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バイデン大統領署名「TikTok規制法」スピード成立の背景にある事情とは?

平和博桜美林大学教授 ジャーナリスト
By Solen Feyissa (CC BY-SA 2.0)

ティックトックが最長1年で売却されなければ、米国内で利用禁止になる――そんな「ティックトック規制法」が成立した。

法案は米上下両院でスピード可決され、ジョー・バイデン米大統領が4月24日に署名した。

売却期限は当初、半年とされていたが、最大で1年に延長。11月に米大統領選と連邦議会選を控え、特に若年層の有権者の反発を懸念した慎重派議員らも、賛成に回ったという。

ティックトックは法廷闘争の構えを見せており、決着にはなお時間がかかるとみられている。

中国政府も反発を強めており、「ティックトック規制法」成立に先手を打つ動きも見せていた。

●売却期限の延長を機に

議会は、バイトダンスやティックトック、その他の個別の企業を罰するために行動しているのではない。議会は、敵対国がスパイ活動、監視、悪意のある作戦を行い、弱い立場にある米国人、軍関係者や女性、米国政府の職員に危害を加えることを防ぐために行動している。

AP通信によると、「ティックトック規制法」の上院採決に先立つ4月23日、慎重派の1人だった上院商業・科学・運輸委員長のマリア・キャントウェル氏は、そう述べたという。

「ティックトック規制法」成立に対して、ティックトックの公式アカウントは4月24日、Xへの投稿で法廷闘争を明らかにしている。

この憲法違反の法律はティックトック禁止法であり、私たちは法廷で異議を申し立てる。事実と法律が私たちの味方であることは明らかであり、最終的には私たちが勝つと信じている。

ティックトックのCEO、周受資(チュウ・ショウジ)氏も、動画メッセージの中で「私たちはどこへもいかない」と語っている。

「ティックトック規制法」は、ウクライナ、イスラエル、台湾への950億ドル規模の支援を含む包括法案に含まれ、下院で4月20日に可決。上院でも4月23日に可決され、翌24日にバイデン大統領が署名という、目まぐるしい運びとなった。

「ティックトック規制法」の当初案は3月に下院で可決されたが、上院ではキャントウェル氏を含めて慎重論も根強かった。

※参照:「安全保障の脅威」「表現の自由」米を揺るがす“TikTok規制法”、その本当の怖さとは?(03/18/2024 新聞紙学的

ティックトックの親会社、バイトダンスが中国政府の統制下にあるため、米国ユーザーの個人データが流出し、国家安全保障上の懸念がある――それが、法案の主張だった。

このため、半年(180日)の期限内でのティックトックの売却を求め、それが実現しない場合には米国内でのアプリ配信を禁止するという内容だった。

これに対して今回、改めて包括法案に盛り込まれた条文では、売却期限は3カ月延長されて9カ月(270日)となり、大統領判断でさらに3カ月(90日)の延長ができるとした。

ワシントン・ポストなどによれば、この売却期限の延長が、慎重派の支持を広げるポイントになったという。

「ティックトック規制法」に対する慎重論の理由の1つは、有権者でもある若者層が多いユーザーの反発だった。

売却期限が半年の場合、11月に予定される米大統領選と連邦議会選の前にティックトックがサービス停止となってしまう可能性があった。

9カ月から1年に延長されれば、売却期限を迎えるのは選挙後の年明け、2025年となる。

●「個人識別可能な機微データ」保護法の成立

慎重論のもう1つの論点は、米国民の個人データ保護の実効性だ。

米国には個人データ保護のための連邦法が存在せず、ティックトックのみを規制しても、個人データはデータブローカー(取引事業者)経由で国外に流通する、との懸念が指摘されていた。

