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災害時、避難所での感染対策は? 医師と災害対策の専門家が解説

山本健人消化器外科専門医
(提供:AFRC_152/イメージマート)

13日深夜、福島県沖を震源とする地震が発生しました。

宮城県と福島県で震度6強が観測され、さまざまな被害が生じています。

気象庁は10年前の東日本大震災の余震と見られるとし、今後、土砂崩れや火災、建物の倒壊などに注意を呼びかけています。

また、現在すでに避難所に避難している方も多くいます。

新型コロナウイルス感染症の流行下においては、避難所での感染対策を重視する必要があります。

避難所では、やむを得ず狭い空間に大勢が集まって共同生活を行うことで、感染リスクが特に高まるためです。

この記事では、感染リスクの高い状況での災害対策に関して、災害対策の専門家、浜松医科大学健康社会医学講座の尾島俊之教授と、京都大学医療疫学分野研究員、米国感染症内科専門医・米国予防医学専門医の神代和明医師にお話を伺いました。

災害発生時、少人数・個別空間での避難を優先

災害発生時、最も大切なのが、分散避難です。

すなわち、水害による浸水や地震による津波、家屋倒壊の危険性がない場合は、感染リスクの低い自宅や親せき宅など、少人数・個別空間での避難を優先し、避難所への避難者を減らすことが優先されます。

画像制作:Yahoo! JAPAN
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そのためには、万が一の際の避難先を現時点で検討し、親類の間で情報共有を行っておく必要があるでしょう。

また、やむを得ず避難所へ避難しなければならない方々に対しても、できる限り「少人数・個別空間」が確保される必要があります。

そのためには、指定避難所に大勢が集まるのではなく、ホテル・旅館等の宿泊施設はもちろんのこと、避難所指定されていない公民館や企業等の研修施設、福利厚生施設、お寺や神社などへの避難を行うことも考慮しておく必要があるでしょう。

こちらも、やはり危機に備えた事前の情報共有、仕組み作りが大切になります。

また、新型コロナウイルス感染症が疑われる方が避難してきた場合は、感染者に対する差別や排斥を避けなければなりません。

一人ひとりの尊厳が守られるよう、病院への移送や、個室が確保できる場所へスムーズに誘導するなどの対処ができる仕組みを確立する必要があります。

避難所での感染対策

感染拡大を防ぐコンセプトは、前述の通り、まずは分散避難などにより「3密」にならない避難所にすることです。

厚生労働省ホームページより引用
厚生労働省ホームページより引用

避難所での3密対策として、テープ等による居住空間の区画表示、パーティションの利用、場合によっては屋根のあるテント等の利用が推奨されます。

家族間は1m以上(できれば2m)あけるのが望ましいでしょう。

画像制作:Yahoo! JAPAN
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また、災害が起きる前と同様に、手洗い・アルコール消毒、マスク着用を行うことが重要です。

換気は1時間に1回、10分程度など時間を決めて行い、窓を開けて窓の方向に扇風機などを向けて空気を循環させます。

食事や食器を運ぶ担当者は固定にする、避難者による自炊は中止する、食事の際は向かい合わず同じ方向を向いて座る、などの配慮も大切です。

共用のゴミ箱は蓋を触らずに捨てられる足踏み式を利用し、頻繁に鼻をかむ人は自分専用の小さいゴミ袋を使ってもらいます。

被災直後の混乱した状況下では、こうした対策は一段と難しくなりますが、可能な限り早い段階での仕組み作りが大切です。

さらに、電話やオンラインで避難所から保健医療調整本部や感染症の専門家等に相談できるような体制をつくることも望まれます。

避難所生活での体調管理

マスクを着用し、隣の人とは2m以上の距離を保ちましょう。

居住スペースに戻る時は、必ず手洗い・アルコール消毒を徹底します。

避難生活では体を動かす機会が減りがちで、生活不活発病(※1) やフレイル(※2) などにもなりやすいため、体操やストレッチ、ウォーキングなど、なるべく意識的に体を動かすことが大切です。

