価値観のままでは、多少教員数が増えても(実際、こういう学校では教員数は相対的には多いわけだが)、長時間労働は解消しない。

これから冬休みを迎える学校も多いことだろう。いつもより多少時間があるときこそ、忙しい日常を振り返り、もっとできることはないか、探してみてほしい。中教審の答申案や文科省の資料は、それを考えるヒントやたたき台にできることがあれば、すればよい。

拙著にもいくつか紹介しているが、次回は、大幅な業務の見直しに取り組んでいる学校の事例も紹介したい。

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教育研究家、一般社団法人ライフ&ワーク代表理事

徳島県出身。野村総合研究所を経て2016年から独立し、全国各地で学校、教育委員会向けの研修・講演、コンサルティングなどを手がけている。5人の子育て中。学校業務改善アドバイザー(文科省等より委嘱)、中央教育審議会「学校における働き方改革特別部会」委員、スポーツ庁、文化庁の部活動ガイドライン作成検討会議委員、文科省・校務の情報化の在り方に関する専門家会議委員等を歴任。主な著書に『変わる学校、変わらない学校』、『教師崩壊』、『教師と学校の失敗学:なぜ変化に対応できないのか』、『こうすれば、学校は変わる!「忙しいのは当たり前」への挑戦』、『学校をおもしろくする思考法』等。コンタクト、お気軽にどうぞ。

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