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部活動の大会 平日開催の是非を問う 「授業よりも部活動優先」の危うさ

内田良名古屋大学大学院教育発達科学研究科・教授
イメージ(photoAC)

■「大会」のあり方を問う

5月から7月にかけて、中学校や高校では、各地の中学校体育連盟や高等学校体育連盟・高等学校野球連盟の主催による運動部活動の「大会」が開かれている。生徒たちは、大会のために練習を重ね、その成果を競い合う。

他方でこの大会のあり方については、部活動顧問からさまざまな不満の声が、私のもとに届いている。そのなかでも衝撃的なのが、平日に授業よりも部活動の大会が優先されているという事実である。これは学校教育の制度面において、きわめて危うい事態と言える。

私は、部活動改革の要として、大会のあり方を根本的な次元で考え直す必要があると考えている。しかしながら、ここ数年で盛り上がってきた部活動改革において、大会のあり方に関する議論はまったく欠落している。

この記事ではその第一歩として、学校教育制度上、私がきわめて危うい事態と考える「大会の平日開催」について問題を提起したい。

■「生徒が授業に参加できない」 教員の訴え

今月上旬、現職の先生から、次のような意見が私のもとに寄せられた。

私の地域の中学校ではまもなく、週末から次の週までずっと、部活動の大会が開催されます。予選会でたくさんの生徒が参加するので、とくに週のはじめは授業が成り立たず、自習です。そして試合で勝ち上がる生徒は、ずっと授業に参加できません。部活動が授業よりも優先されていることに、納得がいきません。

(※文意を損ねないかたちで、地域や個人を特定する情報を削除し、内容を再構成した。)

この訴えには、率直に驚いた。

授業期間中における大会の平日開催は、後段で詳述するように、「部活動が授業よりも優先されている」という点で、重大な問題をはらんでいる。私はあわてて、異なる自治体の先生たちにたずねてみたところ、上記の例と同様に平日に大会を開催している地域が、次々と見つかった。

逆に、授業期間中の大会開催は土日のみと回答してくれた自治体の先生たちは、上記の事実はかなり衝撃をもって受け止めたようだった。「ありえない」「明らかにおかしい」と絶句していた先生もいた。

■大会日程が公式に平日に設定されている

高校の運動部活動における県大会の日程例(複数の自治体の日程表をもとにした架空の例)
高校の運動部活動における県大会の日程例(複数の自治体の日程表をもとにした架空の例)

各地の中学校体育連盟や高等学校体育連盟・高等学校野球連盟のウェブサイトを参照してみると、たしかにこの時期の大会開催を、平日に設定している地域がたくさんある。

たとえば大会日程は、上図のようなかたちで連盟ウェブサイトに公表されている。土日のみの開催で済んでいる競技種目もある一方で、土日+平日、あるいは平日のみに開催している競技種目もある。

なお、中学校と高校で平日開催の傾向に差があるかどうかまでは現時点ではわからない。一つ言えることは、中学校と高校いずれにおいても、平日に開催されているケースが多く確認できるということである。

■平日開催の重大な問題点

授業と部活動との関係。授業こそが学校教育の核である。
授業と部活動との関係。授業こそが学校教育の核である。

大会の平日開催を検討するにあたって押さえておかなければならないのは、中学校と高校の学習指導要領において部活動は「生徒の自主的、自発的な参加により行われる」と定められていることだ。

部活動は学校生活のなかで「あって当たり前」のものになっているが、制度上の位置づけは脆弱である。各学校は、学習指導要領にしたがって具体的な教育内容、すなわち「教育課程」を計画する。国語や数学などの授業は「教育課程」に含まれるが、部活動は自主的な活動であるために「教育課程」の外にある活動となる。

おおざっぱに表現するならば、授業は当然生徒が受けるべき内容として設計されている一方で、部活動は生徒が好き勝手にやるものとして設計されている。授業こそが学校教育の中心であり、部活動はその外側にある。

そうだとするならば、平日の授業を押しのけて部活動の大会が設定されることは、きわめて危うい。部活動のほうが授業よりも優先されているからだ。

■大会参加の生徒、学校にいる生徒の両者に不利益

大会が平日に開催されることで、大会に参加する生徒(公欠扱い)は授業を受ける機会を強制的に奪われる。しかも、大会から戻ってきたところで、授業の遅れを取り戻してくれる仕組みが整えられているわけでもない。

学校内にいる生徒は、教員が大会引率で不在の場合には自習となる。また、教員が学校内にいたとしても、大会参加の生徒数が多い場合には、授業を進めることがためらわれるため自習となる。いずれも中途半端な授業時間となる。

「年間の授業時間数を満たしていれば、授業時間が部活動でつぶれることに問題はない」という主張はありうるかもしれない。だがそもそもの問題として、部活動の大会が授業時間を押しのけていること自体が重大な問題である。学校教育というのは、いったい何のためにあったのか。

■意外にも支持されている平日開催 「ブラック部活動」の闇

イメージ(photoAC)
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重大な危うさを抱えながらも、大会が平日に設定されている理由は、地域によってさまざまであると考えられる。ここでは、2つの理由を指摘しておこう。

第一が、会場確保の難しさである。大会は一日だけでは終わらない。しかも限られた時期に一斉に大会が開かれる。当該地域の数少ない会場で、土日だけで全試合をやりくりするのは難しい場合がある。

第二が、教員や生徒の負担軽減である。これは部活動に直接かかわる重大な問題である。土日に大会を開催していては、教員も生徒も、休みを奪われる。それよりは、学校に登校する平日に部活動を開催したほうがマシという考え方である。

実際に、授業よりも部活動が優先される事態を問題だと認識しつつも、「正直に言うと、土日が休みになるので助かる」と心の内を明かしてくれた先生もいた。ブラック部活動の闇は、本当に深い。

部活動改革を実りあるものにするためには、大会の根本的な改革が必要である。それは、文部科学省や教育委員会だけではどうにもならない。中学校体育連盟や高等学校体育連盟・高等学校野球連盟の協力を得ることが不可欠である。

平日開催の問題だけでなく、冒頭で述べたとおり、私のもとには大会のあり方を問題視する声がたくさん届いている。今後、「リスク・リポート」において、継続的にこの問題を取り上げていきたい。

  • 補足:大会の平日開催については、たしかに私の中高時代の記憶でも、そういうことがあった。そしてここ数年各地で先生方と意見交換するなかで、大会が平日に開催されることを問題視する声も聞いてきた。だが私自身が、今日の実態を具体的に想像できないままに、問題を過小評価してきた。いま、全国からさまざまな情報が寄せられるなかで、平日の大会開催の問題点が私のなかで少しずつ「見える化」している。
名古屋大学大学院教育発達科学研究科・教授

学校リスク(校則、スポーツ傷害、組み体操事故、体罰、自殺、2分の1成人式、教員の部活動負担・長時間労働など)の事例やデータを収集し、隠れた実態を明らかにすべく、研究をおこなっています。また啓発活動として、教員研修等の場において直接に情報を提供しています。専門は教育社会学。博士(教育学)。ヤフーオーサーアワード2015受賞。消費者庁消費者安全調査委員会専門委員。著書に『ブラック部活動』(東洋館出版社)、『教育という病』(光文社新書)、『学校ハラスメント』(朝日新聞出版)など。■依頼等のご連絡はこちら:dada(at)dadala.net

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