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吉住「まだ呪いの中にいる」加納「もうダサくてもいい」ーー芸人たちはどう生きるか トガりの先にあるもの

てれびのスキマライター。テレビっ子
『あちこちオードリー』(テレビ東京)のTVerサムネイル画像より

9月13日の『あちこちオードリー』(テレビ東京)では、ファーストサマーウイカ、井桁弘恵、吉住が出演し、恒例企画「芸能界が生きやすくなる参考書を作ろう!」がおこなわれた。これはそれぞれが実体験で得た芸能界での「教訓」を語るものだ。

吉住といえば、2020年に開催された女性芸人ナンバー1を決する『THE W』(日本テレビ)で優勝を果たし、それを機に数多くのバラエティ番組に出演するようになった。

2022年からは、テレビ朝日の深夜枠「バラバラ大作戦」で蛙亭・イワクラとの冠番組『イワクラと吉住の番組』がスタート。同番組は、今夏におこなわれた「第6回バラバラ大選挙」でグランプリに輝いた結果、10月から「スーパーバラバラ大作戦」の枠に昇格することが発表されている。

とはいっても吉住は、『THE W』の他にも『R-1グランプリ』にも2年連続決勝進出したり、岡野陽一と組んだユニット「最高の人間」で『キングオブコント』にユニットとして初めて決勝進出したりと、バラエティ番組での活躍以上にネタの強さに定評のある芸人といえるだろう。

今年3月に開催された「東京03 FROLIC A HOLIC feat. Creepy Nuts in 日本武道館 なんと括っていいか、まだ分からない」では、演じ手としての強烈な凄みも見せつけた。このライブで作家を務めたオークラも「吉住は、あの世代の中で笑いのテクニックではなくて、自分の感情をお客さんに届けられるパフォーマンス能力を持っている。それって本当に才能がないとできないと思うんですけど、それができるのはすごい」(「マイナビニュース」23年6月25日)と絶賛している。

対象的なウイカと吉住

そんな吉住の「教訓」がウイカとはある意味対照的なのが興味深かった。

ウイカは「BiS」や「BILLIE IDLE」解散後、『女が女に怒る夜』(日本テレビ)出演を機にバラエティ番組に本格進出。緻密なセルフプロデュースで瞬く間にバラエティタレントとして脚光を浴び、ドラマ・映画にも活躍の場を広げ、ついに2024年のNHK大河ドラマ『光る君へ』のメインキャストのひとり、清少納言役を務めることが発表されている。

ウイカが最初に出した教訓はこうだ。

ウイカ「スタジオで出しきれなかった時の保険に打ち合わせでポテンシャルだけは見せつけておこう!

打ち合わせから戦いは始まっている、実は打ち合わせがオーディション、まずは自分ができる「お品書き」をスタッフに見せろ、そうした1周目で自分を出すことが大事で、仕事が繋がっていくのだと。ウイカが語ると非常に説得力のある話だ。と同時に、必ずしも本番で結果を残せなくても救いがある話でもある。

一方、その直後に吉住が発表した「教訓」は真逆ともいえるスタンスのものだった。

吉住「1周目で自分のことをわかってもらおうという気持ちは捨てたほうがいい

これは女性タレントと芸人とで番組に求められる役割の違いからくるものかもしれない。

芸人は番組を成立させるために「こういうポジションで出てください」と求められることが多い。だから「自分の色とかセンスを見てもらおうとかはマジでどうでもよくて。そんなのは制作の邪魔でしかない」と吉住は言う。「道化9:自分1」というスタンスだったという。

求められていることをやる。それが仕事」だと。

そうした中で、自分のキャラとは遠いものを求められる番組には出ないようになったという。

続いてウイカが発表したのはこんな「教訓」だった。

ウイカ「凡人だと自覚したなら1人でも多くの天才と仲間になれ

天才たちと戦っちゃダメだと気づいたときに呪いから解放されて精神的に楽になったのだと。

一方の吉住は「私はまだ呪いの中にいます」と笑う。「10年後見てろよと思いながら芸能界を渡っています」「誰もいないところに行こうと思ってる」と。

そんな吉住が出した「教訓」はこうだ。

吉住「特にピン芸人は誰かのフリになるような弱めのエピソードはアンケートにも書かないようにする

相方に話しを振ってもらえないピン芸人は、フリにされがちだし、自分のおちゃめな話も自分でするしかない。そうすると、「自分のエピソードを意気揚々と喋ってる」みたいになってしまう。それだけで終わらせないために「エピソードに自分の思想や考えを入れる」ように心がけているという。

