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いうたら、愛犬殺されてキレた男が、単身“山口組”に殴り込み、的な。

渥美志保映画ライター
問題の子犬――まあ、すごく可愛いっちゃ可愛いんですけども

10月の頭にご紹介した「この秋見るべき映画10本」の【イケメン編】の中から、今回は『ジョン・ウィック』をご紹介します。“『マトリックス』のキアヌ・リーヴス大復活!”とアクションの評判が高い作品ですが、ある意味「んなアホな!」というむちゃくちゃな殺し屋を演じてなお「可哀想…」と思えるのは、キアヌならではの“ボッチの哀愁”があってこそ!そこらへんを合わせて、ご紹介したいと思います。

まずは物語。病で最愛の妻を失ったジョン・ウィック、その心の支えは、妻が自分の死後の慰めに用意した仔犬の存在と、愛車69年式マスタングを走らせることだけ。ところがそのクルマに目をつけたロシアン・マフィアの二代目バカ息子ヨセフが、ある晩ジョンの家に押し入りクルマを奪って、仔犬をなぶり殺しにしていくんですねー。ここからが面白い。ジョンのクルマを持ち込んだ馴染みの修理工場のオヤジが、まず「お前、何したかわかってんのか」とヨセフをどやしつけます。父親であるボスのタラソフも、ジョンの名前を聞いた途端に「よりによって…」と真っ青に。実はジョン、かつてその名を聞けは誰もが震え上がる、この組織おかかえの伝説の殺し屋だったのです。そしてブチ切れたジョンの復讐劇が始まるのですー。

やったるぜ…的なキレてるキアヌ
やったるぜ…的なキレてるキアヌ

作品の最大の魅力は、やっぱり壮絶なリアル・アクションです、これ間違いなし。

青白い現実離れした美形キャラだった『マトリックス』では、例えば「ネオvs100人のエージェント・スミス」的なアクションシーンは、ネオがばーんって身体を広げると、群がった100人のエージェント・スミスがふっ飛ぶ!みたいな、マンガっぽいものでしたが、『ジョン・ウィック』のアクションはその対極です。重心の低さとか腰の安定感とか猫背感とか、グレイシー柔術とかコマンドサンボとかヒョードル(軍人)とかミルコ(警官)とか、多くの方意味不明だと思いますけど、リアル戦闘術の匂いがいたします!パンチ重っ!絞め技苦しい!関節技とかマジで骨折れるから!みたいな。

こんな感じ。迫力です~。
こんな感じ。迫力です~。

さらにジョンがすごいのは、襲ってきた人間をきっちり全員殺してる(殺してませんけど(^^;))ことです。格闘技好きな私は、ヒーローにふっ飛ばされた人が画面の片隅で唸ってるみたいな場面を見ると、「ふふん、しょせん映画よね…」とお門違いにシニカルになっちゃうんですが、ジョンは目の前のヤツを片付けたら、ふっ飛んだだけのヤツのとこに戻って必ずととどめを刺すんです。それも全員にきっちり2発撃ち込むという確実な仕事ぶり。「倒したってことで」みたいな映画的ユルさは一切ナシ。ジョンの本性を知らなかった観客は、追い詰められていくヨセフよろしく、「こいつに狙われたら一巻の終わり」という殺し屋ジョン・ウィックの情け容赦のなさを刷り込まれていくわけですねー。

殺し屋はダブルタップが基本ですから。
殺し屋はダブルタップが基本ですから。

そんな恐ろしさを見せられながらも、観客はジョンが嫌いになれません。それはやっぱりキアヌだからなんですねー。キアヌと言えば数年前に公園のベンチでハトと戯れる哀愁漂う姿が話題になりましたが、ジョン・ウィックはそんな私生活のキアヌのボッチぶりそのままのキャラクターなんです。

だってそもそも、復讐の理由が「まさかの犬」って、そんなんいくら映画でも聞いたことありません。もちろんわかりますよ、愛犬を殺されるなんて飼い主にとってこんなにひどいことありません。でもたとえ自分がその筋に通じている人間でも、犯人が山口組組長の息子だったら、邪魔するヤツも皆殺し!的な復讐します?しませんねー。なんぼなんでもそれ相当にヤバい男です。

だけどもキアヌから大量に出る哀愁汁の効果で、なんなら最愛の奥さんが殺されたくらいの感覚になってきちゃうんですよ。わかるよキアヌ、奥さんはボッチだった君に殺し屋廃業を決意させた唯一最愛の人だったんだよね。それを奪われてしまったんだよね―――と、キアヌなんだかジョンなんだか、犬なんだか奥さんなんだかようわからんけど、とにかく私は君の悲しみの味方だ!みたいな気分になっちゃうんですねー。これはもうキアヌ・マジックとしかいいようがありません。

ハトと戯れるキアヌ……じゃなくて犬と戯れるジョン。
ハトと戯れるキアヌ……じゃなくて犬と戯れるジョン。

こうして書くと、アクションだけで話はつまらんのか……って誤解する人いそうですけど、私は面白いと思った映画しかおすすめしません!(きっぱり)どこかアメコミっぽい世界観とキャラクターはきっちり作りこまれているし、ウィレム・デフォーやジョン・レグイザモなど脇を固める渋い俳優たちの存在もすごく立っています。

映画が面白いのはこのバカ親子がいてこそ
映画が面白いのはこのバカ親子がいてこそ

『ハンニバル』のマッツ・ミケルセンを始め、アメリカのショービズ界は北欧俳優ブームですが、マフィアのボス、タラソフを演じたミカエル・ニクヴィスト(北欧版『ミレニアム』三部作の主役)なんか、冷酷なんだけどツメの甘いダメ親父で、それを自嘲するような物言いが最後まですごーくいい。シリーズ化が決定してますが、こうしたキャラたちの過去を描く「エピソード・ゼロ」とか作ってほしいわあ。

まあそんな感じで始まっちゃった、ジョン・ウィックVSロシアン・マフィアの壮絶バトルを、深いこと考えずお楽しみくださいませ。カップルで見るのもいいかもしれません。女子は「キアヌすてき~」、男子は「アクションすげえ!」と、揃って復活キアヌに惚れ直すこと間違いありません~。

『ジョン・ウィック』

10月16日より公開

Motion Picture Artwork (C)2015 Summit Entertainment, LLC. All Rights Reserved. (C) David Lee

映画ライター

TVドラマ脚本家を経てライターへ。映画、ドラマ、書籍を中心にカルチャー、社会全般のインタビュー、ライティング、コラムなどを手がける。mi-molle、ELLE Japon、Ginger、コスモポリタン日本版、現代ビジネス、デイリー新潮、女性の広場など、紙媒体、web媒体に幅広く執筆。特に韓国の映画、ドラマに多く取材し、釜山国際映画祭には20年以上足を運ぶ。韓国ドラマのポッドキャスト『ハマる韓ドラ』、著書に『大人もハマる韓国ドラマ 推しの50本』。お仕事の依頼は、フェイスブックまでご連絡下さい。

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