静脈血栓塞栓症(いわゆる、エコノミークラス症候群)の予防のために、水分もしっかりととるようにしましょう。

高血圧や糖尿病の方は、塩分やカロリーの摂り過ぎにならないよう、場合によっては避難所で配られる食事を全て食べずに残すことも大切です。

また、持病の薬は普段通り飲むのが基本です。

持病の薬があと数日でなくなりそうな時は、早めに医療チームや運営スタッフなどに相談しましょう。

ただし、食料が十分にない時に糖尿病の薬を普通に飲むと、低血糖発作を起こすことがあります。

そのような時にはどうすべきか、普段から主治医に聞いておきましょう。

また、毎日体温を測定し、発熱がある、体調が悪いなどのことがあれば、避難所の運営スタッフなどにすぐに知らせましょう。

※1 生活不活発病:「動かない」(生活が不活発な)状態が続くことにより、心身の機能が低下して「動けなくなる」こと(参照

※2 フレイル:高齢者において、健康な状態と要介護状態の中間で、身体の機能や認知機能が低下した状態のこと。要介護状態に進まないよう、適切な予防が大切です。

避難所に発熱や咳などの症状のある人がいたらまず「居住区分」の徹底を

避難者が10人以下のような小規模な避難所では、有症状者の受け入れはなかなか難しいと思われますが、指定避難所などのある程度の規模の避難所では、感染が広がらないためのしっかりした対応が望まれます。

この際、ゾーニング(居住の区分)の徹底が最も大切になります。

これに関しては、JVOADから発行されている「新型コロナウイルス避難生活お役立ちサポートブック」を参照していただきたいのですが、具体的には、一例として以下のようなチェックリストに基づき、居住区分をA―Dに分けるなどの対応を行います。

「新型コロナウイルス避難生活お役立ちサポートブック」2020年5月29日発行第2版(7月15日修正版)より引用。適宜改訂されますので、最新の版を参照下さい。)

こうした的確なゾーニングを行い、これを避難所のみんなが遵守することで感染拡大を防止します。

できる限り、入所時点でこうしたきちんとした取り決めを行うことが大切です。

また、感染者が増えると、地域において限られた数の保健医療専門職による支援が困難になるため、可能ならアプリ等のIT技術を用いて症状がある方を把握し、健康管理を行えると理想的です。

既に保健所による健康観察のためのアプリなどが使われ始めていますので、災害時に使えるシステムの開発も望まれます。

避難所では心の健康も懸念

感染の有無にかかわらず、避難者が心の健康を損なうことが懸念されます。

慣れない環境で感染リスクに備えて生活しなければならないことで、心理的に消耗する方が現れる可能性は高いでしょう。

気分が落ち込む、集中できない、眠れない、イライラする、などの症状は、心の疲れに関わる「注意すべきサイン」です。

このような反応は特別なものではなく、誰にでも起こりえます。

絵を描く、お気に入りの本を読む、音楽を聞く、運動するといった、リフレッシュできる活動をするよう心がけたり、体調に不安を感じる時は一人で抱え込まず、すぐに誰かに相談することが大切です。

SNSで人と話したり、動画や映画を見て気分をリラックスさせるのも効果的でしょう。

また、たくさんの情報にさらされると、必要以上に不安になってしまう恐れがあります。

信頼できるメディアのニュースを一日の決まった時間帯に見る、といった心がけも大切です

こうした対策も、「新型コロナウイルス避難生活お役立ちサポートブック」内の添付資料「こんなときどうすればいい? 心の健康Q&A」に詳しく書いています。

ぜひご参照ください。

避難所に持っていくべきものは?

持病の薬、お薬手帳、メガネ、入れ歯、補聴器など、自分用のものでないといけないものは必ず持って行きましょう。

また、これまでの災害では必須ではありませんでしたが、現状では避難所内の通路を歩くときなどのために、スリッパか上履きがあるとよいでしょう。

靴下や足の裏にウイルスが付着し、これを居住空間に持ち込むことで、接触感染のリスクが高まるためです。

リソースが限られた中で100%の理想を求めるのは難しいと思いますが、早い段階で家族間、親類間で対策に関する情報を共有していただけたらと思います。

【この記事は、Yahoo!ニュース個人編集部とオーサーが内容に関して共同で企画し、オーサーが執筆したものです】

(参考文献)

新型コロナウイルス感染症を踏まえた災害対応のポイント

避難所における新型コロナウイルス感染症への対応の参考資料について

新型コロナウイルス避難生活お役立ちサポートブック 第2版

消化器外科専門医

2010年京都大学医学部卒業。医師・医学博士。外科専門医、消化器病専門医、消化器外科専門医、感染症専門医、内視鏡外科技術認定医、がん治療認定医など。「外科医けいゆう」のペンネームで医療情報サイト「外科医の視点」を運営し、1200万PV超を記録。時事メディカルなどのウェブメディアで連載。一般向け講演なども精力的に行っている。著書にシリーズ累計21万部超の「すばらしい人体」「すばらしい医学」(ダイヤモンド社)、「医者が教える正しい病院のかかり方」(幻冬舎)など多数。

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