サン・セバスティアン映画祭レポート6日目(28日)。テロ集団ETAを笑い飛ばして大団円で幕
公式コンペティション入りしている唯一の日本作品(日仏共同作)『ライオンは今夜死ぬ』を取材最終日になって見ることができた。
会場は満員。メディアの特権で上映時間ギリギリに駆け込んでも何とか席を見つけることができた。会場にはジョン・マルコビッチとスペインの大女優エンマ・スアレス(代表作にフリオ・メデム監督の『赤いリス』、ペドロ・アルモドバル監督の『ジュリエッタ』。いずれもおすすめ)の姿があった。
エンマ・スアレスはノーメイクで、「その席空いてますか?」と聞いた相手が彼女だとは最初気が付かなかった。モニカ・ベルッチの美しさは際立っていたけど、スペインには美女がたくさんいるし映画祭にもおそらく女優の卵が一杯来ている中で、エンマは普通の女性に見えた。スクリーンで見ると本当に美しいのだが。
取材も今日が最終日。結局6日で24本しか見られず(公式コンペティション入り作品は全19本中9本)、最優秀作品賞(黄金の貝賞)をどれが獲る、と言えないのが残念。
『ライオンは今夜死ぬ』の曖昧な着地点
通算20本目『ライオンは今夜死ぬ』(上映おすすめ度4)
英語のタイトルは有名な歌『THE LION SLEEPS TONIGHT』で、映画でもその曲が使われているが、「眠る」ではなく「死ぬ」にしたのは作品のテーマに合せたからか。死とは老いとは、そして昨日見た『マザー!』とも共通する芸術家の業とは。業の部分はあまり描かれていないが、恋人ジュリエッタとの関係で明らかになっていく。一方に子供たちとのほのぼのとした関係があって、その2つの関係が素直に主人公に感情移入できない曖昧な後味を残した。ちょっと子供たちの“お遊び”のレベルが高過ぎるかも。
21本目『A FISH OUT OF WATER』(上映おすすめ度4)
壊れた家族を子供の視点で描く作品を見たのは何本目か。そんなに壊れているのか、と心配になるが、これだけ映画のテーマになるということは実際そうなのだろう。謎の言動をする子供を追う面白さがあって一気に最後まで見られる。とはいえスッキリとは解決せず、解釈に任せる形になっている。
ついにETAを笑える時代が
22本目『LOVELESS』(上映おすすめ度5)
またもや壊れた家族の犠牲になる子供。そもそも好きで生まれてきたわけではない(親は選べない)のに、その親が好きで子供を持ったわけではないとなると、子供には恐ろしい孤独しか残っていない。唯一の居場所である家庭、唯一の存在理由である家族というものが存在しないのだから。元夫婦は一緒にある共同作業をするのだが、それがまったく2人のよりを戻す役には立たない。心と同じくらい荒んでいるロシアの冬の風景が印象的。
23本目『LA PESTE』(上映おすすめ度0)
スペイン国営放送制作の連続ドラマを100分程度にまとめた“長い予告編”と呼ぶべきもの。予告編ゆえに結論もないまま突然終わる。こんなものをあたかも一般映画のごとく、コンペティション外ではあるが公式セレクション枠で見せていいのだろうか。ペスト感染の悲惨さ、性的な不健全さ、カルト集団……。評価できるのは、国営放送でありながら裸や死体をはっきり見せる勇気のみ。
24本目『FE DE ETARRAS』(上映おすすめ度1)
この作品で映画祭を締めくくることができたのは、大いに意義がある。ついにETA(バスク祖国と自由)をコメディにできる時代、それもバスク地方のど真ん中サン・セバスティアンで、バスク人の観客を相手にETAを笑い飛ばせる時代、つまり平和がやって来たのだ。一方、10月1日にはバルセロナのあるカタルーニャ地方で独立をめぐって住民投票が行われる予定。今カタルーニャの独立運動をパロディにはできないだろう。15年ほど前には2つの地方の状況は正反対だったのだが……。ETAのことを知っていれば大笑いできる。この映画祭で一番笑えた作品。何を茶化しているのかわからないだろう日本での上映は難しいだろうが、それでもこんな作品があって良かった。