実証実験! アイドルストップ車の劣化したバッテリーは、新品同様まで再生できるか!?
停車時に自動的にエンジンが止まるアイドルストップ装置を装備したクルマが増えてきました。燃費の低減には効果のある装置ですが、未装備のクルマよりもエンジンの始動頻度が高くなることから、バッテリーも強化型のものが使用されるようになり、交換時のコストが上昇。にもかかわらず、寿命は短くなっており「ユーザーのコスト負担が増えた」という批判も聞かれます。
僕のクルマにもアイドルストップ装置が付いており、最初の車検(3年)でバッテリーを交換しています。以前、乗っていたアイドルストップなしのクルマのバッテリーは5〜7年持ちましたから、このままでは約2倍の頻度で交換を続けることになります。アイドリングストップで燃料は節約できても、バッテリーの交換サイクルが早まったのでは、環境負荷が下げられているのか疑問に思わざるを得ません。
前回のバッテリー交換から3年が経過した最近、またしてもバッテリーの交換を勧められたのですが、部品代が約58,000円で、工賃が約3,000円とのこと。ネット通販で同等品を買えば20,000円ぐらいですし、交換作業は自分でできるのですが、廃バッテリーを出すのはエコではありません。
そこで、寿命の診断が下ったバッテリーの再生にチャレンジしてみました。
バッテリー劣化の原因物質”サルフェーション”をやっつけろ!
鉛バッテリーが劣化するのは、放電する際に電極版の鉛(Pb)と電解液の希硫酸(H2SO4)が反応して硫酸鉛(PbSO4)が生じ、これが結晶化(サルフェーション化)して電極版に付着し、反応面積が減ってしまうことが原因です。この結晶化した硫酸鉛を除去する技術として、高周波のパルス電流を流すという方法がよく知られており、大手自動車メーカーや自動車部品メーカー、電力会社の非常用電源の保守に使用されるなどの実績を上げています。同様の機能を搭載した自動車用バッテリー充電器も数多く市販されており、これを使えば、バッテリーを再生できるはずなのです。
「すでに実績があるのなら、再生できて当たり前じゃないの?」という声が聞こえてきそうですが、僕のクルマのバッテリーは、アイドルストップや充放電制御に対応させた「EFB(Enhanced Flooded Battery)」であり、このタイプを市販の充電器で再生させたという実績は、僕が探した限りでは出てきませんでした。ならば、自分で検証してみよう、というわけです。
健全性の目安は内部抵抗。電圧が回復しただけでは、性能は回復していない
バッテリーの劣化具合を表すのは、内部抵抗です。結晶化した硫酸鉛はほとんど電気を通しませんから、これが付着した面積が増えるほど、内部抵抗は高まります。バッテリーテスターの多くは、この内部抵抗値を健全度の判断基準にしています。
寿命宣告を受けたバッテリーの内部抵抗値を車載状態で計測すると、7.0mΩ(ミリオーム)ありました。新品状態でどれくらいなのかのデータはありませんが、健全度はわずか34%。エンジン始動能力を表すCCA(Cold Cranking Ampere)は、定格720A(アンペア)のところ、420Aまで低下していました。
果たしてこれが、どこまで改善できるでしょうか。
8時間ほど充電して計測してみたところ、CCAは515Aまで回復。内部抵抗も5.6mΩまで減少していました。早くも効果が感じられます。そこでふたたび充電器を接続し、13時間ほど充電した後、ワクワクしながら計測してみたのですが、なんと内部抵抗値は6.9mΩに増大。CCAは425Aまで落ちてしまい、健全度は34%に戻ってしまいました。
その後も充電を繰り返し、定期的にデータを取ってみたのですが、相変わらず数値は増減します。終止電圧は上がってきているし、内部抵抗やCCAも平均すれば微妙に改善しているのですが、なぜか数値が安定しないのです。しかし実験を繰り返しているうちに、あることに気がつきました。
内部抵抗の単位って、"ミリ"オームではないか!
