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安価な新型コロナPCR検査センターの課題 陽性だったが対応がとられず重症化した事例も

忽那賢志感染症専門医
記事に出てくる事例とは関係ありません(写真:西村尚己/アフロ)

自費でPCR検査を実施できる民間の検査センターが次々とオープンしています。

行政検査の対象外となるような方にも選択肢ができるという意味では良いことだと思われますが、いくつか解決されるべき課題があります。

自費のPCR検査センターでの検査が陽性だったが対応がとられず重症化した事例

最近は自費のPCR検査センターで検査した後に医療機関を受診される事例が増えてきました。

その中で問題のある事例がありましたので(個人が特定できないよう年齢・性別などを変えて)ご紹介します。

70代の女性が1週間前に自費の検査センターでPCR検査を行い、翌日に陽性の結果が返ってきました。

ご本人は自覚症状がなかったため陽性という結果に驚いたそうですが、検査センターからは特に受診の指示などはなかったそうで、自宅で様子を見ることにしたそうです。

徐々に症状が出現し、息苦しくなってきたため病院を受診したところ、体内の酸素の数値(酸素飽和度 SpO2)が70%と大きく低下していました。

SpO2の正常は98〜100%で、一般的に94%以下では酸素欠乏とされ酸素吸入が必要な状態です。

この方はすぐに入院し人工呼吸器を使用し重症管理が必要な状態になりました。院内で行ったPCR検査はやはり陽性でしたので、保健所にも届け出を行いました。

新型コロナの呼吸不全は「幸せな低酸素症"happy hypoxia"」と呼ばれるほど、体内の酸素が極度に低下していても自覚症状が強く現れないことがよくあります。

この患者さんもこのhappy hypoxiaにあったと考えられますが、来院した時点ではすでに「重症」の基準を満たす状態でした。

新型コロナの治療の考え方 doi:10.1016/j.healun.2020.03.012を元に筆者作成
新型コロナの治療の考え方 doi:10.1016/j.healun.2020.03.012を元に筆者作成

新型コロナでは発症からしばらくはウイルスが増殖している時期にあり、この時期にレムデシビルなどの抗ウイルス薬を使用することで重症化が防げる可能性があります。

しかし、重症化してしまった病態では、すでにウイルスの増殖ではなく過剰な炎症反応が主病態になっており、この時期には抗ウイルス薬は無効であり抗炎症作用を持つステロイドなどが使用されます。

前述の患者さんは、保健所に届けられていれば高齢者ですので現在の東京都の基準ではすぐに入院できて適切な治療を受けることができていたはずです。

しかし、自費のPCR検査のみ行われ保健所に届けられなかったため、重症化するまで入院できずに治療の機会を逃してしまったことになります。

検査センターでの課題は?

症状がない・濃厚接触歴がないなどの理由で行政検査の対象にならない方にとっては、自費でPCR検査が行える検査センターは良い選択肢となりえますが、陽性であった場合にきちんと保健所に届け出がされ、陽性例がそのまま放置されることがないようにしなければなりません。

厚生労働省は、

医師による診断を伴わない検査を提供する検査機関においては、あらかじめ提携医療機関を決めておき、被検者本人の同意を得た上で、検査結果が陽性となった者については、速やかに提携医療機関等に検査結果を連絡し、検査機関または提携医療機関等から被検者本人に対して、受診を推奨してください。提携医療機関がない場合には、利用者に受診相談センターまたは医療機関に相談するよう促してください。

厚生労働省「社会経済活動の中で本人等の希望により全額自己負担で実施する検査(いわゆる自費検査)について」

と注意喚起しており、適切に陽性例の対応がとられている検査センターが多いとは思うのですが、全ての検査センターで対応が徹底されることが望まれます。

また、検査センターでの陽性例には、医療機関で再検査すると陰性という「偽陽性」の事例も散見され、精度管理も課題と言えるでしょう。

これから検査センターでPCR検査を受けようと思っている方へ

これから検査センターでPCR検査を受けようと思っている方は、以下の点にご留意ください。

・発熱や咳などの症状や新型コロナ患者との接触歴がある場合は、行政検査の対象になる可能性がありますので、身近な医療機関に相談してください

・医師の判断の伴わない検査センターでのPCR検査で陽性だった場合、必ずその旨を事前に伝えた上で医療機関に相談してください

・PCR検査が陰性であった場合も「新型コロナではない」とは限りません。陰性証明書が感染対策をしなくてよい免罪符になるわけではない点にご注意ください。

安価な自費でのPCR検査が広がることは基本的には良いことだとは思いますが、検査センターの特徴・特性を理解した上で利用するようにしましょう。

感染症専門医

感染症専門医。国立国際医療研究センターを経て、2021年7月より大阪大学医学部 感染制御学 教授。大阪大学医学部附属病院 感染制御部 部長。感染症全般を専門とするが、特に新興感染症や新型コロナウイルス感染症に関連した臨床・研究に携わっている。YouTubeチャンネル「くつ王サイダー」配信中。 ※記事は個人としての発信であり、組織の意見を代表するものではありません。本ブログに関する問い合わせ先:kutsuna@hp-infect.med.osaka-u.ac.jp

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