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使い物にならなかった動力ソリ、スコット隊の軌跡

華盛頓Webライター
credit:unsplash

20世紀初頭、多くの探検家が極地への到達を目指していました。

その中でスコット隊は南極点到達を目指していたのです。

この記事では南極点を目指したスコット隊が大氷河を超えるまでの軌跡について紹介していきます。

使い物にならなかった動力ソリ

最初に南極点へと出発したのはアムンセンでした。

彼は隊員9名から料理長を除いた8名、そり6台にエスキモー犬90匹を率いて、零下50度という極寒の中、進軍を始めたのです。

しかし、あまりの寒さに犬たちが動けなくなり、アムンセンはやむなく一度引き返すことにします

この失敗の中で彼は一つの真理を悟りました。

「8人は多すぎる」と。

準備から行軍まで、人数が多いほど手間がかかり、極地ではそれが命取りとなるのです。

こうして彼は冷酷に3人の隊員を除き、極点を目指すチームを5人に絞り込み、犬も52匹に減らして10月19日に再出発しました

一方、英国のスコット隊は苦戦していました。

英国軍が誇る最新兵器「動力ソリ」を投入し、これで隊の物資を運ぶ算段だったものの、乾燥した南極の空気にエンジンが耐えられず、まさかの故障続きとなったのです

修理に追われる間に、アムンセン隊は遥か先を進んでいました

やむなく動力ソリを放棄し、隊員たちは人力で350キロ分のマグサを曳きながら進む羽目になったのです。

10月31日、先遣隊が出発し、ついに11月1日、本隊も南極の未知なる地へと進軍を開始したものの、スコットの目にはアムンセンの影がちらつくばかりでした。

11月17日、アムンセン隊はようやく氷床を抜け、いよいよ大陸本土への上陸を果たします。

これまでの600キロは氷の上を進んでいたものの、ここからは氷河の険しい山道を越えなければなりません。

標高3200メートル、無数の裂け目が走るこの氷河をいかに越えるかが、両隊の命運を決めるとアムンセンは直感していたのです

隊員5人と42匹の犬たちは極限の意志をもってこの難所に挑むものの、彼らの逞しい犬たちもその険しさには度肝を抜かれたことでしょう。

しかし、極寒と苦難の中で彼らは走り続け、ついに氷河を4日で登り切るという異例のスピードを見せました。

しかし、ここでアムンセンはさらに冷酷な決断を下します。

目的を果たすためには余計な「荷物」を減らさねばなりません。

すでに「肉屋」と名付けられた南緯86度36分地点に到達したアムンセンは、42匹のうち24匹の犬を射殺し、その肉を隊員と残る犬たちの糧とすることに決めたのです。

極点到達と全員の生還を目指すためには、こうした無慈悲なまでの合理性が必要とされたのです。

犬たちは見事なまでの献身を見せたものの、彼らにとってこの冒険はあまりに理不尽なものであったのかは語るまでもないでしょう。

こうして、アムンセン隊は残る18匹の犬たちを率い、氷河を越えた後の平坦な高原を南へとひた走りました。

凍える風と輝く雪原が、彼らの眼前に無限に広がっています。

参考文献

アプスレイ・チェリー=ガラード著・加納一郎訳(1993)「世界最悪の旅 悲運のスコット南極探検隊」朝日文庫

Webライター

歴史能力検定2級の華盛頓です。以前の大学では経済史と経済学史を学んでおり、現在は別の大学で考古学と西洋史を学んでいます。面白くてわかりやすい記事を執筆していきます。

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