打ち合わせでスタッフに「もうちょっとないですか?」と問われても、弱めのエピソードを数出すよりは「ないです」とキッパリと答えるそう。

吉住「私はスタッフさんにいい顔しないです

とても強くて逞しい。

井桁もまたウイカとも吉住とも違うスタンスを語っていて三者三様の戦い方がわかってとても興味深い。バラエティ番組における「正解」がひとつではないことを証明している。

(※『あちこちオードリー』の当該回はTVerで視聴可能)

Aマッソの場合

ネタに定評のある女性芸人といえば、Aマッソも思い浮かぶだろう。

9月12日の『アンタウォッチマン』(テレビ朝日)では、Aマッソが特集された。

「天才っぽい空気を出してトガッていた2人」と紹介されるほど、下積み時代は他を寄せ付けなかった。加納も「馴れ合う気がなかった。売れてない奴ら同士で飲みに行って何がどうなんねん」と当時を振り返る。「自分たちのアイデンティティはネタしかない」と思っていたという。

2015年にテレビ初出演となる『笑けずり』(NHK BSプレミアム)で準優勝を果たし、お笑いファンの注目を浴びると、翌年の『M-1グランプリ』(テレビ朝日)で準決勝進出。それを機にネタ番組に多く呼ばれるようになっていく。しかし、ネタ以外の番組に呼ばれることはなかった。

加納「むちゃくちゃ可愛くなかったからやと思う。その当時の私たちに呼びたいという要素はひとつもない」「劇場でしか自分たちを出す場がなかった。発注されるとか、こういうことをやれっていう経験がないまま偉そうに劇場で芸歴だけ積み重ねてきたのがよくなかった

そんな中、アイデンティティであるネタでも、賞レースで結果がでなくなっていく。と同時に賞レース至上主義のような価値観にも疑問を持ち始め、ついに2019年、賞レースには出ないという宣言をする。

しかし、近しい芸人が賞レースで結果を出し脚光を浴びているのを見たことや、コロナ禍で主戦場であるライブを失ったことが重なり大きな危機感を抱いたという。

そこでAマッソは恥を忍んで早くも前言撤回。

2020年、コンビで出場できるすべての大型賞レース番組に再挑戦するのだ。

しかし、無情にも期待された結果には繋がらなかった。

逆にバラエティ番組には、多くの番組に呼ばれるようになっていく。

加納「こんな恥ずかしい思いをして出たのに負けるんかい! ダサっていう…。でも結構それで自分たちがダサいところを世間に晒していくことの怖さがなくなっていった

つまり、「もうダサくてもいっか」という新境地にたどり着いたことで、本来持っていた自分たちの魅力的な人間味を出せるようになっていったのだ。

以前と現在とでどちらが疲れるかと聞かれた加納は、柔らかい表情でこう答えた。

加納「昔のほうが疲れます

芸人のバラエティ番組での戦い方にも「正解」はない。ただ間違いなくいえるのは「その人らしさ」が無理なく表現できるようになったときに成功の道がひらかれるということだろう。

(※『アンタウォッチマン』の当該回は、TVerで9月20日1:33まで視聴可能)

前出の『あちこちオードリー』で井桁の「プライベートの豊かさがワイプの豊かさにつながる」という「教訓」を受けてオードリーの若林正恭はこう語っている。

若林「芸能界って人気商売じゃん。人気って『気』っていう字をつかう。何らかの気が充実している人って人気が出ると思ってて、元気、勇気、活気、なんなら殺気でもいい。でも忙しくて気が滅入ってくるとやっぱ人気なくなるんだよ」「普段楽しく生きてないと伝わるんだよね、テレビって

ライター。テレビっ子

現在『水道橋博士のメルマ旬報』『日刊サイゾー』『週刊SPA!』『日刊ゲンダイ』などにテレビに関するコラムを連載中。著書に戸部田誠名義で『タモリ学 タモリにとって「タモリ」とは何か?』(イースト・プレス)、『有吉弘行のツイッターのフォロワーはなぜ300万人もいるのか 絶望を笑いに変える芸人たちの生き方』、『コントに捧げた内村光良の怒り 続・絶望を笑いに変える芸人たちの生き方』(コア新書)、『1989年のテレビっ子』(双葉社)、『笑福亭鶴瓶論』(新潮社)など。共著で『大人のSMAP論』がある。

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