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「金正恩ソウル訪問」に韓国は歓迎!北朝鮮は反対!の不思議な現象

辺真一ジャーナリスト・コリア・レポート編集長
訪朝した文大統領を街頭で熱烈歓迎する平壌市民(写真:代表撮影/ロイター/アフロ)

 文在寅大統領の平壌訪問による今年3度目の南北首脳会談(9月18-20日)が終わった。

 韓国側は今回の会談での成果は金正恩委員長が早い時期のソウル訪問を約束したことだとしている。文大統領の平壌訪問随行を拒否し、一回目の「板門店宣言」同様に今回の「平壌宣言」にも批判的な立場の野党第一党の自由韓国党も「金正恩ソウル訪問」の確約を取ったことだけは評価していた。

 首脳会談、首脳外交は相互主義、クロス訪問が原則だ。相手の首脳を招請すれば、今度は答礼訪問するのが基本だ。しかし、南北に限っては一方通行だった。

 韓国からは2000年に金大中大統領が訪朝し、史上初の首脳会談を行った際、北朝鮮のパートナーである金正日総書記は「適切な時期に(韓国を)訪問する」と約束したものの金大中政権下(~2002年2月)で実現しなかった。盧武鉉大統領が2007年に平壌を訪れたことで二度目の南北首脳会談が実現したものの結局のところ金正日総書記は死去する2011年12月まで韓国を一度も訪問することはなかった。

 本来ならば、文在寅大統領が先に平壌を訪れるのではなく、金正日総書記の後継者である金正恩委員長がソウルを訪問し、首脳会談を行うのが礼儀なのだが、11年ぶりに開かれた今年4月の板門店での首脳会談が、軍事境界線上にある板門店の韓国側エリアで実現したことで「次は韓国の番」として文大統領は北朝鮮側の招請を受け、「今秋の訪朝」を約束したようだ。しかし、6月に今年2回目の首脳会談が今度は文大統領が軍境界線を越え、板門店の北朝鮮側内で行っているのでやはり順番からすれば、今年3度目の首脳会談は金委員長がソウルを訪問して行われるのが筋であった。

 順序は逆になったが、それでも金正恩委員長はソウル訪問を約束したことで、早ければ今年4回目となる首脳会談はソウルで開催されることになる。

 それにしても不思議なことがある。「金正恩訪韓」を韓国側が歓迎しているのに北朝鮮が反対していることだ。文大統領の随行者の一人である文正仁大統領統一外交安保特別補佐官は金委員長のソウル訪問について「金正恩委員長の周囲は誰もがソウル訪問に反対していた。しかし、誰も(金委員長を)引き止めることができなかった」とソウル訪問は「金委員長の独自の決定である」とブリーフィングしていた。

 金委員長の周囲が反対する理由は明かにされてないが、考えられる理由としてはやはり警護の問題が一番のネックなのだろう。身の安全が脅かされる恐れがあることに尽きるようだ。

 金大中大統領も盧武鉉大統領もそして今回の文在寅大統領も街頭パレードが行われ、十数万人の平壌市民に熱烈歓迎されていたが、ソウルでは歓迎一色とはいかないだろう。

 韓国は反共国家である。共産主義、社会主義の標榜は法律で禁じられている。韓国内には「滅共統一」「勝共統一」を叫ぶ反共主義者や反北主義者らはごまんといる。朝鮮戦争の犠牲者や退役軍人、その遺族の中には「復讐心」を抱いている者も相当数いる。北朝鮮に風船ビラを飛ばしている団体にみられるように「打倒金正恩体制」を叫ぶ北朝鮮から逃げてきた脱北者らは3万人以上もいる。その中には元軍人や工作員らもいる。警護上の問題から周囲が反対する理由はわからないわけではない。しかし、北朝鮮の最高指導者が訪韓できない、訪韓しない理由はそれだけではないようだ。

 金正恩委員長の父親の金正日総書記は金大中大統領との首脳会談で「適切な時期」の訪韓を約束したが、実はこの時も韓国側は確約を取るのに随分苦労していた。というのも、金大中大統領が「この次は貴方がソウルを訪問すべきだ」と訪韓を招請したところ、金正日総書記は「私は行けない」と拒んだからだ。

 金大統領が「なぜ(韓国に)来ることができないのか?」と問いただすと「私は現在の職責(国防委員長)のままでは行けない。私が今の職責のままで行けば、我が人民はよく思わない」と、金総書記は韓国側の受け入れ態勢を問題にしたのではなく、国内上の問題を理由に挙げていた。

 金大統領が「貴方が来るべきではないか。今、貴方と私が和解と協力について互いに合意したばかりなのに、貴方が来なければ、誰も和解と協力の政策を信じないだろう。だから、貴方が来るべきだ」と再三説得したもののそれでも金総書記は「私はダメだ。個人の資格ならば、(韓国に)行って、漢拏山にも登ってみたい。金大統領も個人の資格で来るならば、白頭山で4泊5日ぐらい私と一緒に過ごすことができる。しかし、職責を持ったままでは行くのは大変難しい」と首を縦に振らなかった。

 何度促しても突っぱねるので金大統領は最後に「貴方は何度も我が国が東方礼儀之国であることを言っていたが、私は貴方よりも年寄りではないか。年上の者が訪ねてきたのにどうして答礼訪問が出来ないのか?それでは礼儀に反するのでは?」と諭したところ、この言葉に金総書記は「わかりました」とやっと納得し、共同宣言に「適切な時期にソウルを訪問する」との一筆を取り付けることができた。しかし、結局、金総書記は18年間の任期中に一度も訪韓することはなかった。

 韓国詣では▲韓国を国家として正式に認めることになりかねない▲二つの国家の存在を認めれば「全朝鮮人民を代表する国家」としての正統性が問われかねない▲最高指導者としての権威失墜に繋がりかねないなどを憂慮していたのかもしれない。

 父親と異なり金委員長は早ければ「年内にも訪韓する」(文大統領)ようだが、訪韓が実現すれば、南北関係改善に向けた金委員長の決断が本物であることが証明されるだろう。韓国が訪韓を歓迎する理由はこの一点にある。

ジャーナリスト・コリア・レポート編集長

東京生まれ。明治学院大学英文科卒、新聞記者を経て1982年朝鮮問題専門誌「コリア・レポート」創刊。86年 評論家活動。98年ラジオ「アジアニュース」キャスター。03年 沖縄大学客員教授、海上保安庁政策アドバイザー(~15年3月)を歴任。外国人特派員協会、日本ペンクラブ会員。「もしも南北統一したら」(最新著)をはじめ「表裏の朝鮮半島」「韓国人と上手につきあう法」「韓国経済ハンドブック」「北朝鮮100の新常識」「金正恩の北朝鮮と日本」「世界が一目置く日本人」「大統領を殺す国 韓国」「在日の涙」「北朝鮮と日本人」(アントニオ猪木との共著)「真赤な韓国」(武藤正敏元駐韓日本大使との共著)など著書25冊

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