組織の大気汚染を引き起こす「作話スモッグ」とは?
組織の大気汚染を引き起こす「作話」とは?
私は企業に入り込んで目標を絶対達成させるコンサルタントです。研修講師ではなく、実際にコンサルティングして結果を出します。その際、とても重要視するのが「場の設計」。どんなテクニックよりも、まず「場の空気」を良くすることから支援はスタートします。「場の空気」が悪いと、うまくいくはずのことでも、まったくうまくいかないからです。
(参考コラム:チームの成績に強く影響する「場の空気」とは?)
「場の空気」が微妙に悪くなってきたとリーダーが感じたら、できる限りはやく手を打ちましょう。細かいテクニックなど必要ありません。引き締めるだけでいいのです。普通に「キチンとやろう」「ダメと言ったらダメ」でいいのです。少しキツめに言っても、「場の空気」が中和してくれます。
ところが放置しておくと、後戻りできないぐらいに空気が悪くなっていきます。人間は、過去の言動を一貫して正当化したくなるという習性を持っています。これを「一貫性の法則」と呼びます。まず体が反応して意味を探す。現に起きてしまった行動や状態を、自分に納得のいく形でうまく理由づけて説明してしまう。これが意味の偽造……「作話(さくわ)」なのです。後付けで言い訳をすると表現すればわかりやすいでしょうか。
この「作話」が、空気を汚します。言い訳ばかりのチームには「作話スモッグ」が起きていると捉えましょう。
「社会的手抜き」によって発生する「作話スモッグ」の例
部下が約束した仕事をしていないケースを考えます。その件について問いただすと、「イベントの後処理で大変なので、私には時間がないのです」という回答が返ってきます。
「それならどうして言わない? だったら君に頼まなかったのに」
「ま、そうかもしれませんが……」
「先日の会議では何も意見を出さなかったじゃないか。昔ならもっと意見を言ってきただろう?」
人が増えることによって、自然と意見を出しづらくなるものです。部下に悪意はありませんし、意識が低下しているわけでもないのです。以前はできていたことなのに、人が増えただけで何となく手を抜いてしまう。これが「社会的手抜き」。自然現象です。人が多いだけで、本来のポテンシャルを発揮することができなくなります。
しかし、意見を出さなかった原因を本人は理解できていません。「以前よりも人が多いので、何となく手を抜いてしまったのです」などと感じていないものですから、
「私がああいう場で積極的に発言するのはどうかと最近、思っているのです。新しく入った人こそ、もっと意見を出すべきではないでしょうか」
などと言い返したりします。自分の過去は一貫して正当化したくなる「一貫性の法則」。まさに後付けの「作話」です。
「若い人こそ発言してほしい? それはそれとして、私と会議で約束したことをやっていない理由にはならないだろう」
「そうかもしれませんが、会議で意見をなぜ出さないんだと課長が言うものですから、その理由を言ったまでです。私は最近、本当にそう思ってるんです。積極性に欠ける若い人が増えてきたなって」
「なんだと……?」
作話がさらに作話を呼び、「場の空気」を悪くしていきます。これが「作話スモッグ」です。
「外来価値観」によって発生する「作話スモッグ」の例
とても残業が多い部下がいたとします。仕事量は以前より多くなっていないのでリーダーは気になって声をかけます。
「最近、残業が多くなっていないか? 去年よりも平均30時間も多くなっている」
「毎月30時間ですか? 気付きませんでした」
「気付かなかった? この半年間でドンドン増えてるぞ」
「場の空気」によって変化したことは、多くの人が気付かないものです。ですからこのように「数字」で表現することが重要です。
しかし、部下は自分が無駄な残業をしていることなど認めません。認めたくない、のではなく、実際に必要な残業をしていると思い込んでいます。
「いろいろやることが増えているので、残業が多くなっても仕方がないと思います
「やることが増えている? 先日、業務の棚卸しをしたが、去年より増えてはいないだろう」
「今年は勉強会の講師とかプロジェクト委員会に出席したりとか、任されている仕事が増えているんです。それに残業が増えているのは私だけじゃありませんよ」
部下は残業時間アップの言い訳をその場で考えて「作話」しています。ですから「場の空気」も悪くなっていきます。調査によると、この部下の場合、新しく任された仕事は確かに増えているのですが、去年まで任されていた仕事で減っているものもあるため、労働時間が増えている論拠とはなりません。単純に、ひとつひとつの作業時間が何となく長くなっていたり、必要のない打合せや会議、資料作り、そして使途不明時間が増えていることが原因です。
この理由を突き止めたところ、半年前に他支店からやってきた主任の影響がとても強いことがわかりました。この主任は「長時間労働が当たり前」という価値観を持っているため、長い時間働いている人を見ると「頑張ってるね」と言ったり、早く帰宅する人を見ると「暇なのか?」という発言を繰り返します。これが「外来価値観」です。外から入ってきた新種の価値観という意味です。
新しい主任の影響で、この部下のみならず、他の同僚たちも一様に労働時間が何となく長くなりました。まさに「場の空気」が変化したことによる影響です。課長は敏感に察知して対処しなければならないのですが、放っておいたために「空気」が変わってしまっています。元の規律に戻そうとしても「だって」「でも」「そもそも」……などの言葉を使って「作話」してきます。すでに「作話スモッグ」で空気が曇っているからです。
「作話スモッグ」の対策
「作話スモッグ」で組織を汚染しないようにするには、
・早めの対処(引き締め)
・早めに対処できなかった場合は、客観的データによる事実(ファクト)の調査
が必要です。特に客観的な事実は数字である必要があります。いずれにしても、はやめに空気の変化を察知して対処するのが一番ですね。