電気工作用に持っている導通テスターでさえ、最小単位はΩで、測れるのは0.1Ωの位まで。バッテリーテスターは0.1mΩの単位まで計測しますから、その1000分の1。すなわち1000倍デリケートということです。となれば、バッテリーテスターのクリップ位置をどこに取るか程度の影響も受けるはず。これまでは単に「クリップしやすいから」との理由で、マイナス側は配線分岐部のボルトに、プラス側はジャンプスタート(バッテリーが上がった際に他車から電気をもらうこと)用の端子に接続していましたが、これをバッテリー端子のクランプナットにつなぎ替えたところ、内部抵抗は6.1mΩから4.5mΩへ、CCAは480Aから640Aへ、健全度は44%から79%へと大きく改善されたのです。
いや大失敗。これでは実験開始時のデータが信頼できませんから、実験そのものの信頼性が問われることになります。とはいえ、最初と同じクリップ位置でも計測してみると、内部抵抗は5.9mΩ、CCAは495Aと改善は見られているため、実験を中止してしまうのはもったいない。そこで信頼性を高めるため、バッテリーをクルマから外し、充電も計測も、バッテリーのターミナルで直接、行うことにしました。クルマは使えなくなりますが、新型コロナウィルスによる外出自粛で使用頻度が減っているのは好都合です。
直結充電&計測に切り替えた後は、数値は順調に改善し、実験開始から12日目、直結にしてから3日目には、ついにCCAは700Aまで回復。内部抵抗は3.9mΩ、健全度は94%まで戻りました。新品同様に戻ったとまでは言えませんが、これならまだ1〜2年は使えるのではないでしょうか。実際、このタイミングでクルマを使う用事ができたため、バッテリーをクルマに戻したのですが、実験開始前はほとんど機能しなくなっていたアイドルストップが、新品バッテリーに換えたかのように働き出しました。
従来型の開放型バッテリーでは、1〜2回の充電で定格レベルまで戻る例もあるようなので、それに較べるとEFBは回復が遅いという結果になりましたが、パルス充電で再生するという実験は、成功したと言って良いと思います。
さて、実はこの話には続きがあります。走行中にパルス電流を流すことでサルフェーションを分解する装置を付けてみたのですが、100kmほど走った後に再計測したら、CCAが710A、健全度は97%まで回復していたのです(内部抵抗値は変化無し)。
実はこの装置、以前、乗っていたクルマに付けていたことがあり、そのバッテリーは10万kmまで使うことができたので、クルマを買い換えた際に装置を移植したのですが、今度は効果が見られませんでした。そこで久しぶりにメーカーのサイトを見たところ、アイドルストップ車用バッテリー対応の新製品が出ており、「ダメ元」で買い換えてみたのですが、ぜんぜんダメではありませんでした(笑)。
今後、どの程度の効果を発揮してくれるかは未知数ですが、アイドルストップ装置を搭載したクルマにお乗りなら、「パルス充電器+バッテリー延命装置」のコンビネーションは、試してみる価値はあるのではないかと思います(すべてのケースにおいて効果を保証するものではありません)。
首尾良く再生できれば、廃バッテリーを出さずに済みますし、高価なバッテリーも買わずに済むので、エコロジー&エコノミーです。いったん再生できれば、充電器はそう頻繁に使うものではないので、共同購入して仲間内で使い回すのも良いのではないでしょうか。
2021/05/17 追記
当初、バッテリーのタイプはAGM(Absorbent Glass Mat)だと思って記事を書いておりましたが、FEBであることが判明しました。当該部分を訂正すると同時に、お詫び申し上げます。
2022/05/15 追記
ほぼ1年が経過したので、車載状態で再計測してみました。結果は以下の通りです。まだしばらくは使えそうですね。
電圧 12.34V
CCA 580A
内部抵抗 4.9mΩ
健全度 64%
判定 Good