「給料2倍なら…」ベテラン看護師が語る本音・コロナ禍の厳しい労働環境
新型コロナウイルスの感染が拡大する中、医療・福祉の現場で看護職は必死のケアにあたっている。ジャニーズ事務所はこのたび、公益社団法人日本看護協会(福井トシ子会長、会員76万人) に、社会貢献活動「Johnny’s Smile Up ! Project」の一 環として5億円の寄付をした。寄付金で基金を設立し、「コロナ対応にも活躍する認定看護師の育成」「看護師等学校養成所への支援」にあてる。こうした寄付の使い方や、22日に発表されたコロナ禍の働き方アンケートの結果について、ベテラン看護師に本音を聞いた。
今回、看護協会のアンケート調査の結果に関連して取材したのは、40代の看護師・Aさん。キャリアは20年以上で、救命センターやICU(集中治療室)など厳しい現場で経験を積み、子育てしながら最前線で働いてきた。
〇子育て中はリスク増…迷いが
コロナ禍で看護の人手不足が言われています。子育て中の看護師が短時間で働くなど、人材を活用できないのでしょうか。
「看護師は、ステップアップや家庭の都合などで、もともと転職や一時的な退職が多いと思います。よほど職場を気に入れば、長く勤めることもあるでしょうが、固執しなくても、資格や経験を生かせば、就職先はあるからです」
「子育て中の場合、子供の病気などで急に休むと、周りに迷惑をかけるので、小さい病院だと難しいかもしれません。それに、医療技術は毎日、変わっていくものなので、産休・育休を取っている間に、知識・技術が使えなくなってしまう分野もあります。子供が大きくなっても、再就職の一歩を踏み出すのは大変な勇気がいります」
「自粛期間に子供中心の生活をしてみて、そういう生活もいいと思った看護師もいます。どんな職種もそうですが、子育てと仕事を両立したいと志を持っていても、現場に入ると難しいのが現実。母親が、子供の命を預かっているケースが多いですから。コロナ禍で家族への感染リスクも高くなっているので、なおさら仕事を続けることに迷いが出るでしょう」
コロナ禍で出勤できない理由に、休校や休園もあげられました。
「看護師は使命感を持って働いていますが、コロナという未知のウイルスのリスクを考えると、必死に預け先を探してまで、働きたいと思えないのも本音ではないでしょうか。小学低学年の子や、未就学児を留守番させるのは危ないです。ありがたく休ませてもらった看護職もいるのでは。私自身、現在は育児休暇中で、もし職場復帰して働いていたら、休校・休園中の2か月は仕事を休まざるを得なかったと思います」
〇「若いやる気のある看護師」に頼る
プライバシーの関係で、詳細はお聞きできませんが、お勤めの病院はどのような態勢なのですか。
「コロナの患者さんも受け入れています。コロナ対応の病棟を空けておいて、そこに集約しています。ICUの看護師が本人の希望で派遣され、その病棟の患者さんにつき、数か月交代で勤務します。夜勤もあります。子育て中だと難しいので、若い人がメインです。コロナ対応をしない時は、他の人手が足りない病棟で補助的な仕事をします」
「ICUや救急外来に運ばれた患者さんが、感染している可能性もあり、防護服を着て対応します。大変ですが、やらざるを得ません。コロナ対応は誰でもできるわけではなくて、人材を増やしたい、応援派遣をするといっても、受け入れ側も難しいでしょう。ICUも新人はとらないですね。コロナの高度な治療のエクモに対応できるかだけでなく、人工呼吸器が見られるかも大事ですし…」
「私は、救急やICUの知識・技術があり、大きい病院ということもあって、子育て中の時短勤務で働くことができています。自分の生活に合わせて働けるので、就職を決めた職場です。これから保育園を見つけて復職する予定ですが、場合によっては、ICUの勤務を抜けて、リスクの減る病棟に移るとか、転職してパートや老健施設で働くとか、コロナが落ち着いてから復職するとか、他の道も考えています」
〇リスクの高さに見合う給料と地位を
どのような支援があれば、人手を確保できると思いますか。
「これという解決策を見つけるのは難しく、看護職から不満の声が上がるのはうなずけます。やはり、お金だと思います。個人の使命感だけでは、働こうとは思えないでしょう。リスクとリターンを両天秤にかけて、感染してしまうかもしれない、でもこれぐらい給料がもらえるなら働こう、と考える。お金を出して、頑張れる人を探す、ということだと思います。お金をもらっても、健康被害が出るなら怖くて…という人もいますが」
「私自身、ICUに勤めて、危険手当がついても、月々にしてみればわずかな金額です。余裕のある病院は個別に手当を出しているそうですが、潤っている病院なんてそんなにないのでは。コロナ対応の支援金が病院に出たとして、手続きも煩雑ですし、スタッフにはなかなか回ってきません」
納得いく手当の目安は、どのぐらいだと思いますか。
「給料が今の2倍になれば、コロナ対応の仕事を受ける人が増えるのではないでしょうか。2倍って、あり得ない金額ではないと思います。看護師の基本的な給料は、他職種の総合職などと比較して、多いわけではない。そもそも、大変な思いをしてリスクの高い仕事をしています」
「私は妊娠中に、水ぼうそうの患者さんと接したことがありました。後で知って、対処する薬の期限とか、副作用もわからないし、抗体の検査にも時間がかかるし、焦りました。注射針で肝炎が…といった問題も含め、感染対策に関しては、以前から厳しく対応してきています。ただ、新型コロナは未知のウイルスなので、家族のリスクを考えてしまうし、今まであった様々な課題が、コロナ禍で顕在化したのだと思います」
「以前から、看護師は医師と同じ位置に見てもらえません。コロナ禍で不可欠な職業ってことがわかっても、社会的な地位は、すぐには上がらないと思うんです。それでも、3歳の娘は、看護師になりたいっていうんですよ。人を助けたいからって…。地位も向上していってほしいです」
〇認定看護師は必要だが配置を工夫
コロナ禍で、看護師への差別や偏見はありましたか。
「幸い、私の周囲では、看護師への差別は聞いたことはありません。知人が看護師で、クラスターが発生している病院に勤めています。自分の勤める病棟で発生したら、幼稚園のお友達との遊びなどは遠慮すると言っています。周りの理解が得られるかは、地域差もあるでしょうね。看護師自身がきちんと、こうなったらこうする、と決めて線引きをしていれば、トラブルも起きないと思います」
ジャニーズの寄付で育成を支援する、認定看護師についてはどう考えますか?
「もちろん、専門性の高い看護師は必要だと思います。私の勤める病院には、感染症の対策チームがあり、困ったら相談できる認定看護師がいます。ただ、勉強して資格を取って、それを維持するためのタスクもあり、とても大変です。家庭を持つ看護師には難しいでしょう」
「また、病院に多数、同じ専門の認定看護師がいると、考え方の違いなどで、衝突するという話も聞きます。たくさんいればいいというものでもなく、不在の病院もあるので、偏りをなくすことも大事だと思います」