ワシントン・ポストによれば、この問題への対応も、包括法案には盛り込まれていた。

包括法案には、「敵対国からの米国人データ保護法」という法律も含まれている。

同法では、敵対国、もしくは敵対国の統制下にある組織に対して、「データブローカーが、米国人の個人識別可能な機微データを販売、ライセンス供与、貸与、取引、譲渡、公開、開示、アクセスの提供、またはその他の方法で利用可能にすることは、違法とする」としている。

敵対国とは、北朝鮮、中国、ロシア、イランの4カ国を指す。

対象とするデータは、社会保障番号、パスポート番号などのIDから医療情報、金融情報、生体認証情報、遺伝情報、通信情報、アカウント情報、オンラインサービスなどの利用履歴情報などが含まれる。

つまり、米国ユーザーの個人データの流出に対して、ティックトック経由だけでなく、データブローカー経由のルートにも網をかけた、という建て付けになっている。

●中国によるアップルのアプリ削除命令

「ティックトック規制法」の推進では、「国家安全保障」を理由に掲げた。そして、その成立に先んじて、中国も「国家安全保障」を理由として、米国のアプリの削除を命じていた。

ウォールストリート・ジャーナルは4月18日、アップルが中国のアップストアから、メタのメッセージアプリ「ワッツアップ」と短文ソーシャルメディア「スレッズ」、さらにメッセージアプリの「シグナル」と「テレグラム」を削除した、と報じている。

アップルは、削除理由として、中国政府から「国家安全保障上の懸念」を理由とした削除指示があった、としている。

中国外務省は、3月に当初案の「ティックトック規制法」が下院で可決された際に、「いわゆる国家安全保障上の理由が、他国の優れた企業を意図的に抑圧するために使われるのであれば、公平性などというものは存在しない」とのコメントを出していた。

「国家安全保障」を掲げたアプリ規制の衝突の構図と見える。

●違憲判断と法廷闘争

ティックトックの公式声明が「事実と法律が私たちの味方」としている根拠の1つが、米連邦地裁の判断だ。

ティックトックの州内での使用を禁止した全米初モンタナ州法(2023年5月成立)に関して、連邦地裁は2023年11月、「表現の自由」を保障する憲法修正第1条に抵触する可能性が高いとの判断を示し、ティックトックが申し立てた差し止めの仮処分を認めている。

トランプ政権時代の2020年に、ティックトックの売却を要求した大統領令も、連邦地裁による差し止め判断が示されていた。

「ティックトック規制法」成立により、米国内の多数のユーザーは、米中対立のはざまに置かれる。米人権団体も声を上げている。

バイデン大統領は、ティックトックを事実上禁止する法案に署名したところだ。私たちは主張し続ける。この禁止は、プラットフォームを使用する1億7,000万人以上の米国人の憲法修正第1条の権利を直接侵害するものだ。

米自由人権協会(ACLU)は4月24日、そんなコメントをXに投稿している。

米人権団体「民主主義・テクノロジーセンター(CDT)」も、「ティックトックのデータセキュリティの問題は、他のプラットフォームでも同様だ。それらに対処する方法は、包括的な消費者プライバシー法を制定することだ」との声明を出している。

舞台は議会から法廷に移る。

(※2024年4月25日付「新聞紙学的」より加筆・修正のうえ転載)

桜美林大学教授 ジャーナリスト

桜美林大学リベラルアーツ学群教授、ジャーナリスト。早稲田大卒業後、朝日新聞。シリコンバレー駐在、デジタルウオッチャー。2019年4月から現職。2022年から日本ファクトチェックセンター運営委員。2023年5月からJST-RISTEXプログラムアドバイザー。最新刊『チャットGPTvs.人類』(6/20、文春新書)、既刊『悪のAI論 あなたはここまで支配されている』(朝日新書、以下同)『信じてはいけない 民主主義を壊すフェイクニュースの正体』『朝日新聞記者のネット情報活用術』、訳書『あなたがメディア! ソーシャル新時代の情報術』『ブログ 世界を変える個人メディア』(ダン・ギルモア著、朝日新聞出版)

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